口渇と体重減少

問題24

48歳、女性。口渇、体重減少を主訴に来院した。1か月前に2週間ほど37~38℃の発熱があった。解熱したころから口渇、多飲、多尿、倦怠感が出現。精査加療希望されて来院した。清涼飲料水の多飲はない。

現症:身長 162 cm、体重 42 kg(もともと52 kgだったが10 kg減少)。血圧 133/71 mmHg、脈拍 87/分、整。体温 36.6℃。頚部腫瘤触知せず。

検査所見:尿検査:比重1.010、蛋白(-)、糖(3+)、ケトン体(+)。血液所見:白血球2900/μL、赤血球504万/μL、Hb 13.3 g/dL、Hct 38.5%、PLT 12.6万/μL、血液生化学所見:TP 7.1 g/dL、Alb 4.4 g/dL、AST 19 U/L、ALT 24 U/L、γ-GTP 21 U/L、BUN 8 mg/dL、Cr 0.31 mg/dL、随時血糖 361 mg/dL、HbA1c 10.6%、Na 133 mEq/L、K 4.0 mEq/L、Cl 98 mEq/L、TSH<0.010 μIU/mL(基準0.35~4.94)FT4>8.00 ng/dL(基準0.90~1.70)、抗TSHレセプター抗体67.5%(基準0~10)、空腹時血中Cペプチド 0.55 ng/mL(基準0.6~1.8)、抗GAD抗体 2000 U/mL以上(基準0~4.9)、抗IA-2抗体 7.3 U/mL(基準0~0.3)、抗インスリン抗体 1210 nU/mL(基準0~124)。

腹部CTでは肝、胆、膵、副腎に器質的な異常を指摘できない。

対応として適切なものはどれか。2つ選べ。

(a)DPP4阻害薬を導入する。

(b)抗甲状腺薬を開始する。

(c)食事の摂取カロリーを20%減らすよう指示する。

(d)強化インスリン療法を開始する。

(e)有酸素運動を増やすよう指示する。

解説(オリジナルは 『Dr. Tomの内科症例検討道場』第3版 の症例169)

 一過性の感染症かと思われるエピソードがあって、それが治まってから口渇、多飲、多尿、体重減少が生じており、もともと糖尿病の既往もなく肥満もなかった42歳の患者である。データからも明らかに糖尿病が疑われ、空腹時血中Cペプチドは低くインスリンは枯渇しており、抗GAD抗体、抗IA-2抗体、抗インスリン抗体の自己抗体はいずれも陽性であり、典型的な1型糖尿病と診断できる。抗インスリン抗体はインスリン導入前の血液検体で測定する。インスリン使用歴のない患者で抗インスリン抗体が高いことも1型糖尿病に特徴的である。尿中ケトン体も陽性で、少なくともケトーシスはありそうである。インスリンが枯渇しており強化インスリン療法などインスリンを用いた治療の導入が基本的な方針となる。

 1型糖尿病は、生活習慣とは無関係に自己免疫的な機序などによって膵β細胞が破壊されてしまい、インスリンの分泌が極度に低下するか、ほとんど分泌できなくなった結果、発症する糖尿病である。発症形式は典型例である急性発症1型のほか、緩徐進行1型、劇症1型に分類される。急性発症1型糖尿病についての日本糖尿病学会から提唱されている診断基準は以下の通りである。

1. 口渇、多飲、多尿、体重減少などの糖尿病(高血糖)症状の出現後、おおむね3か月以内にケトーシスあるいはケトアシドーシスに陥る。

2. 糖尿病の診断早期より継続してインスリン治療を必要とする2)

3. 膵島関連自己抗体が陽性である。

4. 膵島関連自己抗体が証明できないが、内因性インスリン分泌が欠乏している。

判定:上記1~3を満たす場合、「急性発症1型糖尿病(自己免疫性)」と診断する。1、2、4を満たす場合、「急性発症1型糖尿病」と診断してよい。内因性インスリン分泌の欠乏が証明されない場合、あるいは膵島関連自己抗体が不明の場合には、診断保留とし、期間をおいて再評価する。4については、空腹時血中Cペプチド<0.6 ng/mlを内因性インスリン分泌欠乏の基準とする。

これらの診断基準に照らしてみても、本症例が典型的は急性発症1型糖尿病と診断できる。

ここで、高血糖による浸透圧利尿によって多尿があったため体重減少も生じたと考えられるが、1か月で10 kg減るというのはかなりの体重減少であることと、1型糖尿病は他の自己免疫疾患を合併する場合があることを考えると、バセドウ病の合併はぜひとも鑑別に入れておきたい。今回の症例ではFT4が上昇しTSHが抑制されているので甲状腺中毒症があることがわかるが、抗TSHレセプター抗体が陽性であったため、亜急性甲状腺炎や無痛性甲状腺炎のような破壊性甲状腺炎ではなく、バセドウ病と診断できる。治療は抗甲状腺薬の投与である。

解答 (b)(d)

試験の傾向

最初コントロール良好な糖尿病患者が、急にコントロール不良となったという設定で症例提示される場合もある。この場合、二次性糖尿病(膵癌合併、耐糖能異常をきたしうる内分泌疾患の併発など)、清涼飲料水ケトーシス、1型糖尿病の発症、などが鑑別疾患として挙げられる。

その他に問われる可能性のある項目

●今回のような糖尿病性ケトアシドーシスでみられる症状として、本症例で提示されているような多尿、体重減少のほか、頻脈、皮膚乾燥(脱水による)、アセトン臭(ケトン体のため)などがあげられる。

●1型糖尿病は糖尿病全体の約5%。

●1型糖尿病の発症時には非肥満患者が多い。

●1型糖尿病は小児~思春期に多いが今回の症例のように中高年にも発症する。

●本例のように、1型糖尿病はバセドウ病または橋本病などの自己免疫性甲状腺疾患が合併しやすい。1型糖尿病全体の自己免疫性甲状腺疾患合併率は2.0~8.8%で2型糖尿病の0.8%と比べて有意に高く、このうち緩徐進行1型糖尿病の自己免疫性甲状腺疾患合併率は18.6%、急性発症1型糖尿病では3.9%。

●1型糖尿病の発症後、強化インスリン療法により、一旦インスリン必要量が減ることがある(下記)。

●成人の急性発症1型糖尿病の場合、抗GAD抗体は発症初期には80~90%で陽性。

実際の症例では

インスリン依存性をよりはっきりさせるため、グルカゴン負荷試験が行われた。グルカゴンは膵α細胞から分泌されているホルモンで、直接膵β細胞を刺激してインスリン分泌を促す作用をもっている。そこでグルカゴンを注射して膵臓のインスリン分泌能力のみに的をしぼって評価しようという試験である。本患者ではグルカゴン投与に対するインスリン分泌の増加が乏しく、インスリン依存性が証明された。基本的に強化インスリン療法を開始したところ、インスリン必要量は徐々に減少し、最終的に、持効型2単位、速効型8単位、3単位、4単位で退院、その後、速効型は0単位、2単位、2単位にまで減量できた。このように、発症して間もない時期に強力なインスリン治療により血糖を正常化させた場合、これによって、治療に必要なインスリン量が極端に減少する時期をもたらすことがある。この時期を寛解期(またはハネムーン期)という。しかし、最終的にはインスリン必要量は増加していくので、寛解期を少しでも長引かせるためにも少量でもインスリン注射を中断せず、治療を継続することが重要である。また甲状腺については、甲状腺エコー検査でも明らかな腫瘤性病変はなく、チアマゾール(メルカゾール®)の内服薬でコントロールしていった。30 mg/日から徐々に減量し、5 mg/日の維持量投与となった。ちなみに、抗GAD抗体/抗IA-2抗体陽性の1型糖尿病とバセドウ病(または橋本病)を合併した場合、多腺性自己免疫症候群(autoimmune polyendocrine syndrome;APS)3A型に分類される。

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