足が紫色に

問題3

74歳の男性。3か月前にアテローム血栓性脳梗塞の診断のもと脳神経外科で血管内ステント留置術を受けられた。その後、軽度腎機能障害がみられており、右第1~3足趾に疼痛が出現するため内科照会されて来院した。13年前から糖尿病、高血圧症、脂質異常症のため近医内科で内服加療中である。

家族歴:特記すべきことはない。

現症:身長 167.0 cm、体重 64.0 kg。血圧 162/92 mmHg、脈拍 114/分、整。体温 36.1℃。足背動脈は良好に触知。右第1~5趾に暗紫色の色調変化を認める。右足趾の写真を示す。

検査所見:血液所見:白血球 8600/μl、赤血球 390万/μl、Hb 11.8 g/dl、Hct 34.8%、血小板 40.8万/μl、血液生化学所見:総蛋白 7.1 g/dl、Alb 4.8 g/dl、AST 21 U/l、ALT 15 U/l、ALP 252 U/l、LDH 224 U/l、BUN 18 mg/dl、Cr 1.79 mg/dl、尿酸3.9 mg/dl、HbA1c 6.3%、Na mEq/l、K mEq/l、Cl mEq/l、FBS 153 mg/dl、HbA1c 6.3%、LDL 84 mg/dl、HDL 57 mg/dl、TG 98 mg/dl、尿所見:蛋白(1+)、糖(-)、潜血(1+)

(1)診断に最も有用な検査はどれか。1つ選べ。

(a)下肢血管造影(b)皮膚生検(c)腹部超音波検査(d)FDG-PET(e)骨髄生検

(2)この病態で認められるものを2つ選べ。

(a)IgA上昇、(b)補体低下、(c)好酸球増加、(d)ANCA陽性、(e)ASLO陽性

解説

今回の症例は、ベースに糖尿病、高血圧、高脂血症という動脈硬化性病変を有する可能性が高い患者に、腎機能障害が出現としていることと3か月前に血管造影を施行されているという問診内容、血液検査での好酸球増多、特徴的な皮膚所見、からコレステロール塞栓症を疑うべき症例である。

コレステロール塞栓症は大動脈などの大血管壁にあるコレステロールを含んだ動脈硬化病変(粥腫)が何らかの原因で破綻し、コレステロール結晶が遊離して血中に流出し末梢動脈で塞栓をきたし、機械的閉塞とそれに付随して生じる炎症反応で末梢臓器障害をきたす疾患である。したがって本症例のように動脈硬化病変を有する高齢者、特に男性に多い。粥腫が破綻する誘因としては、カテーテル検査、心血管手術(冠動脈バイパス術、動脈瘤手術)、抗凝固療法など医原性のものが多い。皮膚の肉眼所見としては、外傷、寒冷障害、チアノーゼなどを生じるような病態がないにもかかわらず、足趾が青色~紫色に色調変化を起こし、疼痛を伴う。これはblue toeと呼ばれている。また、一般的に本症では赤紫色の樹枝状ないしは網目状の模様もみられ網状皮斑livedo reticularisと呼ばれており、これも末梢循環不全を反映するものといわれている。皮膚のほか、腎臓、消化管、中枢神経、網膜など重要臓器にも塞栓をきたしやすく、特に腎臓は血行力学的にコレステロール結晶が流入しやすく、約半数の症例で腎機能障害が認められる。この腎機能障害についてはコレステロール結晶による微小塞栓が生じたのち、免疫反応による腎障害が生じるため1週間から数か月で発症することが多いが、数日以内に生じる場合もある。そこで今回の症例をふりかえると、74歳男性という高齢男性で、動脈硬化病変が進行しやすい糖尿病、高血圧、脂質異常症を有していること、3ケ月前にアテローム血栓性脳梗塞に対して血管内ステント留置されていること、その後、軽度ではあるが腎機能障害が出現していること、網状皮斑ははっきりしなかったが特徴的な皮疹としてblue toeが左拇指を中心に両側足趾にみられてきたこと、などから、典型的な症例といえる。本疾患に認められる検査異常としては炎症反応の上昇と好酸球増多(頻度60~80%)が報告されている。また補体が活性化し消費されるため低補体血症がみられる。コレステロール塞栓症が疑われる症例では早期に確定診断をつけるためにも皮膚生検が重要である。塞栓を起こすコレステロール結晶そのものは、病理組織標本を作成する過程で溶出してしまい、コレステロール結晶が溶出したあとに針状の裂隙として残ったコレステロールクレフトが動脈内に観察される。このように本疾患はカテーテル検査や心血管手術のあとの急性腎障害の原因として知られている。一般に予後は、特に腎機能に関する経過が悪く、30~60%で血液透析に移行し、たとえ血液透析に至らなくても腎機能が完全に回復することは少ないとされている。近年これに起因すると考えられる慢性腎障害の報告が増えている。多臓器障害をきたした場合の1年死亡率は64~87%と予後不良である。特異的な治療はないが、さらなる塞栓を予防するために、動脈硬化性疾患の治療を強化する方針をとる。具体的には、抗凝固療法が原因と考えられる場合は中止する。さらにスタチン系薬剤は大血管の粥腫を安定させる効果があるといわれており、これによってコレステロール塞栓症の腎不全死を減少させる効果があったとする報告もある。経過が改善せず、腎組織循環障害の進行を軽減する目的で、副腎皮質ステロイド剤とLDLアフェレーシスの併用が行われることもある。

解答:(1)(b)  (2)(b)(c)

実際の症例では

時折、粥腫破綻の誘因がはっきりしない症例もあり、気付かれないまま経過する場合があるため、高齢男性に発症した腎障害と皮膚病変を見た場合は本疾患を常に念頭におきたい。今回のもととなった実際の症例では、好酸球増加はみられなかった。また実際初診時の血圧も208/127 mmHgだったが、こちらに目が行き過ぎないよう修正して作問した。

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