下肢のしびれ

問題57

60歳の男性が右下肢のしびれを主訴に来院。

現病歴:以前から糖尿病、脂質異常症のため近医通院加療中である。以前から右下肢のしびれを感じていたが、階段昇降時、坂道や長距離の歩行時に右大腿部の痛みによる間欠性跛行がみられるようになり当院受診された。

生活歴:飲酒歴:社交飲酒。喫煙歴:15本×33年。

現症:身長 171.0 cm、体重 63.0 kg。血圧下記の通り、脈拍 73/分、整。体温 36.5℃、Spo2 96%。皮膚、可視粘膜に貧血、黄疸を認めず。頸静脈怒張を認めない。胸腹部に異常を認めず。下肢に浮腫や発赤なし。足背動脈とも右は左に比べやや触知不良。両側膝蓋腱反射低下。

検査所見:尿検査:pH 8.5、比重1.010、蛋白(∸)、糖(∸)、ウロビリノーゲン(±)、ビリルビン(∸)、ケトン体(∸)、潜血(∸)、白血球(∸)。血液所見:白血球7000/μL、赤血球458万/μL、Hb 15.0 g/dL、Hct 45.6%、血小板21.3万/μL。血液生化学所見:AST 26 U/L、ALT 25 U/L、Amyl 98 U/L、TP 7.7 g/dL、BUN 14 mg/dL、Cr 0.82 mg/dL、Na 136 mEq/L、K 4.7 mEq/L、Cl 103 mEq/L、BS 178 mg/dL、HbA1c 6.7%、LDL 100 mg/dL、HDL 32 mg/dL、TG 145 mg/dL。免疫血清学的所見:CRP 0.21 mg/dL。

次に行う検査はどれか。1つ選べ。

(a)下肢末梢神経伝導速度の測定

(b)下肢単純CT検査

(c)D-dimerの測定

(d)足関節上腕血圧比(ABI)の算出

(e)下肢静脈造影

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』にはないが院内で行った内科症例検討道場で症例209として扱ったもの)

今回は典型的な下肢閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans; ASO)である。ASOは、動脈硬化により四肢の血流障害をきたす疾患をいう。50~60歳以上で糖尿病、高血圧、脂質異常症、(糖尿病などによる)慢性腎不全、喫煙など動脈硬化のリスクファクターを有する患者に起こりやすい。症状が急激に出現する急性閉塞性動脈硬化症もあるが、通常、ASOという場合は慢性閉塞性動脈硬化症を指している。四肢のいずれの動脈にも生じるが、下肢に症状が起こりやすく、初期症状は下肢の冷感やしびれが出る(Fonaine分類Ⅰ度)。これが進行すると、一定の距離を歩行した時に、下腿や大腿に痛みを感じるようになり、一旦休むと痛みもとれてまた歩行可能となる、いわゆる間欠性跛行がみられるようになる(Fonaine分類Ⅱ度)。さらに進むと、安静時にも痛みが生じ(Fonaine分類Ⅲ度)、小さな傷でもそれが原因となって壊死や潰瘍を形成する(Fonaine分類Ⅳ度)こともある。今回の症例でもベースに糖尿病、脂質異常症、長期喫煙歴がある60歳の患者で下肢のしびれと間欠性跛行を主訴とした長い経過であり、下肢ASOが最も疑われる。膝蓋腱反射が両側低下しており糖尿病性神経障害もあるかもしれないが、通常その場合はしびれなどの症状は両側四肢(とくに下肢の)末梢にくるので、今回の症状には合わない。

検査の方法としては、閉塞した部位より末梢の動脈拍動がふれにくくなるので下肢の症状の場合は、鼡径部の大腿動脈、できれば膝窩部の膝窩動脈、さらにそれより末梢の足背動脈の触知に左右差がないかどうか診察レベルでチェックすることが重要である。今回の症例では右鼡径部の大腿動脈の拍動は明らかに左に比べて低下しており、右足背動脈も左より弱い印象だった。問診や触診などでこのようにASOを疑った場合、次の段階としてこれを数値化して評価するパラメーターとして頻用されているのがABI(足関節上腕血圧比ankle brachial pressure index)である。ABIは足関節と上腕の血圧を測定し、その比を足関節収縮期血圧÷上腕収縮期血圧として計算したものである。動脈硬化が進んでいないと、仰臥位で上腕と足関節で血圧を測定すると、足関節の方がやや高い値を示す。しかし動脈の内膜に粥状硬化が進んでくると、その部位の血圧が低下する。本疾患が下肢の動脈に起きることが多いため、ABIは低下してくる。ABIが1.0以下、特に0.9以下の時は、動脈硬化が疑われ、血管エコーや造影CTなどによるさらなる精査を行い、診断を確定する。治療としては、初期のしびれ感などについては血管拡張薬、抗血小板薬など用いる。さらに下肢の痛みが強い場合は、外科的にバイパス手術や内科的には血管内治療(endovascular treatment; EVT)、すなわちバルーン拡張術やステント留置術、などが試みられる。もちろんASOがさらにこれより進んで下肢に潰瘍形成などが生じると下肢切断術を要する場合もある。

解答:(d)

その他に出題される可能性のある項目

●解説でも説明したように、疼痛が出現している時点での初期治療は血管内治療である。

出題の傾向

今回の症例は典型的だったので、診断は容易だったと思われるが、認定医試験で過去に症例を提示した問題として出題されているため、確認の意味も含めて出題した。

実際の症例では

今回の症例では右上腕血圧150/82 mmHg、右足関節血圧98/66 mmHg、左上腕血圧151/82 mmHg、左足関節血圧170/79 mmHgだった。このため右ABIは98÷150=0.65、左ABIは170÷151=1.13で明らかに右の下肢ASOが疑われるため、下肢造影CTを施行することとなった。下肢造影CTでは右総腸骨動脈に著しい血管狭窄像が認められASOと診断した(図1:橙色矢印)。それより末梢側の血流は比較的保たれているようにみえたが、ASOの治療により症状改善の可能性を考え、右総腸骨動脈の著しい狭窄に対して、EVTとしてバルーン拡張術とステント留置術を行った(図2)。これにより、右下肢のしびれは劇的に改善し、跛行はなくなった。ABIは右1.20、左1.13となってEVTにより劇的に改善した。術後、アスピリン(バイアスピリン®)100 mg 1錠/日、シロスタゾール(シロスタゾールOD®)100 mg 2錠/日を開始し、1年をめどにして問題なかったため

アスピリン単独療法に変更した。アスピリンもシロスタゾールも抗血小板薬であるが、シロスタゾールは抗血小板薬のうちホスホジエステラーゼ阻害薬に分類される。

図1:下肢造影CT。右総腸骨動脈に著しい狭窄(橙色矢印)が認められた。末梢側の血流は保たれてみえる。

(a)狭窄部より中枢には造影剤が届きにくい。(b)ガイドワイヤーで狭窄部より中枢側まで誘導したのち狭窄部のバルーン拡張。(c)狭窄部より中枢側も少し造影されるようになっている。(d)ガイドワイヤーを再び通し、狭窄部にステント留置。(e)ステント留置後バルーンにて狭窄部の後拡張。(f)処置終了後の造影。

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