失神発作の原因は?

問題63

79歳の男性。失神発作。

現病歴:9か月前頃よりめまいを起こし、胸部圧迫感を月に4回ぐらい自覚し、時に失神発作も伴うこともあり近医受診。近医からの照会で6か月前に当院受診され、4か月前には心臓カテーテル検査を行ったが冠動脈に有意狭窄を認めなかった。その2日間の入院中に心電図モニターで監視したが、特に問題となる不整脈はみられなかった。2か月前に頻回に失神をきたすようになった。常に老々介護のため入院加療を勧めるも2日で退院を希望される。定期内服薬は高血圧症に対してアジルサルタン20 mg/アムロジピン 2.5 mg配合(ザクラス配合錠LD®)1錠/日を内服中。5年前から処方され特に増量はない。

現症:血圧 155/85 mmHg、脈拍 61/分、整。体温 36.1℃、Spo2 97%。意識清明。皮膚、可視粘膜に貧血、黄疸なし。頸静脈怒張を認めない。胸部は両側呼吸音清。心音は整、病的心雑音聴取せず。腹部は平坦、軟。圧痛なし。腸蠕動正常。腫瘤触知せず。下肢に浮腫なし。

安静時心電図は3度とる機会があったが基本的に同様の心電図だった。

(1)次に提案するべき検査や治療はどれか。

(a)定期的な心電図検査

(b)定期的なホルター心電図検査

(c)植込み型心電計(ループレコーダー)導入

(d)カテーテルアブレーション

(e)負荷心電図

軽い失神発作時の心電図を示す。

(2)対応として適切なものを1つ選べ。

(a)経過観察

(b)ペースメーカー挿入

(c)電気ショック

(d)心臓マッサージ

(e)植込み型除細動器(ICD)の導入

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』にはないが院内で行った内科症例検討道場で症例252として扱ったもの)

 今回の症例はくりかえす失神発作である。めまい症状で、ひどい場合によっては失神を起こすということであるが、問診上重要な点は、胸部圧迫感に時折めまい、場合によっては失神を伴っているということである。このことからは心原性の脳血流不全が生じているのではないかと疑う。次に心電図をみると、肢誘導ではっきりとP波がでており、これときっちり間隔をあけてQRS波が出現している。このQRS波はQRS幅が広いので脚ブロックであるとわかる。V1~V3で幅広いS波がありQS型あるいはrS型のQRS波形となり、V6でQ波が欠如しMパターンを呈している。これは左脚ブロックのパターンである。しかもQRS幅は0.10以上0.12秒未満の時を不完全、0.12秒以上を完全、と脚ブロックと定義するので、今回の症例は完全左脚ブロックである。しかもPR間隔が0.20秒を超えており1度房室ブロックも合併している(図1)。

図1:安静時12誘導心電図。

 一般に右脚ブロックはあまり臨床的に問題になることが少なく、特に、心機能が正常の右脚ブロックの予後は良好とされている。しかし左脚ブロックは背景に心疾患を有することが多く、この波形を呈しているということは左脚前枝と後枝の両者が障害されることを意味するため、かなり広範囲の心筋障害などの変化を反映していることが多い。具体的には、虚血性心疾患、高血圧性心疾患、心筋疾患、弁膜症など臨床的な意義が大きい疾患に認められる。左脚ブロックを呈する患者の予後としては、心不全を呈してこれが増悪したり、両脚ブロックに移行して完全房室ブロックとなったりすることもある。今回の症例は、問診からの情報の範囲では、慢性心不全が出現してこれが増悪しているという経過というよりも、発作的に完全左脚ブロックが一過性に完全房室ブロックに移行していることを疑わせる症状といえる。しかも心電図から考えられるイメージとしては心房から心室への伝導回路のうち重要な左脚の回路はすでにブロックされ、かろうじて右脚のみでがんばっていた房室伝導であるが、その房室伝導そのものも遅延している状態であり、完全房室ブロックへの移行リスクが高い症例であると考えられる。

 ところが、心臓カテーテル検査でも冠動脈の有意狭窄はなく、問題となっている完全房室ブロックへの移行についても2日間の心電図モニターでもとらえられなかったのである。そこで次に提案したい検査はループレコーダー(Implantable Loop Recorder;ILRあるいはInsertable Cardiac Monitor;ICM)である(図2)。

図2:ループレコーダー(Implantable Loop RecorderあるいはInsertable Cardiac Monitor)

これは通常の診断方法では検出困難な不整脈発作が発生した際の心電図を自動記録する植え込み式の器械である。今回のような原因不明の失神症例に対しては、心原性失神と非心原性失神との鑑別に用いられる。この心電計をマニュアルあるいは自動起動しておくと、イベント前の心電図記録が保存されるので、失神前後の心電図が連続して記録され、失神が不整脈など心臓に起因するものかどうかを判別できるのである。

今回の症例に対して、ILRが植え込まれた。軽い失神時に心電図が記録され明らかに発作性の完全房室ブロックが生じていた(図3)。記録をみると、最初、規則正しくP波がでており(赤矢印)一部のP波はQRS波やT波に隠れている(赤破線矢印)。しかしQRS波は全くつながっておらず完全房室ブロックが生じているが、そこに規則正しい補充調律もみられている(緑矢印)。これはもともとの左脚ブロック波形ではなく右脚ブロック波形であり、もともとブロックされている左脚の部位より、より下位の左脚からの補充調律と考えられる。時折、心室性期外収縮(PVC)が出ている。2段目ではもともとの左脚ブロックの波形となって頻脈性の発作性心房細動があり、その後、補充調律を伴わない完全房室ブロックが突然出現している。その後、右脚ブロック型の補充収縮が出た後、もとの左脚ブロック波形の心房細動にもどり、時折、PVCもみられている。

図3:失神発作時のループレコーダーの記録。

以上より、永久ペーシングの適応となり、ペースメーカーが植込まれた。植込み後の心電図を示す(図4)。スパイク(赤矢印)が規則正しくみられペースメーカー調律となっている。

図4:ペースメーカー植込み術後の心電図。

解答:(1)(c)、(2)(b)

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