右顔面の発赤と疼痛

問題62

79歳の女性。4日前から右顔面の発赤をともなうピリピリした痛みが出現。右下顎部の痛みも覚え、3日前には頭もピリピリ痛むようになり症状が改善なく、本日、全身倦怠感も出現したため救急受診された。

既往歴、家族歴:特記事項なし。

現症:意識レベル JCS Ⅲ-100(閉眼しているが、簡単なことには従命)、血圧 181/79 mmHg、脈拍 79/分、整。体温 37.7℃、Spo2 96%(room air)。

右下顎部の病変を示す。

本疾患について誤っているものを1つ選べ。

(a)入院管理のうえで飛沫感染予防策が必要である。

(b)髄液中の細胞増多が40~50%の頻度でみられる。

(c)免疫能が正常の場合、再発は稀である。

(d)高齢者ではワクチン接種が発症予防に有効である。

(e)後遺症として難治性の疼痛がみられる場合がある。

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』にはないが院内で行った内科症例検討道場で症例285として扱ったもの)

帯状疱疹の症例である。帯状疱疹は水痘罹患時に感染した水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus;VZV)の体内での再活性化によって生じる。今回の症例ではピリピリした痛みを伴っており、右の三叉神経第3枝である下顎神経(卵円孔を介して頭蓋から外に出て、下顎の歯、下顎、下唇、頬、オトガイ、頬粘膜、舌の前2/3の感覚、咀嚼筋の運動をつかさどる)に沿って、片側性に下顎部に紅斑~膨疹がみられ、水疱を多数伴っている。このように通常は1つの、時には2~3にわたるデルマトーム領域に皮疹が生じ、皮疹は神経痛に特徴的なピリピリした痛みを伴い、水疱を伴う紅斑であること、などから典型的な帯状疱疹と言える。この水疱を伴う紅斑は1週間から10日くらいで痂疲化する。今回のように頭痛、発熱、全身倦怠感など全身症状も伴う症例は20%程度とされている。両側におよぶなど播種病変を認める場合は、播種性帯状疱疹という。免疫能が健常である入院患者の限局性帯状疱疹は標準予防策でよいが、播種性帯状疱疹や、免疫不全患者の限局性帯状疱疹では接触予防策と空気感染予防策(飛沫予防策ではない)で管理する。免疫能が健常である場合は、帯状疱疹を繰り返すことは稀とされており、そのような症例ではHIV感染症をはじめ免疫能の評価が必要である。帯状疱疹の合併症として、8~15%で帯状疱疹後疼痛(postherpetic neuralgia)、2~3%で皮膚の二次感染としての細菌感染、1~2%で眼合併症(角膜炎、ぶどう膜炎)、1%で運動神経障害、0.5%で髄膜炎、0.2%で耳性帯状疱疹などが知られている。このうち髄膜炎の頻度は症状が出るものとしては稀であるが、実際は帯状疱疹の患者の40~50%が髄液検査で異常を示す無症候性の髄膜炎であるとの報告もあり、実際は比較的高頻度で髄膜へのウイルスの影響が波及している可能性がある。髄膜炎の合併症としてウイルスによる血管炎、これに伴う脳梗塞や出血を呈することがある。ちなみに後述するように、今回の症例は実際には軽い意識障害も伴っており、髄液採取も行い細胞増多を確認したうえで、VZVによる髄膜炎として治療している。

帯状疱疹で最後まで残る問題はペインコントロールである。帯状疱疹関連痛(zoster-associated pain;ZAP)は前駆痛、急性期痛、帯状疱疹後神経痛(post-herpetic neuralgia;PHN)、に分類されている。前駆痛や急性期痛はVZVの増殖により神経や皮膚の炎症が生じて起こる侵害受容体疼痛である。これに対してPHNは、そのような急性期の炎症で損傷、変性した神経が原因であり神経障害性疼痛である。PHNの時期的な定義は定まっていないが、帯状疱疹発症後3~6カ月後の疼痛とされていることが多く、概念的には帯状疱疹の皮疹消失後も長期間残存する疼痛を指している。本邦では、皮疹発症後3カ月目には12%程度の患者に疼痛が残存し、1年目には4%程度との報告もある。50歳以上であること、発症時に皮疹や疼痛の重症度が高いこと、の2点が、疼痛残存率が高くなる因子として挙げられている。治療としては、急性期の侵害受容体疼痛に対してNSAIDsあるいはアセトアミノフェンが有効である。一方、PHNに対する治療として、第一選択薬はアミトリプチリン(トリプタノール®)などの三環系抗うつ薬、プレガバリン(リリカ®)、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(ノイロトロピン®)、第二選択薬としてメキシレチン(メキシチール®)、デュロキセチン(サインバルタ®)、第三選択薬としてフェンタニル、モルヒネ、オキシコドンなどの強オピオイドやトラマドール、ブプレノルフィンなどの弱オピオイドが推奨されている。

 発症予防のために日本では水痘ワクチンを50歳以上の者に接種することが承認されている。ただしこれは生ワクチンであるため、免疫不全患者には接種できない。

解答:(a)

実際の症例では

既に述べたように、実際の症例では、搬送3日前から、残った食事にラップが巻けなくなり、搬送当日の朝、起きてこずベッドで寝ており、自分からは発語がなく、こちらの言うことにも反応しないなど普段と様子が違うことに家族が気づき救急要請された。救急室で採取した髄液は、外観が無色透明、比重1.008、pH 8.5、ノンネアペルト(-)、パンディ(1+)、トリプトファン(±)、蛋白 157 mg/dL、糖 54 mg/dL、Cl 107 mEq/L、ADA<2.0 U/L、細胞数 266/μL(単核球 91%、多核球9%)、後日、判明した結果として、髄液VZV-DNA(+)でVZVによる髄膜炎はあると思われたが、血液検査では髄膜炎に随伴してNa 121 mEq/Lと、そこそこの低Na血症がみられており、これも意識レベルの低下に寄与していた可能性が考えられた。各種血液検査や画像検査を総合的にみて、この低Na血症は髄膜炎に随伴した中枢性塩類喪失症候群(central salt wasting syndrome; CSWS)と考えた。これは中枢神経障害により、BNP、ANPそのほか様々なNa利尿に導くホルモンが過剰産生され、Naが尿中に過剰に排泄された結果、低Na血症とともに脱水も生じる状態であり、細胞外液補充と塩分補給、必要に応じて鉱質コルチコイドの投与が必要である。また髄膜炎の仙髄神経根への波及によるとされる一過性の膀胱直腸障害(Elseberg症候群)を反映し、著明な尿閉もみられており、すみやかに膀胱カテーテルを留置した。VZVによる髄膜炎の治療としては、単純ヘルペス脳炎の治療指針に準じて、通常投与量の帯状疱疹に用いる量の倍量の抗ヘルペスウイルス薬であるアシクロビル、具体的には10 mg/kg体重を1日3回の点滴投与を2週間行った。その結果、翌日には意識レベルも劇的に改善した。原疾患の改善とともに輸液による補正もあって血清Naは第2病日には124 mEq/L、第4病日には132 mEq/L、第10病日には136 mEq/Lに正常化した。2週間の治療も終了し退院された。

その他に聞かれる可能性のある項目

●「ピリピリする」という表現は疼痛の性状であり、医療面接のうえでの項目はquality/quantityである。

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