頭痛と倦怠感

問題22

31歳の女性が頭痛、倦怠感があるため来院した。

現病歴:2週間前から頭痛と倦怠感があり精査希望され来院。妊娠の可能性はないとのこと。

現症:血圧 126/68 mmHg、脈拍86/分、整、体温 36.8℃。頚部に圧痛なく、結節や腫瘤も触知しない。下腿に浮腫なし。

検査所見:血液所見:白血球 6400/μL、赤血球 427万/μL、Hb 10.3 g/dL、Hct 33.3%、血小板 29.4万/μL、CPK 71 U/L、TSH<0.010 μIU/mL(正常0.35~4.94)、FT3 8.0 pg/mL(正常2.1~4.1)、FT4 3.44 ng/dL(正常0.9~1.7)、抗甲状腺受容体抗体(TRAb)1.1 IU/L(正常<2)、CRP <0.03 mg/dL

Tc甲状腺シンチグラフィーを示す。

この患者の疾患として一番可能性の高いものはどれか。

(a)Basedow病

(b)Plummer病

(c)亜急性甲状腺炎

(d)無痛性甲状腺炎

(e)甲状腺癌

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』にはないが院内で行った内科症例検討道場で症例227として扱ったもの)

FT3、FT4とも高く、TSHは測定感度以下の低値となっている。この結果は、甲状腺中毒症であることを示しているが、甲状腺機能自体が亢進してホルモン産生が過剰になっている病態の他に、甲状腺の濾胞自体が破壊されて、血液中にホルモンが漏れてしまう病態があり、これを破壊性甲状腺中毒症という。後者の原因となる疾患としては無痛性甲状腺炎(甲状腺の自発痛や圧痛はない)と亜急性甲状腺炎(甲状腺に自発痛や圧痛、発熱がある)とがある。では、ホルモン産生亢進か甲状腺破壊か、この両者を鑑別するにはどうすればよいか?厳密に確定診断するためには、Tc甲状腺シンチによってその取り込みをみる。もちろん、取り込みが亢進していれば甲状腺機能亢進症と診断できるが、破壊性甲状腺中毒症の場合は、取り込みは低下している。今回の症例でも、これを行ったところ、Tcの甲状腺への集積はみられず、むしろ取り込みは低下していた。しかしながらTc甲状腺シンチはどの施設でもできる検査ではなく、仮に可能な施設であっても妊娠中や授乳中はできない。そこで臨床症状からの鑑別ポイントとしては、破壊性甲状腺中毒症の場合、甲状腺機能をフォローするとほとんどの症例で正常化する。そのような症例で、腫大した甲状腺の部位に痛みがあり、抗TSH受容体抗体が陰性で、CRPなど炎症反応が高値であれば亜急性甲状腺炎が疑われ、甲状腺の部位に痛みがなくて、抗TSH受容体抗体が陰性であれば、無痛性甲状腺炎が疑われる。今回のように無痛性甲状腺炎では軽症のため甲状腺の限局性の腫大が触診ではあきらかでない場合もある。無痛性甲状腺炎の場合は、背景に橋本病がある場合が多く、抗サイログロブリン抗体か抗TPO抗体のいずれかが陽性となる。逆に抗TSH受容体抗体が陽性で、甲状腺機能が正常化しない場合は、破壊性甲状腺中毒症の範疇ではなく、バセドウ病が疑われる。今回の症例は無痛性甲状腺炎が最も疑われる。

一般に無痛性甲状腺炎は、20~50歳で、1:5~10と女性に多い。出産後数カ月で発症することがある。甲状腺中毒症状を呈したあと、甲状腺濾胞は自然に修復され、FT3、FT4とも正常化し(破壊される濾胞も減ってくるため)、さらに一過性の甲状腺機能低下(破壊された濾胞の結果として)をみたのちに正常化する(最終的に修復まで至る)という自然軽快をとる疾患である。罹病期間が短いためバセドウ病に比べて軽症が多い。抗甲状腺製剤は無効であり、禁忌となっている。バセドウ病と誤診し、抗甲状腺剤を処方されて無顆粒球症となった報告もあるので、この誤診がないよう注意したい。今回の疾患は基本的には甲状腺機能を経過観察するのが原則であるが、頻拍などが臨床的に問題となる場合、β-阻害剤などの使用を要する場合もある。また回復期に一過性の甲状腺機能低下が生じることが多く、通常は、無投薬で回復し、臨床的に問題となることは少ないが、症状の強い場合は一時的に甲状腺ホルモンの補充を考慮する。

 今回の症例では、妊娠可能な時期の女性に生じた甲状腺中毒症として、妊娠時一過性甲状腺機能亢進症も鑑別にあがるが、問診の時点で妊娠は否定的となっている。また本症例のように疼痛、圧痛などがない甲状腺中毒症の場合、眼球突出があればBasedow病と考えて治療開始してよい。また眼症状がなく、TRAbが陰性であれば、9割は無痛性甲状腺炎、1割はBasedow病とされている。したがって甲状腺シンチを行うか、そのあたりを説明し無投薬で経過観察を行い臨床的診断するかのいずれかとなる。Plummer病は甲状腺自体に甲状腺ホルモン産生腫瘍がある病態である。甲状腺シンチで腫瘍に一致した取込み上昇を認めるはずであり、否定的である。

解答:(d)

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