大量胸水の高齢者

問題76
78歳の女性。1か月前からの全身倦怠感、微熱を主訴に来院された。
既往歴:慢性関節リウマチで15年前から当院整形外科で加療されメトトレキサートを投与されており、関節症状はなくコントロール良好である。整形外科では毎年1回胸部レントゲン検査を施行されており特に異常を指摘されていない。
喫煙歴:なし。
現症:血圧 104/73 mmHg、脈拍 97/分、整。体温 37.4℃、Spo2 95%。頸静脈怒張を認めない。眼瞼結膜に貧血あり。胸部は両側呼吸音清。右中~下肺野の呼吸音の低下あり。心音は整、病的心雑音聴取せず。
検査所見:血液所見:白血球5200/μL、赤血球350万/μL、Hb 9.4 g/dl、Hct 30.4%、血小板24.6万/μL。血液生化学所見:T-P 6.8 g/dL、AST 31 U/L、ALT 14 U/L、LDH 296 U/L、CRP 9.40 mg/dL、BUN 10 mg/dL、Cr 0.91 mg/dL、RF 19 U/ml(基準0~15)。
胸部単純レントゲン写真、胸部CTでは肺野病変はみとめないが、大量右胸水を認める。
胸水所見:淡黄色混濁あり。pH 7.5、細胞数1697/μl(細胞分類:好中球2%、リンパ球97%、マクロファージ1%)、蛋白4.0 g/dl、糖80 mg/dl、ADA 122.2 U/L(基準5.0~20.0)、LDH 608 U/L。胸水細胞診に悪性所見なし。
最も可能性の高い疾患について正しいものを1つ選べ。
(a)抗酸菌塗沫検鏡で高率に陽性となる。
(b)通常胸痛を伴うことはない。
(c)滲出性胸水となることは稀である。
(d)直ちに隔離処置を行う。
(e)結核菌特異的インターフェロンγ遊離試験が陽性となる。

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』にはないが院内で行った内科症例検討道場で症例313として扱ったもの)
 慢性関節リウマチのため15年という長期にわたりメトトレキサートを投与されている中で、胸部単純レ線では明らかに右大量胸水が出現している患者である。診察の時点で貧血と右肺呼吸音の低下が指摘され、胸部レ線、胸部CTで、右大量胸水が示されている。肺野には腫瘍性病変や肺炎像は認めず、血液検査でも白血球数は正常でCRPが中等度以上に上昇し、胸水はLightの基準で、①胸水/血清比で総蛋白が4.0/6.8>0.5、②LDH値での比で608/296>0.6、③胸水LDHが血清LDHの基準値上限の2/3以上、の3つとも満たしていて滲出性胸水と診断でき(Lightの基準では①~③のいずれか1つを満たせば滲出性と診断できる)、好中球がほとんどなく、大半がリンパ球であること、そして最も大きな決め手はリンパ球優位の胸水でADAが122.2 U/lと上昇していることから結核性胸膜炎を強く疑うこととなる。そもそも胸腔に侵入した結核菌あるいはその特異抗原に感作されたCD4陽性リンパ球は、マクロファージTh1細胞主体の遅延型アレルギーを引き起こすことにより結核性胸膜炎が発症し、プリン代謝に関わる酵素であるADAがこのリンパ球の関与で胸水中に増量する。一般に胸水中のADAが、40~50 U/l以上の時、結核性胸膜炎の可能性が高いとされている。補助診断として重要な検査としては、QFTやT-SPOTなど結核菌特異的インターフェロンγ遊離試験であり、これが通常陽性となる。また胸水の結核菌PCRも行いたいところである。
 もし以上までの知識を持っている方なら結核性胸膜炎に関する選択肢を選ぼうと考える。そもそも結核性胸膜炎での胸水結核菌塗沫検査の陽性率は10%未満、培養検査での陽性率は10~20%とかなり低く、PCRを合わせると65%程度、侵襲的な胸膜生検で50~60%程度とされている。その点で簡便に評価できる胸水ADAやPCR検査はかなり重要な情報といえる。もちろん選択肢の(a)の胸痛については、胸膜炎なので伴うこともある。また肺野病変がなく、胸膜炎のみの場合は排菌していないため原則的に個室隔離を行う必要はない。

解答 (e)

出題の傾向
今回のように高齢者の二次結核として結核性胸膜炎が発症する場合と、特に既往歴もない若年者に一次結核として結核性胸膜炎が発症する場合があり、いずれのパターンでも出題される可能性がある。一次結核と二次結核については後述している。

実際の症例では
ADAが高いだけで結核性胸膜炎と決めつけてはいけない。今回の症例でも、問題にはあくまで「可能性が高い」、と書いており、診断が決まってしまっているわけではない。もし結核性の場合は、必ずリンパ球優位であることが前提で、そのもとでADAが上昇していることに注意する。結核性の場合のADAはアイソザイムではADA2であり、もし好中球優位でADAが上昇しているときは、ADA1が増加しており膿胸を考えなければならない。通常アイソザイムは測定できないため、白血球分画をみたうえでこの点について鑑別しておきたい。また逆にリンパ球優位の胸水でADAが40 U/l未満であれば、結核性胸膜炎は否定的と考えられている。今回の症例ではリンパ球優位なので結核性で矛盾はない。さらにT-SPOT検査もESAT-6>50スポット、CFP10>50スポットで陽性と判明した。
 ところが今回の患者のような慢性関節リウマチやIgG4関連疾患などの自己免疫疾患および悪性リンパ腫などの悪性疾患などで胸水中ADAが高値を示すことも報告されている。したがって、胸水ADAが高値であってもすぐに結核性胸膜炎ときめつけず、他の検査手段も併用しながら総合的に診断していきたい。慢性関節リウマチ患者に胸膜炎を生じた場合は、結核性胸膜炎と同じパターンで、単核球優位の滲出性胸水でADAが上昇し、約75%の症例では今回のように一側性となるため、ADAだけでは厳密には結核性胸膜炎と鑑別できないのである。ただし、そもそもリウマチ患者に胸膜炎が伴うことはよくあるが、ほとんどは少量胸水であり、今回のように大量胸水貯留を認めるのはリウマチ患者全体の3~5%程度と少なく、その場合、RFが高力価陽性例で、長期活動性関節症状およびリウマチ結節を有する患者に多い。今回のような19 U/mlのような低力価の患者で胸水の貯留が急に生じることは稀である。以上のような理由で、やはり第1に考えたいのは結核性胸膜炎ということになるが、確定診断の意味でも、胸水PCRをチェックしてみたかった。
 初回の胸水細菌塗沫検査は一般細菌、抗酸菌とも陰性、一般細菌培養検査も陰性、抗酸菌培養検査は4週目、8週目ともに陰性。PCR検査も結核菌、非結核性抗酸菌ともに陰性という結果が判明していた。ADAとT-SPOTの検査結果を受けて、総合的に結核性胸膜炎と考えて、イソニアジド(イスコチン®)100 mg 2錠/日、リファンピシン(リファンピシン®)150 mg 3錠/日、エタンブトール(エサンブトール®)250 mg 2錠/日、以上、いずれも分1投与で、この3剤を2か月投与し、その後、イソニアジドとリファンピシンの2剤のみで7カ月投与の結核治療B法に準じて治療を進めていった。イソニアジドによるビタミンB6濃度低下を予防するべく、ビタミンB6製剤(ピリドキサール®)も併用した。なお治療開始後2か月で胸水を採取し再検したところ、結核菌PCR陽性を確認し、ようやく確定診断できた。ただしこの時に採取していた検体の培養検査は4週目、8週目とも陰性だった。治療期間についてガイドラインでは、「症状が著しく重い場合、治療開始から4か月を経ても結核菌培養検査の成績が好転しない場合、糖尿病・塵肺など結核の経過に悪影響を及ぼす疾患を合併する場合、または副腎皮質ステロイド薬もしくは免疫抑制薬を長期にわたり使用している場合などでは、患者の病状および経過を考慮して適宜治療期間を延長する」とされている。B法での投与終了時点で、メトトレキサートの治療は継続中であることや、胸水が最終的に消失させきれずに終わっていることなどから、治療が延長されることとなった。
さて、この患者で結核性胸膜炎がいかに成立したかについての考察であるが、7年前のCTでもすでに陳旧性結核病巣を示唆する石灰化病変が散見されていた。これまで本人の肺結核としての自覚症状はなく、発症してはいなかったが、おそらく幼少期か若年時に結核菌に暴露し、感染が成立し、一次結核が成立していたものと思われた。免疫機構により一時結核病巣が非活動性の状態にあったが、これが活動性をもちはじめ胸膜結核の病型で二次結核として発病したものと考えられる。活動性をもつ誘因となったこととしては、長期にわたる免疫抑制剤の投与により免疫能が低下していたことと、ここに加齢による免疫能の低下も加わり、発症したものと考えられる。
一般に結核菌に感染した場合の発症パターンとしては一次結核(初感染結核)と二次結核(慢性結核、再活動性結核)に分かれる。結核性胸膜炎の病型をとるものは、今回の症例のように主に高齢者や免疫抑制剤投与中の患者に発症する二次結核と、特に既往症もない若年者の胸水貯留として発症する一次結核がある。頻度的には200人に結核菌暴露があった場合、95人はその時点では発病せず、そのうち5人が長い年月ののちに二次結核として発病する。

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