胸焼けなのに薬が効かない

問題25

34歳の女性。2週間前から心窩部痛、背部痛や胸やけがある。近医で、胃食道逆流症を疑われ、エソメプラゾール(ネキシウム®)20 mg/日が投与されたが、2週間の内服でも全く症状の改善は認められなかったため当院来院。

既往歴:造影剤アレルギー歴あり。

生活歴:飲酒歴や喫煙歴なし。

上部消化管内視鏡画像を示す。

縦走溝から採取した食道粘膜組織像を示す。

この疾患について誤っているものはどれか。1つ選べ。

(a)特徴的な内視鏡所見を呈する。

(b)確定診断には生検が有用である。

(c)食道狭窄をきたす場合がある。

(d)アレルギー素因のある男性に多い。

(e)慢性的な下痢をきたす。

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』にはないが院内で行った内科症例検討道場で症例260として扱ったもの)

 胸やけを伴う心窩部痛、背部痛であり、胃食道逆流症が疑われるため、最初、近医ではプロトンポンプ阻害薬が投与された。通常、これで90%以上の症例で自覚症状の改善が得られる。ところがこれで症状が改善ない場合は、内視鏡検査による再評価を行う。

今回の内視鏡所見をみると、好酸球性食道炎と診断できる。特徴的な所見として、縦走溝(longitudinal furrow, vertical line)は、食道の長軸方向に走る幅のある浅いびらんであり、逆流性食道炎のロサンゼルス分類(LA分類)のgrade Bのような白苔を伴う発赤調の縦走びらんとは異なる。通常、本症例のように数条みられる。溝に沿って食道粘膜の敷石状変化が認められることもある。この縦走溝から生検したところ、食道上皮に多数の好酸球の浸潤が認められ、好酸球性食道炎と確定診断された。また、もうひとつの特徴的な所見は輪状溝(concentric rings, corrugated esophagus)である。これは、食道短軸方向に同心円状に認められるしわ状変化である。本症例では広範囲に恒常的に認められたが、広範囲にみられるものから局所的にみられるもの、また常時認識できるもの(この場合を特にfixed ringsやtrachealizationと呼ぶ)から食道の伸展度合いの応じてみえやすくなったり、みえにくくなったりする程度のものまでさまざまである。さらに、このように食道壁に慢性炎症が持続すると、器質的な線維性狭窄が生じ、食道内腔の狭細化や狭窄が生じる。また粘膜面は浮腫状で血管透見像が低下するとともに食道の蠕動も低下し、内視鏡を胃内に挿入しようとすると抵抗を感じる場合がある。無理に内視鏡を押し込もうとすると裂創を生じることもあるため注意が必要である。

上部消化管内視鏡像。食道に数条の浅い縦走溝(青矢印)や多数の輪状溝が認められる。また粘膜は浮腫状で透過性は低下している。好酸球性食道炎を疑わせる所見といえる。

一般に好酸球性食道炎は、病因として不明な点が多いが、食物の中に含まれるタンパクや空気中の花粉など抗原となってアレルギー反応が起こり、これが食道上皮層に好酸球が浸潤して慢性炎症を惹起することにより、食道蠕動障害、食道炎症状、器質的狭窄を生じる疾患と考えられている。食道炎の症状としては、胸やけ、胸痛、食物のつかえ感、嚥下障害食物の食道嵌頓、などがみられる。頻度は、以前は上部消化管内視鏡検査を受けた5000人に1人であったとの報告があるが、最近はさらに増加傾向にあると考えられている。患者の半数に、気管支喘息やアトピー性皮膚炎などアレルギー疾患の合併がみられ、特にアレルギー疾患を有する若年男性に好発する。好酸球性食道炎の内視鏡像としては、前述したように縦走溝、輪状溝(輪状ひだ)、浮腫状粘膜、などの特徴的な所見があるが、非典型例や所見がない症例もあるため、疑われる症例には積極的に生検を行う。生検により食道上皮中に好酸球が多数認められ、好酸球が増多するような他疾患が否定されれば好酸球性食道炎の診断となる。なお、本疾患は好酸球浸潤が食道に限局したものを指し、好酸球性胃腸炎に随伴した食道への好酸球浸潤とは区別される。治療として、プロトンポンプ阻害薬が有効である症例があり、この場合は、プロトンポンプ阻害薬反応性食道好酸球増多症(proton-pump inhibitor-responsive esophageal eosinophilia; PPI-REE)として本来の好酸球性食道炎とは区別される。この場合は、十分量のPPIを投与し症状の反応をみる。好酸球性食道炎では通常PPIが無効であり、標準的治療としては吸入ステロイド薬の嚥下(ただしこれは保険適応外)や特に小児の場合は食物アレルゲンの除去が奏功する症例もあるため除去食療法などが考慮される。

なお問題の選択肢の中で、慢性の下痢は、好酸球性胃腸炎でみられる症状である。

解答 (e)

実際の症例では

 本患者では白血球 7000/μLのうち好酸球 23.0%と好酸球増多がみられた。アレルギースクリーニング検査を行ったところ、クラス4の強い反応をスギ15.47(index)、カモガヤ7.64、クラス3の反応をオオアワガエリ6.81、ヒノキ6.54、蛾2.81、キウイ2.77、ゴマ2.39、ハンノキ2.37、ピーナッツ2.04、小麦2.00、ソバ1.97、リンゴ1.90、クラス2の反応をシラカンバ1.72、米1.70、ブタクサ1.60、大豆1.55、ヨモギ1.28、ゴキブリ1.08、バナナ0.86、ハウスダスト0.79、ヤケヒョウヒダニ0.71、ラテックス0.52、クラス1の弱い反応をエビ0.47、カニ0.45、マラセチア0.42、と多数のアレルゲンを有していることが判明した。特に問診では言われてはいなかったが、アレルギー素因は十分ある患者であった。

 今回の症例では、最初、PPI-REEを除外するため、エソメプラゾール(ネキシウム®)20 mg/日が投与されたが、2週間の内服でも全く症状の改善は認められなかった。そこでフルチカゾン吸入薬(50μg/吸入;フルタイドエアゾール®)を1回4吸入で1日2回を口腔内に噴霧し唾液で嚥下させ、嚥下後30分~1時間絶飲食とさせるかたちで処方したところ、3日目で症状は消失した。

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