ふたたび黄疸症例
問題42
66歳の男性。1か月前から便が灰白色になってきていた。高血圧症で近医通院中に黄疸を指摘され、当院受診となった。
現症:眼瞼結膜、皮膚に黄疸を認める。腹部には特に異常所見を認めず。
検査所見:血液所見:白血球 5900/μL、Hb 10.5 g/dl、Hct 30.3%、血小板 26.3万/μL、血液生化学所見:TP 7.8 g/dL、AST 142 U/L、ALT 130 U/L、ALP 2150 U/L、γ-GTP 422 IU/L、総ビリルビン 18.3 mg/dL、直接ビリルビン 12.6 mg/dL、AMY 214 U/L、FBS 106 mg/dL、HbA1c 6.2%、γ-glob 46.7%、CEA 2.1 ng/mL(基準 5以下)、CA19-9 65 U/mL(基準 37以下)
腹部造影CT画像
内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)画像
本疾患でみられる可能性のある症状はどれか。
(a)下痢
(b)意識障害
(c)嗅覚障害
(d)味覚障害
(e)難聴
解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』第3版の症例46)
自己免疫性膵炎の症例である。この問題には提示していないが、腹部超音波検査によって、胆管系を追うと、肝内胆管から総胆管まで拡張しており、閉塞性黄疸が疑われた。膵頭部から尾部にかけてびまん性の膵腫大が認められたが明らかな腫瘍性病変を認めず。また主膵管は膵頭部も含めて膵内を貫き(duct-penetrating sign)、明らかな狭窄を認めなかった。このサインはこの膵腫大が良性のものであることを示唆するものであるためその視点でCT検査を施行した。今回提示した造影CT画像でも、肝内胆管から総胆管まで拡張がみられ(図1:赤矢印;肝内胆管拡張、黄矢印;総胆管拡張)、閉塞部位は膵内胆管レベル(図1:青矢印)と考えられ、やはり膵臓はびまん性腫大(ソーセージ様腫大と表現されることが多い、図1:赤矢頭)をみるも明らかな低吸収域や造影欠損を認めなかった。良性の膵腫大をみたとき、これが通常の膵炎なのかどうか、さらに、膵炎で、胆管の閉塞がきて、黄疸がでたのかどうかを考えるための検査を加える必要がある。まず採血検査ではγ-グロブリンもかなり高い点に注目してほしい。こうした例では、自己免疫反応によって生じた特殊な膵炎である自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis; AIP)を考え、抗核抗体、IgG、さらにIgG4というIgG分画を測定してみる。本症例ではIgG 3612 mg/dl、IgG4 526 mg/dl (正常値 135未満)、抗核抗体320倍といずれも高く、AIPを強く疑った。
図1:造影腹部CT。肝内胆管拡張(赤矢印)、総胆管拡張(黄矢印)、膵内胆管部での狭窄(青矢印)、びまん性膵腫大(赤矢頭)が認められる。
図2:ERCP画像。主膵管はびまん性の不整狭細化を認め(赤矢印)また、一部に正常径の膵管も残っていて(黄矢印)広狭不整の像となっていた。
本例でERCPを行った結果、主膵管はびまん性の不整狭細化を認め(図2:赤矢印)また、一部に正常径の膵管も残っていて(図2:黄矢印)広狭不整の像となっているなど膵管狭窄型膵炎の所見はAIPに特徴的である。膵内胆管のスムーズな狭細像(図2:青矢印、ファイバーで少しブラインドとなっているが、後で示すENBD施行後の造影でわかる)を認めた。一方胆管狭窄は、膵癌や胆管癌とは異なり、膵炎により膵臓がはれたためにまわりから膵内胆管がしめつけられて胆管が狭窄する場合や、AIPの膵外病変として胆管炎が原発性硬化性胆管炎(PSC)様の狭窄をとる場合とがある。いずれにしても良性狭窄像である。
本疾患はステロイドによく反応するので、膵癌や胆管癌などと診断して胆道ステント留置や抗癌剤など始めることなどないように、また膵臓が腫大しているからといって通常の膵炎の治療をしていてもなおらない。
解答:(d)
実際の症例では
ERCPの際、内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(endoscopic nasobiliary drainage)も施行し、翌日よりプレドニゾロン(プレドニン®)40 mg/日から開始し漸減したが、徐々に黄疸は軽快消失した。2週間後にENBDチューブから胆道造影し胆管狭細像の改善を確認し、チューブを抜去した。6週間後のCTでは膵腫大も軽快し、現在再燃はない。
図3:(a)ENBDからの造影。膵内胆管レベルでのスムーズな狭窄がみられる。(b)治療開始から6週間目の造影CT。膵腫大は消失している。