病魔大王の戦国武将討伐 第1話

勤務先の病院から年4回の連載物を依頼されました。どんなものでもよかったのですが、どうせなら一度小説に挑戦しようと思い、歴史好き内科勤務医が医療のアドバイス付きで、コミック時代劇に仕立てました。ある程度は、史実に矛盾しないよう作っております。

今回のシリーズでは、毎回、有名な戦国武将に襲いかかった病魔をテーマにしながら健康を保つポイントを紹介していきます。第1回は越後の虎と呼ばれた上杉謙信です。謙信には長期にわたるアルコール多飲歴があり、高血圧をベースにした脳出血で死亡したと推測されています。

では、物語のはじまりです。

病魔大王の戦国武将討伐 (第1話 越後の虎 上杉謙信)

時は応仁の乱が終わった頃、京都は焼け野原となり、地方では戦国武将が割拠し、いくさで明け暮れる日々でした。雲の上からこれを眺めていたのは病魔大王。「いいかげん、いくさを終わらせたいものじゃ。いくさを先導しておる武将どもの身体に忍び込み、いくさを終わらせてまいろう。」と言い、さっそく人には見えない程のミクロの戦士となって、日本に降り立ちました。最初の標的は、越後(新潟)の春日山城を本拠地とした上杉謙信でした。この男、いくさには強くても、意外と自分の健康管理には弱く、つけいるすきだらけでした。メタボ体型で、しばしば朝から晩まで酒ひたりの生活。いくさの時でさえ馬上での杯でも2合半をこえており、普段は1日3合~5合、いや日によってはもっと、と病魔大王は推定しました。また食事は質素でありながら、普段の酒の肴として塩分摂取が過剰でした。このように塩分の過剰摂取と適量以上のアルコールは血圧を上昇させるうえ、もともと越後は雪国で、特に冬は凍える寒さのため、ただでさえ血圧が上がる環境での生活でした。病魔大王の見立てでは謙信の普段の血圧は推定170~180 mmHg、また長年の多飲は肝硬変を起こし血液が固まりにくくなっていたほか、アルコールそのものにも血液を固まりにくくする作用があるためなおさら血液はかたまりにくい状況でした。長年の高血圧に耐えて動脈硬化を起こしてもろくなった謙信の血管と、もしその血管が破綻して出血すると血液が固まりにくく、出血は一気に広がる、という最悪の条件がそろっていました。謙信の弱点が破綻寸前の血管にあるとみた病魔大王は、ひそかに脳の血管内に潜入しました。ある冬の寒い朝、いくさの準備で疲れ気味だった謙信はトイレに行って朝の排便をしようとしました。普段から高かった血圧は、排便のりきみで200 mmHgをこえ、ここぞとばかり病魔大王の鉄槌がふるわれ、その渾身の一撃で謙信の脳血管はぐさりとやぶられました。普段相手を飲み込むような謙信のするどい眼はか弱いうつろな眼にかわり、突如として謙信は脳出血により意識昏迷状態となったのです。一旦止血し小康状態でしたが、もとより固まりにくい血液です。すぐに再出血をきたし4日後に死亡しました。あれほどいくさでは強かった謙信のあっけない最期でした。最初のミッションを完了した病魔大王は、次の標的を探しながら、闇夜に消えて行ったのです。

では最後に、軍神ともいわれた謙信を見事にしとめた病魔大王から、みなさんへのメッセージを紹介します。

●アルコールは日本酒にして1日平均1合未満が適量。ただし個人差はあり。これを超えると飲酒量が増えるにつれて、脳出血の発症率は増える。

●高血圧の放置は禁物。普段の血圧が130/80 mmHgまでに。

●塩分摂取量は男性8g/日、女性7g/日以下が理想。高血圧の人は6 g/日未満の減塩を。

●謙信(けんしん)のようにならないよう健診(けんしん)を!

第2話は夏ごろになると思います。おもしろかった方は、どうぞお楽しみに。

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