脊椎炎のあとに呼吸苦

問題7

73歳の男性。2か月前に頚部痛で近医整形外科を受診し、化膿性頚椎炎と診断され、2週間点滴にて抗菌薬を投与された。一方、血液培養の結果、黄色ブドウ球菌が検出されたため1か月半ぐらい前に抗菌薬を変更されて経過をみていたが、2週間前から労作時の呼吸苦を自覚し、本日、起坐呼吸も自覚しため内科受診となった。

現症:38.3℃、脈拍105/分、整。血圧145/68 mmHg、Spo2 88%(自発呼吸、room air)、頸静脈の怒張を見読める。心音ではⅠ音とⅡ音減弱、Ⅲ音とⅣ音聴取。心尖部から背側に放散する汎収縮期雑音(Levine Ⅳ/Ⅵ)と心基部より頸部まで放散する拡張期雑音(Levine Ⅳ/Ⅵ)を聴取する。両側下肺野にcoarse crackleを聴取。両側下腿に浮腫を認める。

検査所見:血液検査所:赤血球398万/μL、Hb 12.1 g/dL、白血球12600/μL、BNP 406 pg/ml、CRP 15.6 mg/dL

経胸壁心エコー所見:左室拡張末期径 47 mm、左室駆出率 59.2%

経食道心エコーの写真を示す。

この疾患でみられないものはどれか。1つ選べ。

(a)Roth斑、(b)輪状紅斑、(c)Janeway発疹、(d)Osler結節、(e)脳動脈瘤

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』第3版の症例113)

 化膿性脊椎炎で入院され、血液培養で黄色ブドウ球菌が出ている。黄色ブドウ球菌が菌血症を起こすと急性の感染性心内膜炎(IE)の原因となることを頭に入れておきたい。IEは、心臓の弁、心室中隔欠損部などの心内膜に、細菌、真菌などが付着し繁殖した結果、菌塊(疣贅または疣腫(vegetation, verruca)となり、弁破壊、敗血症、塞栓症などによる多彩な全身合併症をきたす疾患である。 IEは、心臓の弁、心室中隔欠損部などの心内膜に、細菌、真菌などが付着し繁殖した結果、菌塊(疣贅または疣腫(vegetation, verruca)となり、弁破壊、敗血症、塞栓症などによる多彩な全身合併症をきたす疾患である。

図1:経食道心エコー所見。僧帽弁と大動脈弁に付着した疣贅(左図橙色矢頭)と広範囲におよぶ乱流(右)。高度の僧帽弁、大動脈弁の逆流がみられている。

臨床症状は多彩であるが、大きく整理すると①菌血症→発熱、②塞栓症→臓器機能障害、③弁膜破壊→心不全、④長期罹患による全身消耗症状、ということになる。臨床経過により、突然の高熱で発症し数日~数週間で弁破壊が急速に進行する急性心内膜炎(acute IE)と、数週~数か月かけて徐々に進行する亜急性心内膜炎(subacute IE)とに分けられている。今回の症例はacute IEであり、急速に進行したためまだ過膨張の代償機転がはたらかないうちに心不全症状が出現している。起炎菌は黄色ブドウ球菌が多く、弁破壊、塞栓症などにより数日で致死的になることが多い。一方subacute IEでは起炎菌として緑色連鎖球菌が多く、ほかに腸球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、グラム陰性桿菌などもみられる。弁膜症など心臓基礎疾患を有する人に多く、塞栓症状を主訴に受診されることが多いが、微熱が続く程度のこともある。理学所見として、約半数で新規の心雑音が出現し、20%の症例でもともとの心雑音の増悪が認められる。毛細血管の塞栓症状として、手掌や足底に無痛性の小赤色斑(Janeway発疹)、爪下の線状出血、また眼底所見として、円形ないし卵円形で中心部が白色を呈する網膜の出血性梗塞(Roth斑)、などもみられる。また感染性脳動脈瘤の破裂や出血性脳梗塞を起こしクモ膜下出血や脳膿瘍などを起こす場合もある。IEにおける持続的な菌血症が原因で、菌体成分に対する免疫反応として低補体血症を認めることがある。このような免疫反応の結果としては、指の先端にみられる有痛性の紫色ないし赤色の皮下結節(Osler結節)や糸球体腎炎が知られている。

 なお輪状紅斑はリウマチ熱でみられる。

解答(b)

実際の症例では

CRPがこれほど高くなく、受診時には発熱がなかったが、入院されて経過中にはやはり連日発熱が続いていた。実際の症例では、Spo2が酸素投与にもかかわらず改善せず気管内挿管で管理しなければならない重症例だった。疣贅は動画で見ればもっとはっきりわかった。専門医試験では、もう少し典型的でだれでもわかるようなものが提示されるだろう。

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