ジュースやアイスクリームばかり

症例98
73歳の女性。
既往歴・家族歴:特記事項なし。
現病歴:2ヶ月前の健診ではHbA1cは6.3%であった。10日ほど前から口渇、全身倦怠感、食欲不振を覚えるようになり、食事のかわりにジュースやアイスクリームを多く摂取するようになった。症状が改善なく、本日になり意識もうろう状態となってきたのを家人が気づき当院に搬送された。
現症:意識傾眠傾向、身長149 cm、体重51 kg(BMI 23.0 kg/m2)。血圧90/50 mmHg、脈拍71/分、整、体温37.2℃。呼名に応答あり。神経学的異常なし。
検査所見:血液所見:白血球9700/μL、赤血球444万/μL、Hb 14.2 g/dL、Hct 44.7%、血小板19.8万/μL。血液生化学検査所見:CRP 0.14 mg/dL、BUN 57 mg/dL、Cr 1.34 mg/dL、Na 155 mEq/L、K 6.6 mEq/L、Cl 116 mEq/L、Ca 9.7 mg/dL、随時血糖 604 mg/dL、HbA1c 11.8%、TSH 1.366 μU/mL、FT3 1.3 pg/mL、FT4 0.92 ng/dL、IRI 2.1μU/mL、血中C-peptide 0.64 ng/mL、動脈血ガス分析pH 7.306、Po2 111.5 Torr、Pco2 24.6 Torr、HCO3- 15.0 mEq/L、BE —12.4 mmol/L。尿所見:pH 6.0、蛋白(-)、糖3+、ケトン体2+、潜血(-)。尿中C-peptide 1.4μg/日。
適切なものはどれか。2つ選べ。
(a)1型糖尿病と考えられる。
(b)血糖値をインスリンの持続静注を開始する。
(c)代謝性アシドーシスに重炭酸ナトリウムを静注する。
(d)急性期治療のあと、強化インスリン療法が必要となる。
(e)生理食塩水の大量輸液を行う。

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』第4版の症例88)
 HbA1cが11%もあり動脈血ガス分析でpH 7.306、BE —12.4 mmol/lと代謝性アシドーシスがあり、尿中ケトン体2+であることから糖尿病性ケトアシドーシスであると思われる。インスリン分泌がほとんどない1型糖尿病患者は、インスリンを補充しないと血糖が上昇しケトアシドーシスを起こし、脱水と意識障害を伴って大変危険な病態となる。一方、2型糖尿病では、ある程度インスリンが分泌されているので、普通はケトアシドーシスを起こさない。ところが以前から2型糖尿病患者の中にもケトアシドーシスを起こす患者がいることが報告されており、共通しているのは、肥満があることと、清涼飲料水を大量に飲んでいたことが判明し、清涼飲料水ケトーシスあるいはケトアシドーシス、あるいはペットボトル症候群と呼ばれるようになった。糖尿病で高血糖の状態となると、浸透圧利尿がはたらき尿量は増えて脱水となるため口渇が生じる。そのとき糖尿病であることに気づかず、糖質を含む清涼飲料水を多飲するとさらに高血糖が助長され、さらに脱水が進んで口渇もひどくなるという悪循環に陥る。スポーツドリンクにはたいてい100 mLに6 g程度の糖分が含まれている。ペットボトル飲料の普及とその手軽さから、知らず知らずのうちに過剰な糖分を摂取するこうした糖尿病患者が多くなっている。ソフトドリンクやスポーツドリンクの急激な大量摂取だけでなく、みかんの缶詰、あるいは今回の症例のようにアイスクリームなどの糖分の多い食品の大量摂食でも発症することが報告されている。最初の報告では20代から30代の若者に多いとされていたが、清涼飲料水の普及と、地球温暖化の暑さのため発症者が多くなり、40代から50代の高齢者にも多くなっている。高血糖による脱水の病態に加えて、高血糖が悪化すると糖毒性によりインスリンの分泌と作用が急激に低下する。その結果、糖がエネルギー源として利用できなくなると脂肪細胞から大量の遊離脂肪酸が放出されて脂肪分解が助長され、種々の経路を経て肝臓でケトン体が産生され、ケトーシスまたはケトアシドーシスを生じる。清涼飲料水ケトーシスあるいはケトアシドーシスは、糖尿病と自覚していない患者に多く発症するため、主に新規発症または無治療の2型糖尿病または境界型糖尿病患者で生じる。糖尿病の家族歴があることが多い。日本人に多い病態のようで、欧米の白人にはほとんどみられない。体質の違いや、清涼飲料水を飲みすぎる日本人の生活習慣にも原因があると考えられている。速効型インスリンの少量持続投与により速やかな血糖コントロールが必要であるが、回復後には少量の経口薬や食事療法のみでコントロールされることが多い。治療経過を図1に示す。

初期の治療で重要な点は、①脱水を改善させること、②血糖値の速やかな低下をはかること、③低カリウム血症の補正、である。
① 脱水の補正
脱水については生理食塩水の大量投与が必要であり、通常1000 mL/hrで2~4時間投与し、その後はその半分の速度にして尿量をみながら持続点滴を続ける。(時折0.9%生理食塩水などと記載されている書物をみるが、生理食塩水の定義は0.9%NaCl溶液であり他の濃度のものはない。)血清Naが155 mEq/Lを越えている場合は生理食塩水の半分の濃度で開始してもよい。今回の場合は通常の生理食塩水を点滴した。
② 血糖値のコントロール
血糖値が250~300 mg/dLになるまではすみやかに血糖値を低下させるため、速効型インスリンであるヒューマリンR®をまず10単位静注し(これは必ずしもしなくてもよい)、さらに4~12単位/時の速度で少量持続静注し、1時間毎に血糖値を測定する。血糖値が250~300 mg/dLに低下したら、糖を含有する輸液に変更し、輸液も1日1500 mL程度にする。250 mg/dL以下になってもさらに血糖を低下させていくと脳浮腫を起こすリスクが出てくる。このあたりから食事を開始し、インスリンは食前の血糖値をもとにしてスライディングスケールで適宜皮下注射に変更し、最終的に必要なインスリンを定期うちにする。この場合の治療のプランは特に決まったものはない。本症例においては最初速効型インスリンの頻回定期うちで1日に必要なインスリン量がわかったので、その量を参考にして持効型インスリンであるインスリングラルギン(ランタス®)を1日1回うちとして血糖値の変化をみた。ヒューマリンRを1日16単位うってもなお血糖値は高めであったためランタス14単位を投与し始めてみた。その結果、少し低血糖傾向がみられたので、インスリン抵抗性を改善させるためメトホルミンとシタグリプチンとの経口薬を併用しながら、インスリン自体の量はどんどん減らしていった。最終的にインスリンから離脱でき、経口薬2剤でコントロール良好となった。このあと照会元の近医に通院されたが、メトホルミンのみでコントロールされるに至ったという。このように糖毒性がとれてくれば、あとは強化インスリンが必要となることは通常ない。
③ 低K血症の対策
また、インスリン少量持続静注を行うと、細胞内にグルコースとKが移行するため、血糖の低下とともにKも一気に低下する。このため、Kが4.5 mEq/Lを切ったあたりから500 mLの輸液に対してK 10~20 mEq/Lを補充することによって低血症を予防する。本症例ではKを10 mEq/500 mL含んでいるソリタT3輸液に変更している。
④ アシドーシスの補正
アシドーシスは原則的に補正しない。理由は、脱水と血糖値が補正されればアシドーシスも一緒に改善すること、また重曹で補正すると中枢神経系のアシドーシスが遅延する可能性、高Na血症が悪化する可能性、などである。ただしpHが7.1以下では補正が推奨されている。本症例ではpH 7.306であったのでもちろん補正は行っていない。
本症例はもともと軽い2型糖尿病で、ジュースやアイスクリームを多量に摂取していたことによって助長された高血糖高浸透圧血症がみられ、発症時の膵内分泌能が著明に低下していること、代謝性アシドーシスを認めたこと、尿ケトン体陽性であったことから、高血糖による糖毒性が原因で、インスリン分泌能とインスリンの作用自体が著明に低下したことによって、糖の利用も低下し、脂肪分解が亢進し、ケトアシドーシスを起こした典型的な清涼飲料水ケトアシドーシスであった。

解答:(b)(e)

試験の傾向
清涼飲料水ケトーシスの病態を理解し、糖毒性が強い急性期には生理食塩水大量投与とインスリン持続静注によりすみやかに血糖値を下げることが必要であること、また糖毒性解除後は、食事療法や少量の経口剤程度でコントロール可能となる場合が多いこと、などが出題される。

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