倦怠感を主訴に来院

問題39

82歳の男性。全身倦怠感を主訴に来院した。

現病歴:食事がとれないことはなかったが、以前から倦怠感を覚えることがあり、その都度近医で点滴などを受けて加療されていた。最近、倦怠感が著明となったため内科受診となった。

既往歴:腰部脊柱管狭窄症で複数の薬を内服しているがこの半年で変更はない。

生活歴:飲酒歴:(-)喫煙歴:(-)

現症:意識清明。身長:151.5 cm、体重:44 kg。血圧103/68 mmHg、脈拍72/分、整。体温37.2℃。Spo2 95%。皮膚腋窩部など含めて乾燥なし。両側下肺野にVelcroラ音。病的心雑音なし。腹部は平坦、軟で異常なし。下腿浮腫なし。

検査所見:尿所見:尿浸透圧628 mOsm/kg・H2O(基準100~1300)、尿中Na 64 mEq/L。血液所見:白血球6200/μL、赤血球385万/μL、Hb 12.1 g/dL、Hct 37.7%、血小板22.7万/μL、血液生化学所見:空腹時血糖106 mg/dL、Alb 3.9 g/dL、BUN 16 mg/dL、Cr 0.73 mg/dL、UA 2.7 mg/dL、AST 27 U/L、ALT 18 U/L、Na 121 mEq/L、K 4.8 mEq/L、Cl 89 mEq/L、Ca 9.3 mg/dL、血漿浸透圧262 mOsm/kg・H2O(基準276~292)。ホルモン検査所見:TSH 3.902 μIU/mL(基準0.35~4.94)、ACTH 34.8 pg/mL(基準7.2~63.3)、ADH 2.3 pg/mL(基準0.3~4.2)、FT4 2.10 ng/dL(基準0.9~1.7)、コルチゾール18.6 μg/dL(基準2.7~15.5)、アルドステロン99.1 pg/mL(基準30~160)、PRA 2.9 ng/mL/時間(基準0.3~2.9)。

腹部CT、心臓超音波検査、頭部MRI(単純・造影)に異常を認めず。

胸部CTでは以前から肺線維症あり、今回も同様。

この患者で行うべき対応として正しいものを1つ選べ。

(a)精神科へのコンサルト

(b)水分制限の指示

(c)フルドロコルチゾンの投与

(d)24時間で3%食塩水を投与し血清Na値の正常化

(e)フロセミドの投与で利尿を促す

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』第3版症例111)

 今回の症例は原疾患を肺線維症としたSIADH(sydrome of inappropriate ADH secretion:ADH分泌不適合症候群)と考えられる。まず理学所見上、脱水や浮腫がなく、低Na血症がみられ、血漿浸透圧は262 mOsm/kg・H2Oと低浸透圧血症となっている。この低Na血症が倦怠感の原因になっている可能性がある。一般に何らかの原因で低浸透圧血症となっている場合、正常ではADHの分泌は検出感度未満に抑制され水の再吸収が起こらずに低浸透圧を是正しようとはたらく。しかしADHが不適切に過剰分泌されると水の再吸収が持続するため低浸透圧血症が持続したままとなる病態である。この場合、水の再吸収のため循環血液量が増えてNaが希釈されることと、GFRの増加や心房性Na利尿ペプチド(ANP)によりNa利尿が起こる、という2つの理由から低Na血症となる。一方GFRの増加やレニンアンギオテンシンアルドステロン系の作用で脱水や浮腫は起こらない程度に調節される。なおレニンは、傍糸球体装置での循環血漿量を感知して、これがもし低下するとレニン産生が増え、アンギオテンシン、アルドステロン系が亢進するが、SIADHでは循環血漿量がわずかに増加している状態にあるためレニン、アルドステロンは増加しない。さらに、データから副腎皮質機能低下や腎機能低下はない。SIADHの診断基準を示す(表1)。

表1:SIADHの診断基準

SIADHの治療は、原疾患に対する治療と低Na血症に対する治療からなる。原疾患の治療はそれぞれ異なるが、低Na血症は本症例のように軽症ならば、治療の基本は水分制限と経口での塩分摂取である。水分制限は15~20 ml / kg体重(実際は食事中の水分もあるためまずは食事外の水分を1L未満にするところから始める)とし、塩分は食塩を200 mEq以上経口的に投与する。血清Na値が120 mEq/Lまで低下するまでに食欲低下も生じることが多く、さらに120 mEq/Lを切ると、意識障害、痙攣なども生じる。意識障害や痙攣のような治療を急ぐ場合には、3%の高張食塩水で補正をはかるが、その補正速度は6~10 mEq/L/24時間までにおさえることが推奨されている。20 mEq/L/24時間以上の速度で補正すると高率に不可逆性の橋中心髄鞘崩壊が生じるとされている。低Na血症による痙攣は6 mEq/L程度のNaの上昇で止まるとされているので、その時点で急速補正は中止する。また異所性ADH産生腫瘍によるSIADHにのみモザバプタンが保険収載されている。

なお中枢性塩類喪失症候群(CSWS)や老人性鉱質コルチコイド反応性低Na血症(MRHE)はSIADHにほぼ類似の血液、尿所見を呈するが、CSWSは中枢神経疾患によるBNPやANP産生亢進を背景にNa利尿が生じる病態、MRHEは高齢者にみられ、加齢に伴いレニンアルドステロン系の反応低下により腎におけるNa保持能力が低下するため、排泄されるNaといっしょに水分も排泄されていく病態で、これらいずれの病態でも体液量の減少(脱水)を生じる。脱水があるかどうかがこれらの病態とSIADHとの鑑別になるが、しばしば鑑別が難しいこともあり、Na>120 mEq/Lのような軽症の低Na血症の場合、まず水分制限したうえで、データの推移をみて、悪化があれば方針転換するという方法も提案されている。この2疾患については、鉱質コルチコイド製剤フルドロコルチゾン(フロリネフ®)が投与される。

解答:(b)

試験の傾向

SIADHの病態が理解されていれは正答肢を選べる問題が多い。このほか、肺癌など悪性腫瘍に伴うSIADHも出題される。低Na血症の治療について、橋中心髄鞘崩壊は頻出項目である。またCSWSやMRHEは、SIADHとの鑑別という点で実臨床では大変重要であるが現在までのところ総合内科専門医試験レベルでは問われていないようである。

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