舌の痛みと嚥下時のつかえ

問題30

84歳の女性。舌の痛み、嚥下時のつかえ感を主訴に来院された。

現病歴:以前から食事嚥下時のつかえ感があったが、最近、舌がからからになり、ヒリヒリする痛みなどもあって、1週間前から食事摂取が減ってきたため精査希望されて来院。

口腔内の所見、上部消化管内視鏡所見を示す。

図1:口腔内の所見

図2:上部消化管内視鏡所見。

この疾患について誤っているものを1つ選べ。

(a)プロトンポンプ阻害薬投与中にみられることがある。

(b)血液透析患者に多い。

(c)副腎皮質ホルモン投与中にみられることがある。

(d)健常人でもみられることがある。

(e)基礎疾患として悪性腫瘍がないか評価が必要である。

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』にはないが院内で行った内科症例検討道場で症例279として扱ったもの)

 舌は乾燥し明らかに厚い白苔が付着しており、口腔内にも小白斑がみられ、口腔カンジダ症と診断される(図1)。舌がヒリヒリ痛むのはカンジダ症と舌の乾燥が原因と考えられる。味覚障害が生じることもある。口腔カンジダ症は口腔内常在真菌であるCandida albicansが、他の常在菌とのバランスをくずし優位に口腔内で増殖した結果、病原性を生じるとされており、常在菌間のバランスがくずれる基礎疾患や背景が何であるかという視点で患者を診ていくことが重要である。口腔内局所の防御機構の低下(長期服用薬物による唾液分泌低下や加齢による唾液腺委縮、口内炎や口腔内潰瘍、放射線療法、局所ステロイド薬塗布・吸入)と全身的な免疫低下(抗生剤長期投与による菌交代現象、免疫抑制剤、ステロイド剤、抗癌剤などの投与、糖尿病、加齢、栄養不良、喫煙)が考えられている。

口腔内と同様に、カンジダは消化管にも常在するが、正常では肉眼的に認識できる程度まで増殖しない。やはり免疫抑制状態にある患者では増殖し、消化管の中でもとりわけ食道内に定着して感染し、食道カンジダ症として肉眼的に認識できることがある。また健診で健常人にも1%前後に発見されることがある。今回の上部消化管内視鏡検査では、カンジダ性食道炎に特徴的な白色の白苔が集簇しており(図2)、食道カンジダ症が嚥下時のつかえ感の原因と考えられた。消化管真菌症の基礎疾患や背景としては口腔カンジダ症と同様、血糖コントロール不良の糖尿病、慢性肝不全や慢性腎不全、HIV感染症、悪性腫瘍、薬剤投与(免疫抑制剤、ステロイド剤の内服や吸入(吸入では1%未満)、抗癌剤、プロトンポンプ阻害剤(1%未満あるいは0.1%未満))などがあげられている。プロトンポンプ阻害剤については胃酸分泌抑制作用との関連が示唆されているがそれ以外の機序もあるのではないかという意見もあり、はっきりとは解明されていない。

無症状で基礎疾患がない場合、軽症であれば治療を要さないが、免疫抑制状態や易感染状態、嚥下時のつかえ感や痛みなど症状がある場合は抗真菌薬を投与する。基本的には、絶えず口腔ケアにより口腔内の清潔を保ち、抗真菌薬を含む含漱薬や塗布薬を使用する。

図1:口腔カンジダ症。舌には厚い白苔が付着し、口腔内にも小白斑(黄矢印)が認められた。

図2:上部消化管内視鏡検査。(a)(b)上部~中部食道に小白斑の付着(青矢印)が多発しており食道カンジダ症と考えられる。

解答(b)

実際の症例では

ミコナゾールゲル剤(フロリードゲル®)を1日4回舌に塗布させたうえ、そのまま内服させた。これにより舌の痛みつかえ感も消失、食事も進むようになった。

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