サッカー中に呼吸困難

問題19

11歳の男性。サッカーのキーパーでボールを受けたり、横跳びをしたりしていた。試合中に前胸部痛、呼吸困難感を自覚したため救急受診された。

既往歴:特記事項なし。

喫煙歴:(-)。

現症:意識清明。血圧 112/56 mmHg、脈拍 64/分、体温 36.5℃、Spo2 99%(room air)。肺野は両側清。心音整。病的心雑音聴取せず。頚部に軽度の握雪感を認める。

検査所見:血液所見:白血球 6700/μL(好中球 64.4%、リンパ球 27.0%、単球 6.6%、好酸球 1.7%、好塩基球 0.3%)、赤血球 489万/μL、Hb 13.2 g/dL、Hct 39.8%、血小板 21.6万/μL。血液生化学所見:LDH 227 U/L、Cr 0.50 mg/dL、CRP 0.05 mg/dL

動脈血ガス分析(room air)pH 7.42、PCO2 38 Torr、PO2 98 Torr

胸部単純CTを示す。

この患者に対する対応として最も適切なものはどれか。

(a)縦隔ドレナージ

(b)高圧酸素療法

(c)気管支鏡検査

(d)抗菌薬投与

(e)経過観察

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』にはないが院内で行った内科症例検討道場で症例271として扱ったもの)

現症では頚部に軽度の握雪感を認め、胸部CTでは気管、気管支、血管の周囲に沿ってエアーの貯留が認められ皮下気腫、縦隔気腫を考える。発症した状況から判断して、サッカーのプレイ中に何らかの物理的な誘因が加わって、気道内圧の上昇し、肺胞も含めていずれかの気道が破綻した結果、縦隔内にエアーがもれたものと思われる。

縦隔気腫は元来存在しないはずの遊離空気やガスが縦隔内に存在する状態をいう。発症機序としては、何らかの物理的誘因(例えば激しい咳嗽、重い物の持ち上げ、吹奏楽器演奏、出産、人工呼吸、排便、過大呼吸)がひきがねとなって、あるいは、基礎疾患(気管支喘息、間質性肺炎など)がベースにある中で、肺胞内圧が上昇し肺胞が破錠し、漏れた空気が肺血管鞘の被膜を剝離し、気管支壁外の肺血管に沿って肺門部に達すると考えられている。新生児にはよくみられるが、成人にみられることは比較的稀である。また胸部外傷や、手術・内視鏡検査及び治療など医原性誘因で気管支あるいは食道に穿孔が生じて起こる場合もある。

自覚症状は、漏出したエアーの量によってさまざまであり、無症状のこともあり、本症例と同様、突然の胸痛や呼吸困難を呈することもある。90%以上の症例で頚部、胸壁に皮下気腫を合併し、この場合、触診すると、雪を握って固める時にギシ、ギシ、とさせる、いわゆる握雪感を認める場合が多い。聴診では、前胸部に心拍に合わせてバリバリという雑音(crunching sound)を聴取するHamman徴候が認められる。これは心臓の拍動によって縦隔内の気体が圧迫される音と考えられている。

ほとんどの縦隔気腫は医原性誘因ではなく、サッカー中の肺胞破綻が原因と考えられるため、安静による気腫の自然吸収が期待できる。鎮咳、鎮痛、安静をはかり約1週間で自然消退する。

解答 (e)

実際の症例では

一般に縦隔気腫の1/3の症例では胸部単純レントゲン写真の正面像だけでは指摘できないことも報告されている。今回の症例でもCTをみたうえで胸部単純レントゲン写真の正面像で頚部の気腫像がわかり、1週間後には消失していることがわかった(図1)。

図1:単純胸部レントゲン写真。左が救急受診時、右は第7病日。救急受診時には気管に沿って気腫像が認められている(赤破線内)。第7病日には消失している。

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