全身倦怠感を訴える高齢男性

問題108
70歳男性が全身倦怠感を訴えて受診した。
【既往歴】50歳の頃から虚血性心疾患のため、経皮的カテーテルインターベンション(PCI)を繰り返している。また初回治療時に、2型糖尿病、脂質異常症などを指摘され、循環器内科や総合内科で加療中である一過性脳虚血発作で2か月入院歴あり。飲酒歴:ビール+テキーラでエタノール換算24~34 g/日。喫煙歴:20歳から15本/日。ペット飼育歴:犬を5年前から飼育。平均睡眠時間5時間。職場では嘱託で事務職。内服薬として経口糖尿病薬、プロトンポンプ阻害薬、降圧薬、抗血小板薬、スタチン製剤。
【現病歴】上記で加療中だったが、家人からいびきが大きく、呼吸が停止している時があることを指摘された。最近、昼間は全身倦怠感が強く仕事が手につかず、うとうとしていることが多い。
【現症】身長173 cm、体重93 kg。血圧148/84 mmHg、脈拍66/分、体温36.3℃。扁桃肥大なし。心音、呼吸音に異常なし。
【検査所見】血液検査:白血球7100/μL、赤血球516万/μL、Hb 15.2 g/dL、Hct 44.8%、血小板 17.0万/μL。血液生化学所見:LDH 139 U/L、AST 18 U/L、ALT 18 U/L、CPK 195 U/L、T-P 6.6 g/dL、BUN 18 mg/dL、Cr 1.16 mg/dL、Na 139 mEq/L、K 4.3 mEq/L、CL 107 mEq/L、随時血糖 139 mg/dL、HbA1c 6.9%、UA 5.4 mg/dL、LDL 56 mg/dL、HDL 47 mg/dL、TG 139 mg/dL。
心電図検査、胸部レントゲン検査では、以前と比べて著変なかった。

問題
1. 記載された生活歴の中で増悪因子はどれか。1つ選べ。
(a)喫煙歴
(b)飲酒歴
(c)平均睡眠時間
(d)ペット飼育歴
(e)職業歴

2. 閉塞型睡眠時無呼吸で、ポリソムノグラフィーを施行したところ無呼吸低呼吸指数(AHI)が67だった。今後の対応について適切なものはどれか。1つ選べ。
(a)睡眠薬の投与
(b)持続陽圧呼吸法(CPAP)
(c)口蓋垂軟口蓋咽頭形成術
(d)マウスピース装着
(e)経過観察

(類題 2016年度認定内科医試験、2018年認定内科医試験)

解説
今回の症例は、問診から睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome;SAS)であるとわかる。しかし、このように診断しやすい形で問診が進んでいくとは限らない。実際の今回の症例で、本人から最初に聞いた時点では、何かものすごく最近しんどい、ということしか言われていなかった。これまで虚血性心疾患でPCIを繰り返されており、糖尿病もあるならひょっとして無痛性の心筋梗塞などを起こしていないだろうかなどと考え、心電図や採血検査などもしてみるが普段と変わりがなさそうである。ここで「睡眠は?」という視点で問診を進めていけるかどうかが実際の臨床では重要である。肥満があってメタボリック症候群がある患者であり、睡眠の状況について何か家族から聞かれていることはないか?朝起床時にぐっすり寝られた自覚はあるか?職場ではうとうとしていないか?など積極的に問診して得られた情報が、今回問題文で提示した内容であった。専門医試験では、診断はつけられたうえで、その疾患についての知識が問われる。
SASとは、睡眠中に無呼吸を繰り返す病気の総称で、「10秒以上続く無呼吸・低呼吸が平均5回/時間以上認められ、更に一部は心拍数や血圧のような自律神経の活動性が低く、規則正しい睡眠中にも認められる場合」と定義されている。無呼吸により本人も自覚していない覚醒が生じ、睡眠の質が低下するため日中の眠気を生じる。長期間の低酸素血症と不十分な換気による高炭酸ガス血症により、心肺などの臓器に悪影響を及ぼす。SASが生じる機序によって、咽喉頭を中心とする閉塞が原因である閉塞型睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome;OSAS)、呼吸中枢から呼吸筋への神経伝達に支障が生じる中枢型睡眠時無呼吸症候群(central sleep apnea syndrome;CSAS)、無呼吸発作中に中枢型から閉塞型に移行する混合型がある。大半の患者はOSASであり、以下OSASについて解説する。OSASで起動が狭くなる具体的な原因としては、肥満に伴う咽頭周囲の脂肪組織の増加(OSASは肥満の患者が多い)、扁桃肥大、咽頭周囲の筋肉のたるみ、あるいは顎部や頸部の生まれつきの形状などあげられる。
症状としては慢性の睡眠不足が継続するため、日中の居眠り、夜間の中途覚醒、記憶力や集中力の低下、全身倦怠感、起床時の頭痛や頭重感、性格変化、抑うつ状態などが認められる。睡眠中のいびきと呼吸停止が交互に繰り返される様子を家族に指摘されて受診される場合もある。本疾患は呼吸がそのまま停止してしまうリスクというよりは、そのような低酸素血症、高炭酸ガス血症が睡眠中に連日生じることによって、これが心血管系に悪影響を与えることが内科的には問題となる。重症化するほど高率に高血圧を合併し、不整脈の発生は健常者の2倍程度とされている。虚血性心疾患の合併頻度はOSASでは35~40%、糖尿病は約10%で、突然死のリスクを高めるとの報告もある。また社会的には、日中の居眠りが職場での事故や信用失墜などにもつながる。
診断方法として、まずスクリーニングの段階ではエプワースの眠気尺度が用いられる。11点以上あるとSASの可能性が高く、11点未満でも慢性的にいびきをかく人や睡眠時に呼吸が止まる人、日中しばしば眠気を感じる人もSASの可能性がある。このようにしてOSASが疑われると、簡易診断装置を患者に貸し自宅で睡眠中の状態を検査する。一晩睡眠中の鼻と口の空気の流れ、胸部と腹部の呼吸運動、気管音、酸素飽和度を測定し、無呼吸(10秒以上)と低呼吸(10秒以上空気の流れが50%以下に減少して酸素飽和度が基準値より3~4%以上低下している呼吸、あるいは覚醒反応を伴う低呼吸)が1時間あたり何回生じるかを求め、それを無呼吸低呼吸指数(apnea-hypopnea index;AHI)とする。またいびき音を記録し、パルスオキシメーターでSpO2の低下状況も記録する。AHIが20回以上か、それ以下でも自覚症状が強い場合は、入院の上、精密検査としてポリソムノグラフィー(PSG)を行う。脳波(これにより睡眠時間や睡眠の質が評価できる)、眼球運動、顎の筋電図を測定し、睡眠段階の判定と中途覚醒反応を検出する。鼻と口の空気の流れ、胸部と腹部の呼吸運動を測定し、無呼吸低呼吸数を記録する。またSpO2と心電図も記録し、「OSASの症候があり、PSGでAHIが5以上」の場合を、OSASと診断する。本患者の場合はAHIが41であり重症例であった。
睡眠中の上気道閉塞を改善するには、鼻マスク式持続陽圧呼吸(nasal continuous positive airway pressure; nasal CPAP)が最も有効である。陽圧をかけながら鼻腔から送り込まれた空気により気道は開いた状態を保つため、いびき、無呼吸、低呼吸、SpO2の低下、睡眠障害、日中の居眠り、などの症状が改善する。AHIが20以上で自覚症状がある場合にnasal CPAPの保険適応となる。簡易診断装置でも40を越えて自覚症状があるとPSGを施行しなくてもOSASと診断しnasal CPAPを導入することが保険で認められている。
OSASの重要な危険因子として肥満があげられている。体重増加とともに、顎の周囲、頚部周囲、喉や舌も肥大し、気道が上下左右から圧迫されて狭くなる。10%の減量でAHIは26%減少すると報告されている。肥満を伴う場合は減量を勧める。側臥位でいびきや軽症のOSASはある程度改善する。アルコールは筋肉の緊張を緩和させる作用があり、舌や顎の筋肉の緊張がゆるみ気道を圧迫する。また鼻粘膜を充血させる作用があり、鼻からの通気が悪くなる。このためOSASの患者では就寝前の飲酒は控えさせる。睡眠薬や精神安定剤も舌や顎の筋肉の緊張がゆるみ気道を圧迫する。Nasal CPAPの導入により睡眠薬や精神安定剤が不要となる場合もある。
選択肢のうち睡眠薬は逆に悪化させる因子である。口蓋垂軟口蓋咽頭形成術は扁桃肥大などで解剖学的に咽頭部の気道が狭くなっている場合には考慮され、根治治療となる場合もあるが第1選択とはならない。マウスピース装着は、下顎を数ミリ突き出させて嚙合わせるようにすることで上気道を拡大させる方法であり、顎が小さくて気道が狭い患者には有効だがnasal CPAPほど治療効果はない。実際の試験で、肥満のない患者に減量指示という選択肢が誤答肢としてあげられていた問題があったが、今回のように肥満がある場合は正解肢となる。

解答
1.(b) 2.(b)

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