敗血症を評価すると?

問題79
患者は60歳、男性。悪寒と右側腹部通を主訴に来院された。
既往歴:59歳で腎動脈下腹部大動脈、右腸骨動脈の動脈解離でステントグラフト留置術を受け、経過良好だった。
飲酒歴:社交飲酒。
現病歴:3日前から37.8~38.4℃の発熱が出現した。2日前から軽度右側腹部痛が出現。本日、悪寒も出現したため当院救急受診された。
現症:意識清明。血圧 92/58 mmHg、脈拍 112/分、整、体温36.9℃、診察中に悪寒があり39.9℃となった。呼吸数24回/分、Spo2 90~91%。眼瞼結膜に貧血、黄疸なし。心肺に異常所見なし。腸蠕動は正常、右側腹部から下腹部に圧痛あり。筋性防衛も軽度認める。反跳痛なし。四肢に麻痺なし。
検査所見:血液所見:白血球1800/μL(桿状核球20.0%、分葉核球51.0%、リンパ球28.0%、好塩基球1.0%)、赤血球445万/μL、Hb 14.5 g/dL、Hct 42.8%、血小板 9.4万/μL。生化学所見:TP 6.4 g/dL、Alb 3.9 g/dl、総ビリルビン0.8 mg/dL、AST 50 U/L、ALT 60 U/L、ALP 375 U/L、LDH 194 U/L、AMY 52 U/L、CPK 95 U/L、BUN 14 mg/dL、Cr 1.18 mg/dL、Na 138 mEq/L、K 3.2 mEq/L、Cl 102 mEq/L、CRP 12.27 mg/dL
尿検査 タンパク(2+)、ウロビリノーゲン(±)、ビリルビン(-)、ケトン体(-)、糖(-)、潜血(2+)
腹部CTを示す。動脈瘤については、1か月前に他院で撮影された所見と変わりなし。

この患者のquick SOFAスコアの組合わせで正しいのはどれか。1つ選べ。

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』第3版の症例34)
右側腹部から下腹部の痛みの原因をCTから考える。画像では腸管壁から突出する憩室が複数みられ(図1赤矢頭)、そのあたりの腸管壁の肥厚(図1緑矢印)、回腸末端も含めてその周囲の腹膜脂肪織の濃度上昇(図1黄矢印)がある。他の脂肪織(図1青矢印)と比較すれば濃度の違いが明瞭である。限局性腹膜炎を伴う大腸憩室炎と考えられる。(なおリング状の高濃度が右総腸骨動脈にみられるのがステントグラフトである。)この消化管感染症が重症化して、血圧低下、頻脈など臓器障害をきたしており、敗血症と考えられる。今回の問題は敗血症の病態を診断するための簡易スコアであるquick SOFAスコアが問題にされている。

図1:腹部単純CT。腸管壁から突出する憩室が複数みられ(図1赤矢頭)、そのあたりの腸管壁の肥厚(図1緑矢印)、回腸末端も含めてその周囲の腹膜脂肪織の濃度上昇(図1黄矢印)がある。他の脂肪織(図1青矢印)と比較すれば濃度の違いが明瞭である。限局性腹膜炎を伴う大腸憩室炎と考えられる。(なおリング状の高濃度が右総腸骨動脈にみられるのがステントグラフトである。)

敗血症は感染に伴う全身性炎症反応とそれに引き続き生じる臓器障害である。敗血症の定義は歴史的に変遷している。まず全身性炎症反応症候群(Systemic inflammatory response syndrome;SIRS)という概念が提唱された。SIRSの定義は、1)体温の変動(38度以上または36度以下)、2)脈拍数増加(90回/分以上)、3)呼吸数増加(20回/分以上)またはPCO2が32 Torr以下、4)白血球数が12,000/μL以上または4,000/μL以下、あるいは未熟顆粒球が10%以上、となっている。このSIRSは外傷、熱傷、膵炎などでも生じるなかで、感染症から生じるSIRSが敗血症と以前は定義されていたのである。
ところが、敗血症はその他にもさまざまな症状や兆候を呈することや、多くの感染症の症例で比較的容易にSIRSの定義を満たしてしまうため、感染症の予後予測因子とはなりにくいこと、などから2016年に新しい診断基準が提案された。この定義では、敗血症が感染症によって生じる臓器機能不全であるという点に重点が置かれ、新たにSequential(Sepsis-related)Organ Failure Assessment(SOFA)スコアが提唱され(表1)、敗血症は、このスコアが2点以上の上昇があることと定義された。また敗血症性ショックとは、この敗血症があってかつ適切な輸液をしても平均血圧65 mmHg以上に維持するためにカテコラミンの使用が必要、かつ血清乳酸値2 mmol/Lを超えている状態(致死率40%以上と報告あり)をいう。なお、集中治療室などの臓器障害を起こしている重症患者の診療で時々刻々と変化していく状態にSOFAスコアは適しているが、集中治療室以外の環境では評価が難しいことや、重症感染でありながら臓器障害をまだきたしていない時期の患者の中から重症化する患者をスクリーニングするためにも簡便なquick SOFAスコアが提案された(表2)。救急外来や一般病棟の患者で感染症があり、quick SOFAスコアが3項目中2項目以上(つまり2点以上のスコア)があれば敗血症の可能性が高いとするものである。実際、2項目以上を満たした患者の死亡率は、それ未満の患者の3 ~14倍あったと報告されている。つまり敗血症であると診断ツールというよりも予後予測ツールとしての意味合いが高い。

表1:SOFAスコア。

 

表2:quick SOFAスコア。

今回の症例でスコアリングすると、呼吸回数は24回/分であり1点、意識障害はないので0点、収縮期血圧92/58 mmHgなので1点で、quick SOFAスコアは2点であり、敗血症の可能性が高いと考えられる。
解答:(b)

実際の症例では

治療は絶食、持続点滴とし、抗生剤投与前に血液培養の好気性、嫌気性のセットを2セット採取しておいた。実際の症例では血圧低下には至っていなかったが、敗血症に近い病態と考え、カルバペネム系抗菌薬を開始した。血液培養の結果、β-ラクタマーゼ産生キノロン耐性大腸菌が起炎菌と判明した。抗菌薬感受性検査の結果もみて、第3世代セフェム系抗菌薬にde-escalationした。

Follow me!

前の記事

天橋立を訪れて