息切れがみられた高齢者

問題65

81歳の女性。数か月前から買い物に行く時などの歩行時に息切れが出現、増悪し、いつもの距離が歩けなくなって来院。

現症:血圧 130/58 mmHg、脈拍 78/分、体温36.4℃、可視粘膜に著明な貧血を認める。胸部に収縮期駆出性雑音を聴取。表在リンパ節を触知しない。腹部に腫瘤を触知しない。

検査所見:血液所見:白血球13900/μL(骨髄球 2.0%、後骨髄球 1.0%、桿状核球 6.0%、分葉核球 61.0%、リンパ球 17.5%、単球 11.5%、好酸球 1.0%、好塩基球 0%)、赤血球119万/μL(赤血球像 大小不同あり、多染性赤血球、小型球状赤血球、Howell-Jolly小体、好塩基性斑点を有する赤芽球、などを認める、巨赤芽球様細胞を少数認める)、Hb 5.1 g/dL、Hct 15.0%、PLT 34.5万/μL。血液生化学所見:Alb 3.5 g/dL、 ハプトグロビン<1 mg/dL(基準19~170)、総ビリルビン3.3 mg/dL、直接ビリルビン1.1 mg/dL、AST 50 U/L、ALT 58 U/L、LDH 546 U/L、直接クームス試験(+)、間接クームス試験(+)。

(1) 本疾患について正しいのはどれか。1つ選べ。

(a)血管内溶血を起こす。

(b)尿潜血反応が陽性となる。

(c)網状赤血球が増加する。

(d)破砕赤血球が増加する。

(e)ピロリ菌保有患者に多い。

(2) 最初の対応として適切なものはどれか。1つ選べ。

(a)積極的な赤血球輸血

(b)ビタミンB12製剤の筋肉内注射

(c)血漿交換

(d)抗腫瘍薬による多剤併用化学療法

(e)副腎皮質ステロイド投与

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』第3版の症例41)

本症例では、MCVは126で明らかに高く、MCHは42.9と高値、MCHCは34.0と正常値であったため、大球性正色素性貧血といえる。総ビリルビン3.3 mg/dL、間接ビリルビン1.1 mg/dLと、間接ビリルビン優位の軽度の黄疸がみられ、LDH 546 U/Lと、トランスアミナーゼに比較して目立って高い値をとっている。一般にビリルビンは80%が老廃した赤血球ヘモグロビンのヘムから網内系細胞でビリベルジンを経て生成され、肝臓でグルクロン酸抱合をうけて最終的に胆汁中に排泄される。溶血が絶えず生じていると、どんどんヘモグロビンのヘムからビリルビンが産生されるが、グルクロン酸抱合が追いつかず、間接ビリルビン(非抱合型ビリルビン)が上昇する。また赤血球中には血清中の200倍のLDHが存在するため、溶血によって血清中に逸脱すると高値となり、溶血性疾患や血液採取の際の人為的な溶血の場合であっても高い値となる。さらに本症例ではハプトグロビンが<1 mg/dlと低下している。一般に溶血性疾患では、血中にどんどんヘモグロビンが流出するわけであるが、遊離型のヘモグロビンには毒性がある。ハプトグロビンはこの遊離ヘモグロビンにすみやかに結合するタンパクで、この結合した状態で血中をまわり、これが網内系細胞のレセプターを介してすみやかに取り込まれて分解処理されるため、毒性が現れずにすんでいる。また遊離ヘモグロビンのままだと容易に腎糸球体膜を通過して尿細管障害をおこすが、ハプトグロビンと結合した状態であれば糸球体膜も通過しない。従って、溶血があるとどんどんハプトグロビンが消費され減少するため、この値の低下をみることが最も敏感な溶血の評価方法である。以上、これらの血液検査所見は、本疾患が溶血性貧血であることを示唆するものである。

一般に溶血を起こす機序はさまざまであるが、このうち自己抗体が補体と共同して生じる溶血性貧血は、広義の自己免疫性溶血性貧血(AIHA)と呼ばれる。AIHAは自己抗体の溶血反応の至適温度が37℃である温式自己抗体による温式AIHAと、至適温度が4℃である冷式自己抗体による冷式AIHAとに分かれる。成人になって発症するAIHAの約80%では温式自己抗体がみられるため、温式自己抗体によるAIHAを狭義のAIHAとしている。また冷式自己抗体によるAIHAには主に高齢者に生じる寒冷凝集素症(CAD;cold agglutinin disease)と小児に多い発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH;paroxysmal cold hematuria)がある。一般に直接クームス試験は、患者の新鮮な全血に抗イムノグロブリン抗体を反応させ、赤血球の凝集の有無を判定する(図1)。これは赤血球膜にIgG分画の抗赤血球抗体が結合していて、これを抗イムノグロブリン抗体で凝集させる試験である(図2)。AIHA血であれば、温式、冷式ともに陽性となる。一方、間接クームス試験は健常者の赤血球浮遊液と患者血清とを反応させたうえで抗イムノグロブリン抗体を反応させる。37℃で反応させるので、冷式抗体が赤血球膜になかなか結合できず、最後に血清が除去されるため冷式自己抗体が健常者の赤血球と反応できるタイミングがない。このため、冷式AIHAでは間接クームス試験は陰性に出ることが多い。今回の症例では直接、間接ともクームス試験が陽性であり、温式AIHAつまり狭義のAIHAである。また臨床経過としても、冷式AIHAでは、寒冷に暴露された後に血管内溶血が生じヘモグロビン尿で発症する。また臨床経過として、冷式AIHAでは、寒冷に暴露された後に血管内溶血が生じヘモグロビン尿が認められる。(ただし寒冷凝集素症では溶血を免れる赤血球が多く、これらは肝臓の網内系細胞で処理されるため血管外溶血が主体となる。)またTTPの場合の血栓やペースメーカー植込み術後の人工デバイスなどのように、赤血球が衝突して生じる機械的な赤血球破砕が生じる場合も血管内溶血を生じ、やはり血尿がみられるため今回の症例とは合わない。

図1:直接クームス試験

図2:間接クームス試験

温式自己免疫性溶血性貧血の治療は、ステロイド剤、摘脾、免疫抑制剤が3本柱となるが、通常、第1選択がステロイド、それで効果不十分な場合、第2選択は摘脾、というのが一般的である。ステロイドはプレドニゾロン(プレドニン®)換算で1.0 mg/kg/日を連日経口投与で開始し、4週間ぐらいを目安に減量していく。この時点で40%前後の患者が血液学的に寛解に達する。ここで効果不十分であれば、摘脾や免疫抑制剤などを検討していく。高齢者や基礎疾患があって、感染症、糖尿病、消化性潰瘍、骨折、心血管系合併症などが出現する恐れがある場合はむしろ減量投与が勧められている。なお輸血に関しては、心不全症状が顕在化していなければ、通常の赤血球輸血は可能な限り回避することが望ましい。患者赤血球と同じように輸血の赤血球も速やかに破壊され、溶血をさらに悪化させる可能性があるからである。またそのような理由で、もし輸血をしてもその効果は低い。また本疾患は悪性腫瘍に続発して発症する場合があり、原因を考えるうえで全身検索が望ましい。

なお寒冷凝集素症のような冷式自己免疫性溶血性貧血の治療は、保温による寒冷暴露を避けることが基本となる。

解答:(1)(c)、(2)(e)

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