両肩から上腕の浮腫と疼痛で

問題101
68歳の男性が両肩から上腕にかけての浮腫と痛みを主訴に来院。
現病歴:3週間前に他人から顔面の浮腫を指摘された。特に外傷や打撲などのエピソードもなかった。2週間前から両肩から両上腕にかけて浮腫が広がり、痛みも出て、両上腕に力が入りにくくなった。症状の改善ないため当院受診となった。
現症:身長176 cm、体重65 kg。脈拍 74/分、体温36.6℃。顔面、特に前額部から鼻翼とその周囲、頚部、後頚部から背部にかけて紫紅色の浮腫性紅班を認める。両側上腕二頭筋、三頭筋の徒手筋力テストで4/5。
検査所見:尿所見:異常なし。血液所見:白血球4900/μL、赤血球423万/μL、Hb 14.0 g/dL、Hct 41.7%、血小板21.8万/μL。血液生化学所見: AST 119 U/L、ALT 53 U/L、ALP 216 U/L、γ-GTP 18 U/L、Alb 3.5 g/dL、CPK 3033 U/L、CPK-MB 53 U/L、BUN 11 mg/dL、Cr 0.78 mg/dL、免疫血清学所見:CRP 0.55 mg/dL、ANA<40倍、RF <4 U/mL。
心電図では虚血性変化を認めず。

顔面、頸部、肩、手の所見を写真に提示する。

問題
(1) 本疾患に対する第一選択薬はどれか。
(a)ステロイド軟膏
(b)経口副腎皮質ステロイド
(c)非ステロイド系抗炎症薬
(d)大量ガンマグロブリン
(e)抗CD20抗体製剤(リツキシマブ)

(2) 予後規定因子はでれか。2つ選べ。
(a)蜂窩織炎
(b)中枢神経障害
(c)間質性肺炎
(d)蛋白尿
(e)悪性腫瘍

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』第4版の症例62)
 CPKは骨格筋由来らしいので骨格筋障害をきたし、筋力低下もきたしていそうであること、かつ写真に示すような皮膚症状を説明できる疾患を考えるということになるが、皮膚所見からは典型的な皮膚筋炎である。図aをみると、顔面、特に前額部から鼻翼とその周囲にかけて、赤い色調変化を伴ってむくんでおり、浮腫性紅班があるといえる。よく皮膚筋炎患者の顔面には、ヘリオトロープ疹と呼ばれる上眼瞼の浮腫性かつ紫紅色の紅斑がよく記載されていて有名であるが、日本人の場合は、鼻唇溝などの脂漏部位にも紅斑が多く、脂漏性皮膚炎との鑑別が重要である。さらには今回の症例のように前額部、鼻翼やその周辺などにもみられることも多い。図bでは頸部にも紅班が認められ、Vの字をした分布になるのでVサインと呼ばれる。図cでは後頸部から背部にかけて、やはり浮腫性紅斑を認め、ちょうど 人がショールをかける部位に認めるのでショールサインと呼ばれる。図dと図eには、両手指関節背面に紫紅色の落屑を伴う角化性紅斑を認め、これが有名なGottron徴候である。図fでは、爪周囲にも紅班が認められ、爪周囲の変化として本疾患でしばしば認められる。
 多発筋炎・皮膚筋炎は自己免疫性の炎症性筋疾患で、亜急性ないし慢性に進行する体幹や四肢近位筋、頸筋、咽頭筋などの筋力低下が主たる症状である。典型的な皮疹を伴うものは皮膚筋炎と呼ぶ。本態は筋組織や皮膚組織に対する自己免疫であるが、特徴的部位に出やすい。男女比は1:3で、発症ピークは5~9歳と50歳代にある。症状としては、(1)筋症状:近位筋優位の筋力低下と筋肉自発痛、把握痛、Gowers 徴候(膝に手をつかないと立ち上がれない)。日常生活では、階段昇降(例として手すりにつかまらないと階段を昇れない)、重いものの持ち上げ、起床時の頭の持ち上げなどが困難となる。嚥下にかかわる筋力の低下は、構音障害、誤嚥、窒息死の原因となる。(2)皮膚症状:前述の通り。皮膚炎のみの場合を無筋炎型皮膚筋炎という。(3)非破壊性、非変形性多関節炎があるが多くは一過性。(4)間質性肺炎:これが急速に進行するものは予後が悪い。(5)線維化による房室伝導障害、頻脈性不整脈。心筋炎はまれ。検査所見:筋逸脱酵素(CPK、AST、LDH、アルドラーゼ)上昇、ミオグロビン上昇。抗核抗体は8割で陽性(今回の症例でも40倍、speckled typeだった)。特異性の高い抗Jo-1抗体は20~30%で陽性となり、肺線維症を伴う症例に多い。(今回の症例では陰性だった。)筋電図は、低電位を示し、筋原性筋障害と神経原性筋力障害の鑑別に役立つ。MRIでは、炎症部位に一致してSTIR法で高信号となる。確定診断は皮膚生検、筋生検(筋生検は必須ではない)。罹患部筋肉周囲や血管周囲に炎症細胞浸潤、筋線維の変性、壊死、萎縮のため筋線維には大小不同が認められる。合併症:30%の症例に悪性腫瘍が合併(50歳以上の患者の半数以上)し、胃癌、肺癌が多い。治療として第一選択薬は副腎皮質ステロイド剤の内服であり、これで効果不十分な場合には免疫抑制剤、免疫グロブリン大量療法。悪性腫瘍合併例では腫瘍摘除が第1で、これにより本症も改善する。予後:急速進行性間質性肺炎や悪性腫瘍を合併する症例は悪く、多発性筋炎・皮膚筋炎の初発患者のうち約10%は死亡。全症例の5年生存率は、約80%前後とされるが、近年成績は改善しつつあり。

解答:(1)(b)、 (2)(c)(e)

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