蕁麻疹だけかと思っていたら

問題67

71歳の女性が痒みを伴う皮疹を主訴に来院した。

現病歴:昨日より急に頸部中心に掻痒感を伴う紅斑ないし膨疹が出現した。本日明け方には体幹部中心にこれが広がり、右上腹部や臍周囲にきりきりする痛みと悪心がみられるようになってきたため当院皮膚科と内科受診となった。皮膚科の診察が終わり、指示で午前10時頃からグリチルリチン酸製剤(ネオファーゲン®)と抗ヒスタミン製剤(クロルフェニラミン(ポララミン®))を含んだ点滴を開始して内科受診までの待ち時間中であったところ、正午ごろから咽頭部のつまり感や呼吸困難感を自覚し、少し声がかすれるようになった。

既往歴:睡眠時無呼吸症候群で在宅CPAP療法中。2型糖尿病で内服治療中。内服薬は以前から変更なし。

喫煙歴:なし。

現症:意識清明。身長 164.0 cm、体重 100 kg。血圧 88/52 mmHg、脈拍 95/分、整。体温 36.3℃、Spo2 92%。頸静脈怒張を認めない。肺野は吸気時に軽度喘鳴を聴取する。病的心雑音聴取せず。体幹部中心に、地図状の膨疹、紅斑が多発している。

検査所見:血液所見:白血球10200/μL(好中球93.0%、リンパ球5.0%、単球2.0%)、赤血球419万/μL、Hb 13.2 g/dL、Hct 39.5%、血小板16.3万/μL、血液生化学所見: AST 20 U/L、ALT 18 U/L、ALP 149 U/L、総ビリルビン1.3 mg/dL、BUN 21 mg/dL、Cr 0.81 mg/dL、CRP 3.16 mg/dL。

最初に使用する薬剤は何か。1つ選べ。

(a)イソプロテレノール

(b)アドレナリン

(c)アトロピン

(d)デキサメタゾン

(e)アミノフィリン

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』第3版の症例166)

今回の皮疹のうち膨疹とは、皮膚にある肥満細胞から放出されたヒスタミンが血管を拡張させて赤色調を呈し、拡張した血管(通常は真皮上層の毛細血管であり、真皮下層場合は特に血管浮腫と呼ばれる)から血漿成分が漏出するため浮腫を起こした状態を言い、これはまさに蕁麻疹である。浮腫の程度が軽微であると浮腫性隆起を伴わない赤色皮疹となるため一部の皮疹は紅斑となっているものと思われる。原因については多様であり、8割の症例で不明と言われている。通常は、今回の症例のように突然出現して体表面の皮膚に現れ、点状、線状、円形、地図状のように膨らんだ発疹が出没し、また移動していくが、通常は一過性であり、数時間~数日、長くても1ヶ月程度で完全に治る。しかし、そのように一過性で治る急性蕁麻疹に対して、時には4週以上続く慢性蕁麻疹も存在する。

原因はつかめないことが多いが、何らかのアレルゲンが体内に侵入し、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危険を与え得る過敏反応をアナフィラキシーという。さらにアナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合をアナフィラキシーショックという。機序はいずれであれ強いアレルギー反応が生じればアナフィラキシーを生じる。蕁麻疹は通常は体表面の皮膚に限局する反応であるが、皮膚のみでなく粘膜にもこのアレルギー性の浮腫が生じる場合があり、この場合、命にもかかわる危険な状態となる。なかでも最も注意しなければならない兆候は喉頭浮腫である。これは気管入口部の粘膜に浮腫が生じ、初期の軽い時期には咽頭部のつまり感や呼吸がしにくい感じを自覚し、少し声がかすれるようにもなるが、さらに進むと強い呼吸困難を起こすものであり、この症状が一気に起こると、窒息につながる。また、喉頭浮腫ほどの緊急性はないが、腸の粘膜が蕁麻疹で腫れると下痢、腹痛、嘔吐などの腹部症状が出現する。これらの症状が強い場合は、循環血漿量が低下し、脱水症状やショック状態が起こることもある。今回の症例では、明らかに喉頭浮腫が出現してきており、血圧低下や頻脈など循環血漿量の低下を示唆する所見も見られているためアナフィラキシーショックとしての対応が必要である。腹部症状もアレルギー反応に連動して生じていると考えられる。

まず急な体位変換によって急変することがあるので、仰臥位にして下肢を挙上させる。酸素飽和度やバイタルチェックを行い、症状の程度によっては気道確保を要する場合もある。しかし何よりも最初に行わなければならない処置はアドレナリン0.3 mgの筋肉内注射である。さらにアドレナリン投与に引き続き、すみやかに大量輸液を行い、循環血漿量の低下、血圧低下などに対応する。またアナフィラキシー反応の遷延化や遅発相の出現を防止するために、速効性ステロイドを静脈内投与する。また今回はすでに最初から投与されていたが抗アレルギー薬はこの時点で投与を開始する。

解答:(b)

実際の症例では

実際の症例では、脈拍数は95/分と軽度頻脈はあったが、血圧はなお110台あった。すでに皮膚科からフェニラミン(ポララミン®)とグリチルリチン製剤(ネオファーゲン®)の点滴投与が行われていたにもかかわらず、喉頭浮腫と思われる症状が出現してきたわけであり、頻脈もみられ、やはりアナフィラキシーとして迅速な対応が望まれる。喉頭浮腫の症状としては軽症であったため、アドレナリン0.3 mgを筋肉内注射し、その後に遅れて生じてくる反応を抑えるためステロイドとしてヒドロコルチゾン(サクシゾン®)300 mgを点滴投与した。喉頭浮腫症状や胃腸症状は明らかに消失したが、16時半ごろになって前胸部だけでなく背部、臀部に新たな蕁麻疹が出現するとともに声がかすれる症状の訴えが再びみられた。このため再度アドレナリン0.3 mgを筋肉内投与し、ステロイドとしてメチルプレドニゾロン(ソルメルコート®)125 mgを6時間ごとに4回/日のペースで投与を開始した。また抗アレルギー薬としてはH1受容体とH2受容体の両者を阻害させるため、フェニラミンとファモチジンと両者の点滴投与も開始した。その結果、翌日には喉頭浮腫症状は全くなくなっており、バイタルも安定していたため、輸液本体は中止し、3日目にはメチルプレドニゾロンは12時間おきの投与に減量、4日目にはほとんど症状は消失したためメチルプレドニゾロンは中止し退院とした。退院時には、皮膚科から2つの第2世代H1受容体拮抗薬として、レボセチリジン(ザイザル®) 5 mg/日とメキタジン(ゼスラン®、メキタジン®)3 mg/日が処方された。

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