健診で便潜血陽性

問題20

57歳の男性が健診で便潜血反応陽性を指摘され精査希望されて来院。

既往歴:特記事項なし。

服薬歴:なし。

現症:身長 168 cm、体重57 kg。血圧 95/63 mmHg、脈拍 88/分、整。体温 36.7℃。胸腹部に異常を認めず。

検査所見:赤沈13 mm/1時間、血液所見:白血球 9700/μL、赤血球 487万/μL、Hb 14.6 g/dL、Hct 45.0%、PLT 25.2万/μL、血液生化学所見:TP 6.8 g/dL、Alb 3.9 g/dL、AST 24 U/L、ALT 18 U/L、LDH 213 U/L、ALP 129 U/L、γ-GTP 17 U/L、免疫血清学所見:CRP 0.30 mg/dL、HIV抗原抗体(-)、HBs抗原(-)

大腸内視鏡検査、生検組織所見を示す。

この疾患について正しいのはどれか。

(a)わが国では女性に多い。

(b)肝膿瘍の合併が多い。

(c)血清抗体価よりも内視鏡下での生検での診断率の方が高い。

(d)活動期には副腎皮質ステロイドが有効である。

(e)自己免疫疾患を合併することが多い。

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』第3版の症例130)

 虫垂口周囲にびまん性の発赤と散在性のびらんが認められており、発赤、びらん部から生検を行った。その結果、びらんを伴う大腸粘膜の表面にPAS陽性の赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)の集簇を疑わせる所見を認めた。アメーバ性大腸炎の症例である。アメーバ性大腸炎は、汚染された水や食物を摂取し経口感染したり、肛門と口唇が直接接触するような性行為によって感染したりする。摂取された赤痢アメーバ嚢子(シスト)は小腸で脱嚢して栄養型となり、分裂を繰り返し大腸に達する。栄養型のアメーバは大腸に潰瘍性病変を形成する。その後、栄養型の一部は嚢子となり糞便中に排泄される。栄養型は体外環境では生存できないが、嚢子は長期間生存することができ、感染力を持ち続けることができる。発展途上国に多いので海外渡航歴の有無、あるいは、性行為感染症としての認識にたった問診も必要である。世界的には発展途上国に多く、先進国には蔓延していない。本邦では患者の90%は男性であり、男性同性愛者の性感染症として問題となっている。症状のある場合は、粘血便(イチゴゼリー状)、下痢、テネスムス(しぶり腹)、排便時の下腹部痛などを主症状とするが、本邦では今回の症例のように無症状のまま健診で見つかり、血液検査でもほとんど異常がない場合が多い。肝膿瘍は約5%に合併し、この場合は発熱がみられる。また性感染症として他の性感染症(梅毒、B型肝炎ウイルス、HIVなど)の有無にも注意したい。診断は内視鏡所見と生検で行われる。好発部位は今回のような無症状の場合は、回盲部に限局していることが多いとされており、症状のある場合は直腸にも病変がみられることが多い。内視鏡的肉眼所見としては、膿性粘液がみられ、大小不同の類円形の小びらんや潰瘍が散在していることが多い。びらん、潰瘍面から採取した生検組織標本を直接検鏡して栄養型ないしはシストを確認する。血清抗体価による診断も可能であるが、今回のような無症状の場合の陽性率は低い。治療として第1選択薬薬はメトロニダゾ-ル1000~1500 mg/日で7~10日間で投薬すれば通常治癒する。また腸管外アメーバ症として、肝膿瘍を生じた場合も、メトロニダゾールが極めて有効であるため、基本的にはドレナージをしない。ただし副腎皮質ステロイド、免疫抑制薬などの内服中、あるいはHIV感染者の場合は難治性となる場合がある。

解答 (c)

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