腹痛と背部痛

問題16

60歳の男性。持続する腹痛と背部痛も加わり救急受診された。

既往歴:7年前尿管結石の指摘あり

喫煙歴:40本× 40年間

飲酒歴:ふだんビール4L/週で摂取。

現症:身長173 cm、体重45 kg、血圧 138/ 91 mmHg、脈拍 105/分、体温36.4℃、呼吸数23回/分、Spo2 97%。皮膚可視粘膜に貧血黄疸なし。心肺に異常なし。腸蠕動低下。腹部心窩部を中心に圧痛あり、筋性防衛あり。腹部腫瘤は触知しない。

検査所見:血液所見:白血球 7500/μL、赤血球 394万/μL、Hb 14.3 g/dL、Hct 40.9%、PLT 24.4万/μL、凝固線溶所見:PT 10.3 sec(106.6%)、Fibrinogen 117 mg/dL、FDP 5.6 μg/mL、血液生化学所見:TP 7.0 g/dL、Alb 3.9 g/dL、総ビリルビン 0.8 mg/dL、AST 51 U/L、ALT 33 U/L、γ-GTP 427 U/L、LDH 215 U/L、AMY 462 U/L、Creat 0.53 mg/dL、BS 163 mg/dL、HbA1c 6.9%、T-Cho 160 mg/dL、TG 310 mg/dL、Ca 8.9 mg/dL、CRP 0.12 mg/dL

造影CT

本疾患の慢性化に関与していると考えられている因子はどれか。2つ選べ。

(a)喫煙

(b)糖尿病

(c)アミラーゼ上昇の程度

(d)高トリグリセリド血症

(e)飲酒

解説(オリジナルは『Dr.Tomの内科症例検討道場』第3版 症例40

持続する腹痛と背部痛も加わり、膵逸脱酵素であるアミラーゼが上昇し、腹部造影CTでは膵腫大と膵周囲に少量の液体貯留があるので、急性膵炎と診断するのは容易である(図1)。提示されている画像については、明らかな腫瘍もみられず、主膵管は十二指腸乳頭付近まで途絶することなく追跡できる。

図1:腹部造影CT。膵腫大と膵周囲に少量の液体貯留が認められ(黄矢印)、急性膵炎と診断される。

問題ではこの急性膵炎が慢性化する因子は何かが問われている。メタアナリシスでは、急性膵炎を示す最初のエピソードの後、患者の約22%が再発性膵炎を発症し、10%で慢性膵炎へと移行すると報告されている。そのサブグループ解析では慢性化へ移行する危険因子も検討され、最も重要な因子は喫煙と飲酒であり、その他、男性は女性より慢性化しやすいことも報告された。したがって一度急性膵炎になった患者に対して、禁煙、断酒を指導することが重要である。日本の調査結果もほぼ同様であるが、重症膵炎患者の慢性化の移行が高いことが報告されている。

 選択肢の高トリグリド血症は1000~2000 mg/dL以上となると急性膵炎発症の危険因子となることが知られている。糖尿病は急性膵炎の合併症として知られている。アミラーゼ値は、急性膵炎重症化の危険因子にも含まれず、慢性化の危険因子でもない。本患者ではみられないが、BMI≧30 kg/m2の肥満は急性膵炎の重症化の危険因子として知られている。

解答 (a)(e)

実際の症例では

予後因子は0点、造影CT Gradeも1点となり軽症と判定された。絶食、持続点滴によりすみやかに軽快し退院された。

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