健診で胸部異常陰影を指摘されて
問題107
50歳の女性が健診の単純レントゲン写真で異常陰影を指摘され、精査を依頼されて当院紹介受診となった。自覚症状は特にない。
【現症】血圧123/94 mmHg、脈拍67/分、体温36.5℃、SpO2 99%。眼瞼結膜に貧血なし、眼球結膜に黄疸なし。頚部リンパ節触知せず、頚静脈怒張なし。胸部:呼吸音に異常なし。心音は整、病的雑音聴取せず。腹部平坦、軟、腸蠕動正常、圧痛なし。下肢に浮腫なし。
【検査所見】血液所見:白血球 8460/μL、赤血球 460万/μL、Hb 13.4 g/dL、Hct 42.1%、血小板 26.9万/μL、PT 10.8 sec(125.8%、INR 0.88)、APTT 31.0 sec、Fibrinogen 251 mg/dL、D-dimer<0.5 μg/mL、血液生化学所見:CRP 0.02 mg/dL、LDH 127 U/L、AST 11 U/L、ALT 7 U/L、T-Bil 0.8 mg/dL、Alb 4.1 g/dL、CPK 23 U/L、BUN 9 mg/dL、Cr 0.60 mg/dL、Na 140 mEq/L、K 4.1 mEq/L、CL 105 mEq/L。
【画像所見】胸部単純CT肺野条件(図1)、胸部造影CT縦隔条件動脈相(図2、3)を示す。
図1:胸部単純CT肺野条件
図2:胸部造影CT縦隔条件動脈相(その1)。
図3:胸部造影CT縦隔条件動脈相(その2)。
問題
この疾患に合併しやすいものはどれか。
(a)心室細動
(b)血尿
(c)脳膿瘍
(d)気胸
(e)深部静脈血栓症
解説
縦隔条件ではS5の心陰影右縁に接して境界明瞭な分葉状の結節がみられ、肺野条件では血管陰影と同じ濃度である(図1)。さらにこの腫瘤には肺野条件で2本の血管が流入ないしは流出していくようであり、今回の画像では提示していないが、その2本の血管を心臓の方にたどっていけば、1本は肺動脈につながっていることがわかり流入動脈と思われ(図2)、もう1本は、肺静脈、左心房へとつながる流出静脈)と思われた(図3)。したがってこの腫瘤影は流入動脈1本、流出動脈1本からなる肺動静脈奇形(pulmonary arteriovenous malformation;PAVM)と考えられる。肺の区域から考えると、右肺中葉のS5にあり、流入動脈はA5、流出静脈はV5である。
図1:胸部単純CT肺野条件。S5の心陰影右縁に接して境界明瞭な結節がみられ、この肺野条件では血管陰影と同じ濃度である(赤矢印)。
図2:胸部造影CT動脈相。今回、肺動脈とのつながりは提示していないが、右中葉S5に流入する肺動脈分枝A5(黄矢印)が腫瘤に流入しており流入動脈と考えられた。
図3:胸部造影CT動脈相。腫瘤からはV5が流出静脈(青矢印)となっていると考えられ、今回提示していないがこの静脈は肺静脈、左心房に還流する静脈系と考えられた。動脈相で肺静脈への還流がみられており、シャントと考えられる。
ダイナミックCTを立体構成された画像(図4)では、以下のようになり、流入動脈と流出静脈が1本ずつ同定できる。ちなみに計測したところ流入動脈は径4.09 mm、流出静脈は5.12 mmであった。
図4:ダイナミックCTをもとに3D合成された画像。流入動脈と流出動脈とを各々1本ずつ認める。
肺動静脈奇形(PAVM;pulmonary arteriovenous malformation)は肺動脈と肺静脈が毛細血管を介さずに直接短絡している病態をいう。特発性のものとRendu-Osler-Weber病(遺伝性出血性毛細血管拡張症)の部分症とがあり、後者は多発していることが多い。欧米ではRendu-Osler-Weber病の部分症がPAVMの40~70%と約半数を占めるが、日本では、10~20%と少ない。皮膚、粘膜、その他の臓器にもAVMをもつ。一般に外傷や医療介入により後天的に肺動静脈シャントを生じる場合があり、この場合は肺動静脈瘻(AV fistula)と呼んで区別している。成人の場合は無症状の事が多く、本症例のようにたまたま健診などでひっかかり発見されることが多い。しかしシャントが多いと低酸素血症となり、労作時呼吸困難や、反応性に多血症が生じたりする。動静脈瘻は、血管壁が脆弱なため破裂により喀血、血胸をきたす。また右左シャントであるため、血栓、細菌が、左心系に流入し、全身の動脈に梗塞巣や感染巣を形成する。特に脳梗塞、脳膿瘍を起こすこともある。頻度的には中下肺野に多い。ダイナミックCTでは、結節はもちろん血管と同じ動態を示し、動脈相でシャントにより流出血管を介して病変部の肺静脈末梢も造影される。病巣の個数から、単発型(頻度的には2/3を占め最も多い)、多発型、びまん型に分類される。また流入動脈と流出静脈の数からは、両者が1本ずつの単純動静脈奇形(simple type、80%を占める)と流入動脈が2本以上、流出静脈が1~2本の複雑動静脈奇形(complex type)とに分類される。今回の症例はsimple typeである。流入動脈の径が3 mm以上の場合は脳梗塞や脳膿瘍など脳の合併症の頻度が高くなる。治療対象は、①低酸素血症をきたす高いシャント率の場合、②塞栓、膿瘍などの合併症が生じ場合、また無症状でも③流入動脈径が3 mm以上の場合や④動静脈瘻の径が2 cm以上の場合、である。治療は第一選択として動脈塞栓術が施行されるが、治療困難な場合は、肺部分切除術なども行われる。今回の症例でも、IVR専門医により流入動脈コイル塞栓術が行われた(図5)。
図5:左塞栓術施行前、右は施行後。留置されたコイルがみられる(赤矢印)。
解答 (c)