腹部膨満感と食欲低下で

問題100
71歳の男性。最近腹部膨満感が出現し食欲が低下し、全身倦怠感が強くなっていた。不眠が増えていたが、今朝起床後、寝衣を脱いだまま着衣できずいつもと様子が違うため、家人が心配になり救急搬送を依頼され救急受診。
飲酒歴:以前は連日ビール500 mL 3本に焼酎少量、1か月前ぐらいからビール700 mLを2~3日に1回。
現症:開眼しているが、名前、生年月日を聞くと名前しか言えない。血圧102/67 mmHg、脈拍111/分、体温36.7℃、SpO2 98%。眼瞼結膜に貧血なし、軽度黄疸あり。腹部:やや膨隆、軟。波動あり。下腿浮腫なし。四肢に麻痺なく、構語障害はない。羽ばたき振戦あり。手掌紅斑あり。
腹部超音波画像を示す。

(1)この患者で認められる可能性のある項目のうち誤りを選べ。
(a)血清アンモニアの増加
(b)血清アルブミンの低下
(c)γ-グロブリンの低下
(d)コリンエステラーゼの低下
(e)血小板数の低下

(2)提示された範囲での超音波検査所見について正しいものはどれか。2つ選べ。
(a)門脈内に血栓
(b)肝実質は不均一な内部エコー
(c)肝辺縁凹凸が不整
(d)肝細胞癌の疑い
(e)肝内胆管の拡張

解説
 超音波所見では肝表面は凹凸不整があり、肝内部エコー輝度は不均一であり、肝硬変と考えられ、しかもエコーフリースペースがみられ腹水が中等量みとめられることから非代償性肝硬変と考えられる。問診で不眠があり、明らかな行動異常もみられているようであり、現症では羽ばたき振戦がみられているので肝性脳症である。まず最もチェックしたい項目は血清アンモニアである。また肝硬変の検査所見として肝予備能の低下を反映してPT活性は低下し、また肝臓での合成能の低下を反映してアルブミンの低下がみられ、逆にγ-グロブリンは増加する。そのほかコリンエステラーゼの低下、血小板のみならず脾機能亢進により汎血球減少の傾向が認められる。また慢性肝炎の時期にはASTALTとなる傾向がみられる。
 肝硬変は一般に、症状が出ていない代償期と症状(腹水や浮腫、消化管出血、肝性脳症など)が出ている非代償期に分類されており、前者の時期の肝硬変を代償性肝硬変、後者の時期の肝硬変を非代償性肝硬変という。今回の症例では肝性脳症が一番の問題となっており、非代償期肝硬変におけるこの症状に対する治療を第一に考える。肝性脳症のグレードについて表1に示すが、今回の症例では昏睡度Ⅱに相当する。治療については、まず誘因である高たんぱく食、便秘、消化管出血、利尿薬による急速な腹水除去など、で該当するものがあればそれを除去する。通常食で高アンモニア血症や肝性脳症が生じる場合は、蛋白制限食(蛋白40 g/日以下)をとるよう指導する。薬物療法として、難消化性合成二糖類がある。これは小腸で吸収、分解されることなく大腸に達し、腸内細菌により加水分解されて乳酸と酪酸になる。この結果、大腸ないしは糞便中のpHが低下するため、大腸内でのアンモニアの産生や吸収を低下させる。具体的な薬物としてはラクツロース(モニラックシロップ®、ピアーレシロップ®、ラグノスNF経口ゼリー®)がある。このような誘因の除去および合成二糖類でアンモニアのコントロールがつかない場合は、腸管内のアンモニア産生菌であるグラム陰性桿菌の増殖抑制にはたらく経口難吸収性抗生物質を使用する。リファキシミン(リフキシマ®)が保険収載されている。さらに、分枝鎖アミノ酸製剤として点滴製剤アミノレバン®、経口製剤リーバクト®がある。血漿中の分枝鎖アミノ酸が不足するとは芳香族アミノ酸の脳内移行を促進する結果、偽性神経伝達物質を増加させる。そこで分枝鎖アミノ酸を補充することで、このアミノ酸バランスの補正、高アンモニア血症の是正に寄与する。今回のような肝性脳症急性期にはまず注射製剤であるアミノレバンが使用される。

表1:肝性脳症の昏睡度分類
 肝性脳症のほか、非代償性肝硬変の症状としてしばしば経験するのは、今回の症例にもみられている腹水や、肝性浮腫がある。一般治療として安静臥床、食事療法として6 g/日未満の塩分制限、Na 130 mEq/L未満の希釈性低Na血症がある場合は1 L/日未満の水分制限を行う。薬物療法として、血清アルブミンを2.5 g/dL以上に保つようアルブミン製剤の点滴を行う。利尿剤として、第一に抗アルドステロン剤であるスピロノラクトン(アルダクトンA®)、が使用され、さらにループ利尿剤であるフロセミド(ラシックス®)、それでも効果が乏しい場合にバゾプレシンV2拮抗薬トルバプタン(サムスカ®)7.5 mg/日などが使用される。以上によってもなおコントロール不良の腹水については、腹水穿刺排液+アルブミン製剤点滴、あるいは腹水濃縮再静注療法、さらに外科的治療としてDenverシャントなどがある。なお、利尿剤の投与による腹水の急激な減少は肝性脳症の誘発につながるため、今回のような患者については、まず基本的には肝性脳症の治療を優先してから腹水コントロールに移ることが多い。
 肝硬変における糖代謝の問題点としては、インスリン抵抗性のためブドウ糖のエネルギー源としての利用率が低下することもあげられる。肝萎縮のため肝臓に蓄えられているグリコーゲンの量も少ない。そこで夜間に絶食が続くと低血糖を早朝に起こす患者もいる。このような患者にはLate evening snackとして200 kcal程度の夜食、あるいは肝不全栄養剤アミノレバンEN®を就寝時に内服させる。

また、肝硬変患者を経過観察するうえでは、門脈圧亢進症のひとつの所見として胃食道静脈瘤からの消化管出血にも注意が必要である。

解答:(1)(c) (2)(b)(c)

試験の傾向
肝硬変は専門医試験では頻出の内容であり、さまざまな角度から作問されている。

そのほかに聞かれる可能性のある項目
●肝硬変の症状のうち門脈圧亢進症の症状としては腹壁静脈怒張があげられる。そのほか肝硬変によりエストロゲンが不活化できないために生じるとされるものとしてクモ状血管腫と手掌紅斑がある。クモ状血管腫は、わずかに盛り上がった1〜3 mmの赤色皮疹を中心として、毛細血管が浮き上がり放射状に広がってクモの足のようにみえる状態をいう。胸の上部や首すじ、頬、上腕などにあらわれる。手掌紅斑は手掌が不自然に赤くなってしまう症状で、特に母指球に好発する。

●肝硬変の原因となりうる疾患を選ばせる問題が出題されている。肝硬変の原因として特殊なものに日本住血吸虫症がある。これは、日本住血吸虫の成体が消化管の細血管内で産卵し、その虫卵の一部が経門脈的に肝内の門脈枝に至りここで門脈閉塞を生じるため前類洞性門脈圧亢進症を起こすとともに、これが長期続くとこの周囲に生じる慢性炎症のため肝硬変の原因にもなる。
 

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