回転性めまいと嚥下障害

問題11

61歳の男性。回転性めまいと嚥下障害を主訴に救急搬送となった。2日前の夕刻、昼寝からめざめたときに回転性めまいにより立位がとれなくなった。その頃より喀痰が絡みだし、嚥下ができず、水分摂取がほとんどできず。2日間でパン数切れぐらいしか食べられず。その他はずっと寝ていたが、近くに住む兄が発見して救急要請され当院に搬送された。

現症:意識清明。運動麻痺は明らかでない。頭部CTでは明らかな異常なし。頭部単純MRIの拡散強調画像および頭部MRAを示す。

既往歴:高血圧で2年前から降圧薬内服中。

この疾患で認められやすいのはどれか。1つ選べ。

(a)動眼神経麻痺

(b)舌下神経麻痺

(c)Horner症候群

(d)難聴

(e)顔面神経麻痺

解説(オリジナルは『内科症例検討道場』第3版症例75)

 MRIでは拡散強調画像で延髄外側に高信号域があり、回転性めまいと嚥下障害を訴えていることから延髄外側症候群(Wallenberg症候群)であると考えられる。内耳神経は平衡感覚をつかさどる前庭神経と聴力に関係する蝸牛神経とに分かれるが、前庭神経核がこの延髄外側領域に存在するため回転性めまい、悪心、嘔吐、眼振などを起こす一方、蝸牛神経核は延髄と橋下部の境界付近に存在するため、聴力は障害されない。また舌咽神経と迷走神経の運動核である疑核が延髄外側に存在し、これが障害されることによって嚥下、構語ともに障害され、理学所見としてはカーテン兆候(発声させると咽頭後壁が病巣と反対側に引っ張られる)が認められるので、めまいの際には延髄外側病変を見逃さないためにも可能な患者ではチェックするようにしたい。しかし何といっても、延髄外側症候群で有名な所見は頚部より上と下で温痛覚の部位が反対になるという点で、まず三叉神経脊髄路核の障害による同側の顔面の温痛覚障害がみられ、脊髄視床路の障害による対側の頚部以下の半身の温痛覚障害が起こる。ただし顔面の温痛覚障害は、なかったり、反対側や両側に生じたりすることがあり、病変範囲のバリエーションや神経が交叉する部位のバリエーションなどによると説明される。延髄外側症候群では、そのほか交感神経下行路である延髄網様体の障害による同側のホルネル症候群(同側の縮瞳と眼裂狭小)がみられ、下小脳脚の障害による同側の小脳性失調(指鼻指試験や膝踵試験などで評価しておきたいポイント)がみられる。またあまり知られていないが、孤束核(顔面、舌咽、迷走神経に含まれる味覚線維の終止核)の障害により同側の味覚障害も生じる。一方、延髄内側症候群のように延髄の内側を通る錐体路(運動系経路)や内側毛帯(深部覚経路)は障害されない。

頭部MRIではCTに比較して発症早期の病変や脳幹部病変についても検出感度が高く、今回の症例では(a)や(b)の拡散強調画像で右延髄外側に高信号がみられ、(c)のMRAでは右椎骨動脈は脳底動脈と合流する起始部から閉塞している。本症は、以前は後下小脳動脈(posterior inferior cerebellar artery; PICA)の閉塞が多いとされていたが、最近では椎骨動脈の閉塞が多いことが明らかとなっている。原因としてはアテローム血栓症が多い。統計的に高血圧を有する中高年男性に多く、まさに今回の症例は典型的といえる。また動脈解離による若年例も稀ではないため、頚部痛、後頭部痛などを訴える症例では注意を要する。動脈解離例の60~90%では発症時に突発する激しい後頭部あるいは後頚部痛がみられる。予後は後遺症なく回復する例が多いが、一部に嚥下障害や温痛覚障害が残存する場合もある。

解答:(c)

実際の症例では

回転性めまいは軽く、むしろ立位保持困難という小脳失調症状が主体だった。嚥下障害は初期から一緒にみられていた。特徴的な所見があってMRI像もあり、きちんと神経所見がとれてさえいれば、正しく診断できる症例であったといえる。

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