生のサバを食べて心窩部痛
問題6
36歳の男性。夕食に生のサバを食べた後に帰宅し、就寝後、刺すような心窩部痛が出現したため救急受診した。患者の上部消化管内視鏡像を示す。
この疾患について誤っているものはどれか。1つ選べ。
(a)腸閉塞を起こす場合がある。
(b)原因食物の冷凍処理が疾患予防に有効である。
(c)感染症法に基づき保健所への届け出が必要である。
(d)診断には抗体検査が有用である。
(e)胃粘膜下腫瘍を形成する場合がある。
解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』第3版の症例32)
生の魚介類を摂取したあとに刺すような心窩部痛を発症しており、アニサキス症を疑うべき症例である。内視鏡像では白く細長いアニサキス虫体が胃壁に穿入しており、その周囲にびらんを伴う浮腫状の粘膜病変がみられている。
アニサキス症は、刺身や寿司など生の魚介類(特に今回のようなサバのほか、イカ、イワシ、サンマ)の摂取によって生じる腹痛発作を呈し、その感染部位により発症までの時間や臨床所見は異なる。いずれにせよ、食歴をしっかり問診することが重要である。
胃アニサキス症では、生食後数時間しては上腹部の激痛、悪心、嘔吐が出現し、急性腹症の症状で救急受診されることが多い。問診で本症が疑われた場合、緊急内視鏡検査を行うと虫体が確認でき、その周囲の浮腫状胃粘膜にびらんがあり、典型像では急性胃粘膜病変の像を呈する。この虫体が胃粘膜に刺入した結果生じるアレルギー反応によって激痛が生じるため、内視鏡的に虫体を除去すると痛みは消失する。今回の症例でも虫体を鉗子で除去し症状は消失した。
腸アニサキス症では、刺入部位に好酸球性肉芽腫が形成され著しい浮腫が生じるため腸閉塞をきたす場合がある。多くの場合は消化管壁を貫通出来ないが、貫通した場合は穿孔性腹膜炎を発症することもある。小腸アニサキス症や消化管外アニサキス症では、虫体の確認はできない。そのためCT画像で著しい腸管浮腫が比較的限局した範囲にみられ、食歴がある場合は本症を疑い、アニサキスアレルゲンに対するIgG抗体とIgA抗体のチェックが有用である。人はアニサキスの終宿主ではないため、感染しても数日で虫体は死滅する。ただし、虫体が胃壁に長期間存在すると炎症性肉芽腫となって粘膜下腫瘍を形成する場合がある。
感染予防には生食を避けることであるが、60℃、1分以上の加熱か-20℃で24時間以上の冷凍処理によって感染性はなくなる。また食品衛生法(感染症法ではない)に基づき、アニサキスによる食中毒が疑われた場合、医師は24時間以内に保健所に届け出る義務がある。
解答 (c)