渡航帰りの発熱患者

問題29

30歳の男性が発熱を主訴に来院。会社の出張で2週間ギニアに滞在。日本に帰国後、3日目から頭痛、咳嗽が出現。抗菌薬、感冒薬などを処方されたが4日目から微熱出現、10日目から39.1℃の高熱となり倦怠感も出現したため救急受診された。

現症:意識清明。見当識障害なし。血圧146/90 mmHg、脈拍82/分、体温 38.2℃、Spo2 99%。皮疹なし。項部硬直やKernig兆候なし。脳神経学的異常なし。表在リンパ節触知せず。眼瞼結膜に貧血・黄疸なし。咽頭発赤なし。心音・呼吸音に異常を認めず。肝脾触知せず。

検査所見:血液所見:白血球4600/μL(好中球81.4%、リンパ球10.0%、単球8.0%、好酸球0.2%、好塩基球0.4%)、赤血球526万/μL、Hb 14.3 g/dL、Hct 43.0%、血小板 17.7万/μL、血液生化学所見:BUN 9 mg/dL、Cr 0.99 mg/dL、LDH 217 U/L、AST 30 U/L、ALT 25 U/L、ALP 179 U/L、総ビリルビン1.1 mg/dL、免疫血清学的所見:CRP 8.29 mg/dL

胸部単純レントゲン検査では異常を認めず。

血液細菌培養検査2セット提出された。

次に行う対応として最も優先されるものは何か。2つ選べ。

(a)滞在時の生活環境の問診

(b)レボフロキサシンの開始

(c)抗インフルエンザ薬の投与

(d)末梢血塗沫Giemsa染色標本

(e)経過観察

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』にはないが院内で行った内科症例検討道場で症例300として扱ったもの)

海外渡航者が増える中で、市中病院でも輸入感染症に対する初期対応が求められる。それとともに、輸入感染症ではなくて日本で問題となる感染症についても患者の症状や渡航先情報に応じて、適宜チェックしていく必要もある。しかし熱帯の国への渡航帰りの発熱患者では必ずマラリアの鑑別を行うことが重要である。そのためにも簡便かつすみやかに結果が得られる血液塗沫Giemsa染色は必ずマラリアを疑った場合には優先してしておきたい。マラリアであれば赤血球に寄生したマラリア原虫が確認される。また腸チフスは病初期には下痢を伴わないことが多く、頭痛、発熱、倦怠感など今回のような症状を呈し、しばしば不明熱の原因となる。ほかの下痢症状を呈する細菌に比べて血液培養検査で検出されやすいので必ず検体採取することが重要である。今回の症例では肝脾腫は認められなかったが、もし肝脾腫があって熱帯からの渡航帰りということになればマラリア、腸チフスのほか、デング熱、リューシュマニア、また日本でもみられるリケッチア感染症、住血吸虫症などを鑑別する。滞在地の情報をもとにして、患者が滞在中どのような活動をしていたか、感染源となるものに暴露するような機会がどの程度あったのか、など詳しい問診が必要である。

解答 (a)(d)

そのほかに問われる可能性のある項目

●マラリアは、メスのハマダラ蚊の刺咬によりマラリア原虫がヒトに感染し成立する。ヒトに疾患を起こすマラリア原虫は、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、三日熱マラリア原虫(P. vivax)、卵形マラリア原虫(P. ovale)、四日熱マラリア原虫(P. malariae)の4種類である。症状としては、悪寒、発熱、頭痛、倦怠感、時に、下痢などの腹部症状、乾性咳嗽がある。今回のように初期より血小板減少傾向がみられやすく、貧血は長期化するとみられるが初期にはみられないかあってもわずかなことが多い。熱帯熱マラリアの重症例では脳症、肺水腫、ARDS、急性腎不全、重症貧血、出血傾向、脳症に合併する低血糖、肝障害などがみられる。発熱発作の間隔は三日熱、卵形で48時間、四日熱で72時間、熱帯熱は36~48時間あるいは不規則。

(覚え方)蚊の名前をいろいろなダミーでひっかけて選ばせる問題がある。ハマダラ蚊をしっかり覚えておきたい。あとついでに、熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵形マラリア、も → 熱帯の 浜だから 三四日で 卵焼き(熱帯の浜辺ではすぐに温泉卵状態になるというイメージ)

ギムザ染色血液塗沫標本を提示して診断させるパターンもありうるので今回の症例での塗沫所見を提示する。頻度は少ないが赤血球内に輪状体と思われるマラリア原虫が確認された(図1)。

図1:Giemsa染色による血液塗抹標本。(a)弱拡大像。輪状体を含んだ赤血球が少数認められる。(b)その強拡大像。

●腸チフスはチフス菌(Salmonella typhi:グラム陰性桿菌)により生じる感染症で東南アジア渡航帰りの発熱で発症するのが典型的な経過である。臨床症状として比較的徐脈(発熱の割に脈拍増加がない)を呈し、血液検査では高熱の割に白血球増加がなく好酸球が消失する。肝機能異常を呈することもある。潜伏期は2週間。初期は頭痛、発熱、倦怠感など不明熱のパターンをとることが多く、経過が進むと腹部症状としては下痢、あるいは逆に便秘を呈することもある。チフス菌は細胞内寄生菌であるため、薬剤感受性が高くマクロファージへの浸透率が高いものを選択しなければならない。以前はクロラムフェニコールを使用してきたが、最近はニューキノロン、またキノロン耐性株に対しては第三セフェム系のセフトリアキソンが使用される。

実際の症例では

患者プロフィールは適宜修正して提示している。滞在中は、蚊も含めて感染を受ける機会があった可能性が十分考えられる問診内容だった。世界各地でどのような感染症が流行しているか、ということを詳しく把握しておくのは困難である。そこで外務省がホームページで医療事情というコーナーを設けているので、実臨床で必要なときはアクセスしてみてほしい。今回の症例でもギニアに滞在歴ありとのことで、ギニアを検索すると、①マラリア、②感染性胃腸炎(腸チフス、コレラ、赤痢などもありうる)、③狂犬病、④髄膜炎(髄膜炎菌が問題)、⑤麻疹、風疹、流行性耳下腺炎、、、、などと続いている。このうち、ギニアでは、マラリアは毎年数百万人の発生報告があり、特に重症化しやすい熱帯熱マラリアが大半を占め、成人の病気による死因の15%で1位を占める。突然の高熱で発症し、頭痛、寝汗、倦怠感、下痢などの症状が見られることもある。ギニアの実情としては、中心部の都市で迅速な検査が可能で、信頼できる薬局から治療薬がすぐに入手できる環境であれば、必ずしも予防内服は必須ではないが、地方都市では検査が行えず、治療薬が不足し、偽薬も販売されている、などの問題から、正しい治療が行えない場合が予想されるため、外務省は予防内服を検討してから渡航するよう勧めている。本患者は感染症拠点病院に転院していただき、治療を開始いただくこととなった。

(参考)マラリア原虫の生活史

潜伏期間は熱帯熱マラリアで1~3週間、他のマラリアでは10日~1か月が多いが、これは蚊からマラリア原虫がスポロゾイトとして血中に入ったあとすみやかに肝細胞に入って分裂小体(メロゾイト)として増殖し、これが血中に出るまでの時間。血中に出て赤血球に寄生すると輪状体(早期栄養体)、栄養体(後期栄養体、あるいはアメーバ体)、分裂体の経過をたどり、やがて赤血球膜を破壊して遊離し、新たな赤血球に侵入する。この無性生殖サイクルを繰り返しているうちに、一部の原虫は雌雄の区別がある生殖母体(有性原虫)ヘと分化する。これは人体内では合体受精しないが、ハマダラ蚊に吸われるとその中腸内で合体受精して最終的にオーシストとなり、その中に多数のスポロゾイトが形成され、それらがふたたびハマダラ蚊の唾液腺に集積する。

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