鮮血を伴う頻回下痢便

問題10

患者は53歳、女性。鮮血を伴う頻回の下痢を主訴に来院した。

現病歴:1か月前から軟便傾向が出現し、15日前から軽い下痢となり、鮮血便を伴うようになった。その後、鮮血は持続し、下痢もひどくなって、7~8回/日になってきた。4日前、近医で止痢剤を処方されたが症状かわらず当院受診となった。食事摂取はできている。既往歴、家族歴に特記すべきことなし。薬剤使用歴、海外渡航歴、放射線照射歴無し。

現症:身長154 cm、43 kg、体温37.2℃、脈拍92回/分で整、血圧118/72 mmHg。眼瞼結膜に貧血を認め、黄疸は認めない。腹部は平坦、軟、腸蠕動亢進。腹部全体に圧痛を認めるが筋性防衛を認めず。

検査所見:血液検査:WBC 11100 /μL(好中球93%)、RBC 317万/μL、Hb 9.5 g/dL、Hct 29.3%, PLT 70.1万/μL、赤沈 52 mm/h。血清生化学所見:血糖120 mg/dL、TP 5.9 g/dL、BUN 4 mg/dL、Cr 0.43 mg/dL、総コレステロール 134 mg/dL、中性脂肪 122 mg/dL、Na 133 mEq/L、K 3.3 mEq/L、CRP 23.82 mg/dL。

大腸内視鏡所見を示す(写真)。

この疾患についてまず行う治療として望ましいものを2つ選べ。

(a)5-アミノサリチル酸製剤坐剤処方

(b)入院での中心静脈栄養

(c)外来での副腎ステロイド坐剤処方

(d)プレドニゾロン 1 mg/kg/日の内服

(e)タクロリムス内服

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』第3版症例26)

 53歳と比較的若年で、1か月前から軟便傾向となり、15日前から下痢、鮮血便の持続、下痢もひどくなって、7~8回/日、止痢剤が効かず、といった症状から慢性炎症性腸疾患を疑う。このような場合、除外診断の目的で、海外渡航歴、薬剤使用歴(特に抗生剤)、放射線照射歴などを問診しておくようにする。また便検査で細菌や寄生虫などによる腸炎も除外したい。

下部消化管内視鏡所見としては、上行結腸にはびらんが散在し、横行結腸肝弯曲部付近粘膜は脱落し浮腫状となっている。下行結腸にもびらんが多発し、介在する粘膜も浮腫状、発赤調、血管透見像の消失、膿性粘液付着などあり、すべて病変が連続しており、一部は偽性ポリープを形成しており、潰瘍性大腸炎と考えられる。生検組織では粘膜全層にびまん性炎症細胞浸潤、陰窩膿瘍、杯細胞減少、などが認められるが、いずれも疾患特異的ではなく、問診所見、内視鏡所見など含めて総合的に診断する。病変が直腸に限局する直腸炎型、非弯曲部までの左側結腸炎型、横行結腸の中央部を越えて右側結腸までにおよぶ全大腸炎型、に分類されるが、本症例は全大腸炎型である。また、臨床的重症度による分類では、軽症は血便や下痢の程度が軽く、かつ全身症状がない場合であり、重症とは下記に示す表の排便回数が6回以上および著明な血便のほかに、全身症状である発熱または頻脈のいずれかを満たし、かつ表の1~6の項目のうち4項目以上を満たす場合に該当し、軽症と重症の中間が中等症になる。本症例は、発熱も頻脈もあり、かつ表の1、2、4、5、6が重症基準を満たすので重症型と診断できる。

下部消化管内視鏡所見としては、上行結腸にはびらんが散在し、横行結腸肝弯曲部付近粘膜は脱落し浮腫状となっている。下行結腸にもびらんが多発し、介在する粘膜も浮腫状、発赤調、血管透見像の消失、膿性粘液付着などあり、すべて病変が連続しており、一部は偽性ポリープを形成しており、潰瘍性大腸炎と考えられる。生検組織では粘膜全層にびまん性炎症細胞浸潤、陰窩膿瘍、杯細胞減少、などが認められるが、いずれも疾患特異的ではなく、問診所見、内視鏡所見など含めて総合的に診断する。病変が直腸に限局する直腸炎型、非弯曲部までの左側結腸炎型、横行結腸の中央部を越えて右側結腸までにおよぶ全大腸炎型、に分類されるが、本症例は全大腸炎型である。また、臨床的重症度による分類では、軽症は血便や下痢の程度が軽く、かつ全身症状がない場合であり、重症とは下記に示す表の排便回数が6回以上および著明な血便のほかに、全身症状である発熱または頻脈のいずれかを満たし、かつ表の1~6の項目のうち4項目以上を満たす場合に該当し、軽症と重症の中間が中等症になる。本症例は、発熱も頻脈もあり、かつ表の1、2、4、5、6が重症基準を満たすので重症型と診断できる。

表1:潰瘍性大腸炎の臨床的重症度分類。

治療方針は、病変部位と臨床的分類に応じてまず寛解導入療法が選択される。原則として、軽症から中等症では、5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤を中心として外来治療を行う。炎症反応が強い場合や症状が強い場合は、副腎皮質ホルモン(中等症でプレドニゾロン30~40 mg/日の経口または点滴の併用)を併用して反応性を評価する。重症例ではステロイドによる寛解導入を主とした治療(プレドニゾロンであれば40~80 mg/日)となるが、5-ASA製剤の経口投与はしばしば初期から併用される。また症例によっては5-ASA製剤やステロイド剤の注腸も併用する。特に直腸炎型の軽症例には5-ASA製剤注腸の適応がある。全身症状を伴う中等症や、重症例では入院管理が望ましい。難治例のうち、ステロイド依存例に対して免疫調節薬(アザチオプリンや6-MPなど)、ステロイド抵抗例に対して血漿成分除去療法(白血球除去療法;LCAP、顆粒球除去療法;GCAP)、タクロリムス、インフリキシマブ、アダリムマブなどが使用される。寛解後は、寛解維持療法として非難治例には5-ASA製剤(経口剤、坐剤、注腸剤)、難治例には、5-ASA製剤に加えて、免疫調整薬、インフリキシマブ、アダリムマブなどいずれかを併用する。

今回の症例では重症例であるため入院管理、絶食、中心静脈栄養が望ましく、寛解導入の目的ではまずはプレドニゾロン40~80 mg/日が中心的な治療となり、適宜症例によって、5-ASA製剤の内服や5-ASA製剤やステロイド製剤の注腸の併用も考慮する。このあたり薬がたくさんでてきて混乱するかもしれないが、総合内科医として知っておきたいポイントは、寛解導入にあたって、軽症例では5-ASA製剤の内服あるいは坐剤による外来診療、中等症では、基本的に軽症例に準じ、プレドニゾロンも適宜症例により併用、重症例では絶食、高カロリー輸液による入院管理のうえ高容量のプレドニゾロンを中心にした治療で、5ASA製剤の内服または注腸を適宜併用する。そして寛解に至ることができれば、維持療法に向けてステロイドの離脱を目標として減量を開始する。もし、ステロイド抵抗例あるいはステロイドを減量するなかで再燃し離脱困難ないわゆるステロイド依存例と判明すれば、免疫調整剤などの特殊療法を要すると覚えておきたい。特殊療法は専門医にコンサルトするべき内容で、消化器内科の専門医セミナーレベルの話である。以上が2019年3月の時点での治療指針であるが、今後改訂が予想されるため試験傾向も変わってくるかもしれない。

解答:(b)(d)

実際の症例では

ガイドライン改訂前の時期の症例で、免疫調節薬などの保険適応もなかったが、全大腸炎型で臨床的に重症例と判断し、ステロイドの全身投与を中心にした治療を行わないと寛解導入できないと思われた。入院のうえ、絶食、中心静脈栄養、最初はメサラジン2250 mg経口投与に加えて、プレドニゾロンを経口で40mg、注腸で20 mg投与を開始し、寛解導入をはかった。炎症反応はかなり改善したが治まり切らず、サイトメガロウイルスの関与も否定的であった。結局メチルプレドニゾロン1 g×3/日でパルス療法、その後、プレドニゾロン60 mg/日に変えて徐々にテーパリング、そのテーパリングの間に、5回のGCAP療法を行った。最終的にプレドニゾロンは離脱でき、5-ASA製剤で維持療法が可能となった。

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