便秘の腹痛と思っていたら
問題27
35歳の女性。心窩部痛、悪心、嘔吐を主訴に救急外来を受診した。これまでから時々、腹痛はあったが、排便をすると改善するような印象があった。
既往歴:2型糖尿病で内服コントロール中。高プロラクチン血症を伴う下垂体腫瘍のため当院脳神経外科でカベルゴリン(カバサール®)投与中。
生活歴:飲酒歴、喫煙歴ともになし。
現症:身長 154.0 cm、体重 75.0 kg。血圧 176/80 mmHg、脈拍 65/分、整。体温 36.2℃、Spo2 97%、皮膚、可視粘膜に貧血・黄疸なし。胸部異常なし。腹部は心窩部から右季肋部に圧痛あり。腸蠕動正常。腫瘤触知せず。腰部叩打痛なし。
ERCP画像を示す。
このERCP画像で認められる病変以外には腹部CTで異常を認めなかった。
本患者に対する正しい治療方針をひとつ選べ。
(a)放射線療法
(b)胆嚢摘出術
(c)胆管・膵管分流術
(d)膵頭十二指腸切除術
(e)経過観察
解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』にはないが院内で行った内科症例検討道場で症例264として扱ったもの)
血液生化学所見では胆道系酵素優位の肝機能異常が認められる。ERCP画像では、左右胆管から総胆管までの胆管拡張に続き、細い総胆管がみられ、これが主膵管と合流している。この合流部から十二指腸乳頭までの部分が共通管となっており、膵胆管合流異常と考えられる。おそらくこれまでの腹痛発作は、膵胆管合流異常をベースに胆管炎や膵炎の軽い発作をくりかえしてきていた可能性が考えられる。
ERCP像。左右胆管から総胆管までの胆管拡張(黄矢印は上端、赤矢印は下端)に続き、細い総胆管がみられ、主膵管(青矢印)と合流(緑矢印)している。この合流部から十二指腸乳頭(橙色矢印)までの部分が共通管である。
一般に正常の十二指腸乳頭部では、Oddi括約筋が①総胆管末端部や②膵胆管合流部から膵管起始部近傍、を取り囲み、①により十二指腸への胆汁流出の調整、②により膵液の胆管への逆流防止に寄与している。ところが膵胆管合流異常の場合、Oddi括約筋は共通管の一部は取り囲むが、膵胆管合流部までの範囲にはおよばないため胆管・胆嚢内へと膵液が逆流する。このため胆道内圧が上昇し黄疸、胆管炎を惹起し、感染の繰り返しにより胆石症の原因になったり(胆石症の合併は17.9%、ビリルビン結石が多い)、ひいては胆道癌の高リスク因子となったりする。胆道粘膜に、癌抑制遺伝子p53や癌遺伝子K-rasの突然変異が認められている。今回の症例のように胆管拡張を伴う胆管拡張型膵胆管合流異常(先天性胆道拡張症)と胆管に拡張を認めない胆管非拡張型膵胆管合流異常の2つに分類されており、胆道癌の合併は先天性胆管拡張症で21.6%、胆管非拡張型で42.4%と高率である。また先天性胆管拡張症では胆管癌が多く、胆管非拡張型では胆嚢癌が多い。胆管、胆嚢の同時多発例もある。好発年齢も若年~中年で、通常の発癌例よりも若い年齢層に分布する。一方、膵液、胆汁とも混和されて、これが膵管内へも逆流し、protein plugを形成して共通管内に嵌頓し、膵液うっ滞により膵炎を惹起する場合もある。胆道癌の発癌を予防するために、今回のような先天性胆管拡張症の場合は膵管・胆管分流術(予防的胆嚢摘出術+肝外胆管切除術)が施行される。今回の症例でも手術が施行され、術中に採取した胆汁中のアミラーゼは135735 U/Lと著増しており、発癌リスクの高い状態であったと考えられた。術後胆管ドレーンからの胆汁を採取しフォローしたところ、3日後には118 U/Lと正常化した。また胆管非拡張型の場合は、胆嚢癌発癌の頻度が高いので予防的胆嚢摘出術を行うことにはコンセンサスが得られているが、胆管切除術も行うかどうかについて結論は出ていない。
解答 (c)
実際の症例では
治療としては、胆道ドレナージにより肝機能の改善をまち、予防的胆嚢摘出術+肝外胆管切除術、胆道再建術による膵管・胆管分流術が施行された。