大腿骨頸部骨折の認知症患者
問題118
病診連携の地域連携パスにより大腿骨頸部骨折後に介護老人保健施設に入所した65 歳以上の高齢者について、認知症を有する有病率を50%とした。この集団に対して改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDR-S)を行った。20点以下を陽性と判定し、認知症があると診断することとする。HDR-Sの感度は0.90、特異度は0.82であることがわかっている。
問題
(1) 陽性尤度比はいくらになるか。最も近いものを選べ。
(a) 2
(b) 3
(c) 4
(d) 5
(e) 6
(2)HDR-Sが陽性のときの事後確率(%)はいくらになるか。最も近いものを選べ。
(a) 72
(b) 83
(c) 94
(d) 103
(e) 112
(類題 2016年総合内科専門医試験)
解説
一般にある疾患のあるなしに関して、検査が陽性とでるか陰性とでるかによって、以下のような分割表が作成できる。今回の問題では、HDR-Sが20点以下を陽性とし、21点以上を陰性としている。
表1:分割表
まず検査の感度とは、真の陽性率のことであり、この表ではa/(a+c)にあたる。実際にその病気が発生している人の中で、検査で陽性になった人の割合のことである。特異度とは、真の陰性率のことであり、表ではd/(b+d)にあたる。その病気が発生していない人の中で、検査で陰性になった人の割合のことである。陽性尤度比とは、検査結果が陽性となった人に着目したときに、病気のある人は病気のない人に対して何倍病気である確率があるかを表す。つまり
陽性尤度比
=(病気である人が検査陽性となる確率)/(病気でない人が検査陽性となる確率)
={a/(a+c)}/{b/(b+d)}
となる。ここで感度はa/(a+c)、特異度はd/(b+d)だったので、
陽性尤度比=感度/(1-特異度)で算出できる。
ポイント①
分割表1で感度=a/(a+c)、特異度=d/(b+d)
陽性尤度比={ a/(a+c)}/{b/(b+d)}=感度/(1-特異度)
次に確率とオッズの関係について考える。事前確率や事後確率という用語がある。事前確率とは、何かの検査など診断にせまるプロセスを起こす前に、その事象が起こる数を全事象の数で割ったものである。これに対して、オッズはある事象が起こる確率をそれ以外の事象の確率で割ったものである。検査前オッズとは、検査を受ける前に、病気がある確率と病気のない確率の比であり、検査後オッズとは、ある検査を受けて陽性となった場合に、病気がある確率と病気がない確率の比である。イメージでつかみたいが、陽性尤度比は、ある検査結果が陽性となった場合に、その病気である確率が検査前より何倍に増えるかを表しているので、
検査後オッズ=陽性尤度比×検査前オッズ
になる。
ポイント②
検査後オッズ=陽性尤度比×検査前オッズ
検査後オッズ=陽性尤度比×検査前オッズであり、検査を受けて陽性となった場合に、病気がある確率と病気がない確率の比が検査後オッズなので
検査後オッズ=検査後確率/(1-検査後確率)
の関係になるはずである。(これは検査前オッズと検査前確率との関係も同様である。)
これを変形していくと
検査後確率=検査後オッズ/(1+検査後オッズ)
となる。検査後確率を求めるのに検査前確率に陽性尤度比をかけたりせず、まず検査後オッズを陽性尤度比×検査前オッズによって求め、その後、オッズを確率に変換する。
ポイント③
確率=オッズ/(1+オッズ)
(1)
陽性尤度比=0.90/(1-0.82)=5
(2)
検査前オッズは50/50=1
検査後オッズは1×5=5
これを確率に直すと
{5/(1+5)}×100≒83%
解答
(1) (d)、(2) (b)
本日は2022年度総合内科専門医試験日である。受験生のみなさんの合格を祈念します。