リウマチ患者の腫瘤

問題5

62歳の女性。5年前に関節リウマチで週1回のメソトレキサートの内服とエタネルセプトの皮下注射をしていた。2週間前から左耳下部の腫脹に気づき、微熱も出現したため来院した。体重減少はない。

現症:血圧 134/79 mmHg、脈拍 81/分、整。体温 37.3℃、呼吸数14回/分。可視粘膜に貧血、黄疸を認めず。左頸動脈分岐部の上方に円形、表面平滑、弾性硬の腫瘤を触知する、自発痛はなく圧痛あり。腋窩、鼠径部の表在リンパ節は触知しない。肺野は両側清、病的心雑音聴取せず。腹部は平坦、軟、腫瘤触知せず。肝脾触知せず。神経学的に異常を認めない。関節の変形はみられない。

検査所見:血液所見:WBC 7500/μL、RBC 369万/μL、Hb 12.9 g/dL、Hct 36.2%、PLT 23.8×104/μL、PT-INR 1.04、APTT 32秒、血液生化学所見:TP 7.8 g/dL、Alb 4.4 g/dL、総ビリルビン 0.8 mg/dL、AST 20 U/L、ALT 19 U/L、LDH 238 U/L、AMY 60 U/L、BUN 12 mg/dL、Cr 0.68 mg/dL、空腹時血糖 108 mg/dL、Na 142 mEq/L、K 4.5 mEq/L、Cl 108 mEq/L。免疫血清学所見:CRP 0.62 mg/dL、RF 8 IU/mL、抗CCP抗体 205 U/mL(基準4.5 U/ml未満)sIL-2R 1282 U/mL(基準145~519 U/mL)

頚部エコー、頚部造影CT、PET-CTを示す。

頚部エコー             頚部造影CT
PET-CT

左耳下部の頚部腫瘤からの生検でdiffuse large B-cell lymphomaと診断された。

最初の対応として適切なのはどれか、1つ選べ。

(a)局所放射線療法

(b)経過観察

(c)多剤併用化学療法

(d)メトトレキサートの中止

(e)抗CD20モノクローナル抗体療法

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』第3版の症例172)

左耳下部の腫瘤について針生検したところdiffuse large B-cell lymphoma(DLBCL)だった。だから化学療法か放射線療法などと安易に考えてはいけない。今回の問題では慢性関節リウマチ(RA)でメトトレキサート(MTX)投与中ということがポイントである。一般にMTX投与中の患者にリンパ球からなる腫瘍、つまりリンパ増殖性疾患が生じた場合、必ずMTX関連リンパ増殖性疾患を念頭に考えたい。これは大きな分類では免疫不全関連リンパ増殖性疾患の範疇に入り、このなかに①移植後リンパ増殖性疾患、②HIV感染症関連リンパ増殖性疾患、③他の医原性免疫不全関連リンパ増殖性疾患、の3つのタイプがある中で、③に分類される。RAでは、慢性炎症や疾患そのものによる免疫異常、加齢、遺伝的素因などのほか、MTXのような治療薬によるものなど、リンパ増殖の発症には詳細は不明ながら免疫能低下や免疫抑制が関与しているとされている。従って、もし薬剤の関与が考えられる場合には、たとえ組織学的にlymphomaであっても、最初の対応はその薬剤の中止である。MTX関連リンパ増殖性疾患が疑われた場合にも、最初にすべきことはMTXの中止であり、中止後の腫瘍退縮を確認することで、本薬剤の関与をいよいよ疑うことになる。今回の症例でも1か月で明らかな腫瘍退縮がみられた。しかしMTXや他の免疫抑制剤の投与を中止してもなお退縮しない症例では、他の因子が関与している可能性が考えられ、すみやかに化学療法を行う。また一旦退縮しても再発の報告もあり長期的なフォローが必要である。

解答(d)

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