動悸で受診

問題36

74歳の男性。20年くらい前から月に1回くらい動悸を覚えていた。某年9月29日午前3時頃から頻脈に気付き、安静にしていても治まらず当院救急受診した。血圧 117/73 mmHg。両側下腿や顔面に浮腫はなく、頸静脈怒張も認めない。

この時の心電図(電位1/2表示)を示す。

救急室で薬物投与し、発作は治まって入院とした。入院3週間後の心電図(電位1/2表示)を示す。

用いられた初期治療薬として考えられるものはどれか。2つ選べ。

(a)ベラパミル

(b)ピルジカイニド

(c)ジソピラミド

(d)リドカイン

(e)ジギタリス

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』第3版の症例132)

心拍数は164回/分であるため、動悸の原因は頻脈であることを確認したら、次に着目すべきところはQRS幅である。QRS幅が0.10秒(心電図では2.5 mm)未満であれば幅は正常と判断する。これを、幅が広がったwide QRSと対比させてnarrow QRSと呼ぶこともある。Wide QRSはQRS幅が0.12秒(心電図では3.0 mm)以上の場合を呼ぶ。QRS幅の次に着目するべきポイントはリズムが規則正しい(整、regular)のか不規則(不整、irregular)なのかである。これらに着目したうえで、頻脈を次の4つのカテゴリーに分けることができる。

  1. narrow QRS, regular tachycardia;洞性頻脈、心房頻拍(AT)、発作性上室頻拍(PSVT)、心房粗動(AF)、非発作性房室接合部性頻拍
  2. narrow QRS, irregular tachycardia;心房細動(af)、房室伝導比が不定の心房粗動
  3. wide QRS, regular tachycardia;心室頻拍(VT)、上室頻拍+脚ブロック(変行伝導)、上室頻拍+WPW症候群
  4. wide QRS, irregular tachycardia;torsade de pointes(TdP)、心房細動+脚ブロック、心房細動+WPW症候群

なお心室細動では心電図上、頻繁に波形が出現するが、基本的に心停止となっており頻脈ではない。今回救急受診された時の心電図をよくみると、wide QRS, irregular tachycardiaであることがわかる。QRS幅が広いことはすぐわかるが、しっかり意識してみないとregular tachycardiaにみえてしまうので注意しよう(図1)。

図1:P波を認めず、広いQRS幅があるが、RR間隔は不整である(赤線の間隔)。QRSのパターンは右脚ブロックでも左脚ブロックでもないのでWPW症候群に心房細動が発生したのではないかと疑う。WPW症候群であれば右脚ブロック類似波形(R型)であり、Kent束が左房-左室にあるA型と考えられる。

今回の場合、上記の分類4)の不整脈を考えることになるが、まずtorsade de pointesは全く波形が違うので除外できるだろう。そこで心房細動+脚ブロックとみるか心房細動+WPW症候群とみるか、ということになってくる。このうち心房細動+脚ブロックの波形であれば、①心房細動に右脚ブロックが合併した場合:あくまで右脚ブロックのV1、V2でrsR’パターン、V5、V6で幅の広いS波、②左脚ブロックが合併した場合:V1、V2でrSパターン、V5、V6で幅広いR波がでる。(覚え方:V1で幅が広く、えむきはきゃく、たむきはきゃく、と覚える)

そこで今回の心電図を見直すと、確かにV1、V2で幅の広い高いR波がみられるが、それに先行するr波、s波がみられず(Rパターン)、通常の右脚ブロックではない。もちろん左脚ブロックにも合わない。そこで、ひょっとしてこれはWPW症候群に心房細動が生じたのではないか、という疑いをもつにいたる(図1)。

 WPW症候群(Wolf-Parkinson-White syndrome)とは、His束からPurkinje線維へと向かう正常の伝導路に加えて、Kent束と呼ばれる副伝導路が存在し、この伝導路が心房と心室を直接結んでいるため、正常伝導路よりも早期に心室を興奮させる疾患である。したがってPQ時間は短縮する。Kent束は、右房-右室あるいは左房-左室に存在するものがあり、稀に心室中隔に向かう場合もある。Kent束が右房-右室に存在する場合には、右室が早期に興奮するために、興奮の伝わり方は、右室が先で左室が後となり、心電図波形は左脚ブロックに類似した型(rSパターン、B型という)を示す。これに対して、左房-左室間に存在する場合は、左室が早期に興奮するため、興奮の伝わり方は、左室が先で右室が後となり、そのため心電図波形は右脚ブロックに類似する(Rパターン、A型)。 またC型は、Kent束が中隔にありV1誘導でQSパターンをとる。 今回の症例がWPW症候群とすれば心電図が右脚ブロックに類似しているので左房-左室間にKent束があるA型ではないかと考えられる。WPW症候群では正常伝導路とKent束からの伝導路の2つの経路があるわけだが、ここに心房細動が生じた場合、Kent束主体に興奮が伝われば幅の広いQRSが頻発し、あたかも心室頻拍様となるのである(pseudo VT)。

またWPW症候群ではこの脚ブロック類似の波形を示す特徴に加えて、心室が早期に興奮する現象に対応してデルタ(δ)波と呼ばれる特有の波形が心電図のP波の後に現われる。通常Kent束は固有心筋で、正常なHis-Purkinje系よりも興奮伝導速度は遅い。したがってδ波は早期に興奮するため早く立ち上がってくるが立ち上がりかた自体は緩徐となる。δ波は、心電図波形を、注意深く観察しないと見落としてしまうし、特にモニター波形では判別が困難であるため、疑わしい場合には必ず12誘導心電図を記録するのが鉄則である。また、今回のような頻脈発作の心電図波形ではδ波をみつけるのは困難で、頻脈が治まったあとで見返して指摘できる場合もある。本患者の場合も、発作時の心電図でδ波を指摘するのは困難である。

 WPW症候群をベースにした心房細動かもしれないと考えれば、治療において抗不整脈薬の使用には十分注意する必要がある。すなわち、ジギタリス製剤、Ca拮抗剤、ATP製剤、β遮断薬などは正常伝導路のみ抑制するためKent束を介した伝導をさらに起こりやすくことから禁忌である。とくにジギタリスは、正常伝導路を抑制するのに加えてKent束の不応期を短縮させる作用もあり心室細動を誘発する可能性がある。第1選択薬はNaチャンネルに親和性が高いⅠa群のプロカインアミド(アミサリン®)やジソピラミド(リスモダン®)、Ⅰc群のピルシカイニド(サンリズム®)である。入院3週間目の心電図ではP波が認められており、δ波も認識できる。さらにここで注目したいのはよくみるとV1で rsR’パターンとなっていて右脚ブロックの波形となっていることである。すなわち本患者はもともとKent束だけではなく、完全右脚ブロックももっているのではないかと考えられるのである(図2)。

図2:入院2週間目の心電図。P波が認められ心房細動は治まっており、δ波もはっきり認められる(赤矢印)。また完全右脚ブロックの波形である。

解答 (b)(c)

試験の傾向

健診で不整脈を指摘された既往ありと提示され、その時の心電図を提示し、WPW症候群と診断させておいて頻拍発作時の心電図を考えさせるパターンの問題が多い。試験対策の視点からいうと、今回の問題も、まず図2の発作が治まったあとの心電図をみてから発作時の心電図をみると、正解にはたどりつきやすい。ジギタリス、ベラパミルの禁忌は定番である。

そのほかに問われる可能性のある項目

●WPW症候群における頻脈発作には今回のように心房細動(発作の中の20%)のほか、発作性上室頻拍(PSVT)があり、規則正しいRR間隔でQRS幅は正常、δ波はない。PSVTの方が予後良好で心房細動の方が、心室細動に移行しやすい。

実際の症例では

 今回の症例では初期治療にあたりピルジカイニド50 mgを点滴投与し、発作はおさまった。今回のようにWPW症候群に心房細動が合併すると、通常の心房細動とは異なり、心房の興奮がKent束を介して非常に速く心室に伝わるため、高度の頻拍をきたす。また心室細動に移行して突然死の原因となる場合もある。従って方針としては、すみやかにカテーテルアブレーションによりKent束を焼灼する根治療法を勧めることになる。今回アブレーションを行ったところ、δ波は消失した(図3)。

図3:カテーテルアブレーション後の心電図。右脚ブロックは残っているが、δ波は消失している。

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