突然の心窩部激痛、背部痛

問題90
69歳の女性。突然、心窩部の激痛、背部痛、足のしびれが出現し救急受診した。10年前より高血圧症でアムロジピン5 mg/日内服中。
胸部造影CTを示す。

本疾患に合併することはまずないものを選べ。
(a)大動脈弁閉鎖不全
(b)急性心筋梗塞
(c)急性腎不全
(d)大動脈狭窄症
(e)下肢急性虚血

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』第4版の症例1)
今回の症例は、突然の心窩部の激痛、背部痛、ということで、急性大動脈解離を第一に考えておく必要がある。大動脈解離ではこのほかに「冷汗が出る」という表現を問診で聞くこともしばしば経験する。さらに高血圧症でCa拮抗薬を内服されており、大動脈解離のリスク因子となっている。ここは大動脈解離が強く疑われ、かつその範囲を早急に評価するためにも造影胸腹部CTを行わなければならない。
 提示されている造影CT画像では胸腹部大動脈に解離が認められる。解離は上行大動脈起始部から始まっており、頭側は総頚動脈や右鎖骨下動脈まで、また足側は総腸骨動脈分岐部を越えて右総腸骨動脈まで及んでいることがわかる(図1)。上行大動脈に解離は及んでおりStanford A型の急性大動脈解離と診断される。

図1:胸腹部造影CT早期相。解離のみられる部位(橙色矢印)は(a)右総頚動脈、(b)右鎖骨下動脈、(c)腕頭動脈、(d)大動脈弓、(e)前方が上行大動脈、後方は下行大動脈、(f)前方が上行大動脈のかなり起始部に近いところ、後方は下行大動脈、(g)(h)腹部大動脈で明らかに腎動脈分岐部より末梢である。(i)では総腸骨動脈に分岐して右総腸骨動脈にも解離はみられる。

 大動脈解離は上行大動脈に解離が及ぶStanford A型と上行大動脈には及んでいないStanford B型の2型に分類されている。このように分類する理由は、原則的にこの病型によって対応の仕方が異なるからである。A型解離は心膜腔へと解離が進むと心タンポナーデ、解離が冠動脈に及ぶと急性心筋梗塞、大動脈基部の病変が大動脈弁の交連部の解離を起こすと大動脈弁閉鎖不全、などを生じる。このため基本的に緊急手術の適応となる。一方、上行大動脈に解離が及んでいないB型では、まず厳重なモニター下に降圧薬投与による保存療法がおこなわれる。しかしB型でも臓器灌流障害症例、破裂症例については緊急手術が選択される。
2つの病型いずれであっても、大動脈内腔狭窄あるいは分枝閉塞に伴う臓器灌流障害が起こりうる。1)解離が腹部大動脈におよび上腸間膜動脈の入口部狭窄、閉塞、続発して血栓形成、などにより腸管虚血が生じうる。2)解離が腎動脈におよび腎血流不全が生じると、急性腎不全が生じうる。3)解離が腸骨動脈までおよぶと偽腔が真腔を閉塞させ下肢虚血、それに伴い下肢痛やしびれを起こしうる。4)前脊髄動脈におよぶと特徴的な対麻痺を生じる(前脊髄動脈症候群)。5)総頚動脈、腕頭動脈などへの解離により脳虚血症状、脳梗塞が生じうる。6)肝血流不全により、肝機能障害が生じうる。破裂症例では、1)解離して拡大した動脈瘤が気管あるいは肺実質へと出血し、血胸、喀血を呈しうる。2)食道を圧迫し食道穿破をきたし吐血することもある。また激しい疼痛は、解離が進行しているときの大動脈外膜の過伸展によるものとされるが、解離が進まなくなると痛みが軽快する場合もある。

解答:(d)

実際の症例では
 実際の症例は、血圧120/59 mmHg、脈拍73/分、体温37.2℃、Spo2 93%、顔面苦悶様、胸部第3肋間胸骨左縁に拡張期高調性雑音聴取、心窩部に自発痛を訴えるが圧痛はなかった。腸蠕動正常。血液検査では、白血球11900/μL、Hb 11.7 g/dL、Hct 34.8%、血小板 20.1万/μL、AST 183 U/L、ALT 260 U/L、LDH 259 U/L、ALP 320 U/L、γ-GTP 111 U/L、T-Bil 1.9 mg/dL、CPK 63 U/L、AMY 29 U/L、T-P 6.7 g/dL、CRP 14.91 mg/dL。
今回、実際の患者では、拡張期雑音が聴取されており、大動脈弁閉鎖不全を合併していた。肝機能異常や下肢のしびれもみられ、偽腔の血流が少ないため分枝されるさまざまな臓器に対して虚血による障害が生じた結果であったと考えられた。診断後はすみやかに心臓外科のある病院へ搬送したが、その後、準緊急的に手術していただき退院されている。また心電図でⅡ、Ⅲ、aVFにST上昇が疑われたが(図2)、今回の解離は冠動脈には影響していなかったようで、術後も同様の心電図のままであった。一方、足のしびれは解離による影響と思われ、術後は消失した。

図2:受診時の心電図。Ⅱ、Ⅲ、aVFでST上昇がみられる。ただしミラーイメージとしてのST低下を示す所見がない。

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