呼吸困難と意識障害

問題26

54歳の女性が呼吸困難を訴え救急要請し意識レベルが低下した状態で搬送された。

現病歴:3年前からこれまでに3回の気管支喘息重積発作の入院歴あり。喘息の慢性期治療のため他院に通院もされていた。喘息初回発作の半年ぐらい前から猫を飼っており、今回搬送当日も猫と長時間接触し、接触した部屋の掃除など普段と同じように家事をした。23時頃、急に呼吸苦が出現し急速に症状が進行し、会話もできなくなっているとのことで救急搬送となった。救急隊現着時Spo2 68%のため酸素6L/分をマスクで投与開始され91%にまで改善した状態で当院に到着した。

生活歴:喫煙歴30歳から4~5本/日。

現症:血圧166/97 mmHg、脈拍 107/分、整。体温35.2℃。身長151 cm、体重36.4 kg。意識レベル Ⅲ-200(無意識の状態でベッド上での体動激しい)。皮膚にチアノーゼを認める。両側肺野に喘鳴を聴取するが、両側とも呼吸音は減弱し、喘鳴は両側肺野に聴取するが弱い。病的心雑音聴取せず。腹部異常なし。下肢に浮腫を認めず。

検査所見:血液所見:白血球15400/μL、赤血球430万/μL、Hb 13.2 g/dL、Hct 39.8%、血小板24.6万/μL、血液生化学検査:LDH 229 U/L、AST 74 U/L、ALT 50 U/L、γ-GTP 36 U/L、、CPK 141 U/L、BUN 10 mg/dL、Cr 0.76 mg/dL、免疫学的所見:CRP 0.05 mg/dL

動脈血ガス分析(酸素6L/分をマスクで投与中)pH 6.954、Po2 85.7 Torr、Pco2 93.7 Torr、HCO3 14.0 mEq/L、BE —13.6 mEq/L。

正しいのはどれか。1つ選べ。

(a)Spo2が91%なのでさしあたり人工呼吸器は使用する必要はない。

(b)メチルプレドニゾロンの投与を開始する。

(c)重炭酸ナトリウムの静注が代謝性アシドーシスの改善に最も有効である。

(d)副腎皮質ステロイド薬の吸入が有効である。

(e)喘鳴が強い症例と比べて軽症である。

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』第3版の症例56)

 通常、喘息発作では聴診上、著明な喘鳴を聴取するが、気道攣縮がさらに増悪すると、呼吸音は減弱、消失(silent chest)する。これは呼吸停止あるいはその兆候と考えられており、喘息重積のなかでも最も重篤な状態として扱わなければならない。意識レベル低下は著明なアシデミアによる。このアシデミアの原因は、もちろん酸素投与前のかなり低いSpo2の情報から考えて呼吸性アシドーシスが生じていたと思われるが、HCO3 14.0 mEq/L、BE —13.6 mEq/L など代謝性アシドーシスも加わっている。これは低酸素状態が続いたことにより全身の嫌気性代謝が亢進し、呼吸筋疲労などもあって乳酸アシドーシスとなっていたと思われる。この場合、 重炭酸ナトリウム(NaHCO3)を投与すると、これがまず体内で重炭酸イオン(HCO3)とNa+に分解され、続いて血中に過剰にあるHがHCO3と反応した結果、水(H2O)と炭酸ガス(CO2)に変化、このようにしてできた炭酸ガスとして肺から呼出されることによってH+の除去をはかろうとする。ところが喘息重積状態では炭酸ガスが呼出できない状態のため炭酸ガスの貯留をさらに助長し、ひいてはこれが細胞内でのアシドーシスを助長する結果となる。 著明な換気障害による呼吸性アシドーシスが背景にある代謝性アシドーシスの治療は、炭酸ガスを排出させて酸塩基バランスを正常化させる、つまり陽圧呼吸をさせるのが最も効果的である。一般に、気管支喘息における人工呼吸管理の適応は、1)来院時心肺停止・意識消失、2)血液ガス分析にて ①慢性高炭酸ガス血症がある場合:Po2>40 Torrの維持に必要な酸素投与によりPco2>80 Torrとなる場合、②慢性高炭酸ガス血症がない場合:Po2とPco2が逆転し、Pco2>60 Torrとなる場合、3)pH 7.25以下、とされており、本症例では1)、2)、3)ともにあてはまる。高炭酸ガス血症は気管支の攣縮がとれてくるまでは改善しないので、ステロイドの効果が発揮されてくるまで待つしかない。今回のような重積発作では、通常最初はメチルプレドニゾロンが全身投与される。なお副腎皮質ステロイド吸入薬は発作自体には無効である。

解答 (b)

その他に問われる可能性のある項目

●気管支喘息発作時の初期対応で、動脈血ガス分析を行い、炭酸ガスの貯留がどの程度か評価する。Ⅱ型呼吸不全(Pco2>45 Torrの呼吸不全)となっている場合、低流量の酸素から開始し、CO2ナルコーシスにならないようにするためにも高容量の酸素投与は禁忌である。(今回の症例では救急搬送の時に6 L/分の酸素投与が開始されており、これが高炭酸ガス血症を助長した可能性はあるが、救急搬送の時点での処置であり、やむをえない)

●サルブタモール吸入薬などのような選択的β2刺激薬の吸入は半減期が短く、発作時には最低30分間隔をあけていれば再度投与可能である。

●発作時の治療として0.1%アドレナリン0.2~0.3 mlを皮下注射することもある。心肺蘇生時時の1A(=1 ml)静注とは量や投与方法が異なる点に注意したい。

●妊娠中の喘息発作は、胎盤血流不全や低酸素により胎児に悪影響をおよぼすため、すみやかに発作をおさえ、再発作をできるだけ予防したい。発作急性期には胎盤に移行しにくいことが知られているハイドロコルチゾンやプレドニゾロンを全身投与するとともに、選択的β2刺激薬の吸入を行う。慢性期の発作予防には、胎盤移行を考慮して肺への局所薬である吸入薬を主体として、妊娠に影響の少ないことが知られているロイコトリエン受容体拮抗薬も使用できる。抗IgE抗体製剤オマリズマブ(後述)は妊娠に影響は少ないとされており、妊娠が判明した場合に継続投与は可能だが、新規に開始しないほうがよいとされている。

●気管支喘息で使用される分子標的治療薬として、ヒト化モノクローナル抗体である抗IgE抗体オマリズマブ(ゾレア®)は高容量の吸入ステロイド薬でも安定しないアトピー型気管支喘息に使用される。その他に、重症のアレルギー性鼻炎や治療抵抗性の特発性慢性蕁麻疹などにも保険適応となっている。メポリズマブ(ヌーカラ®)は、喘息で主役となる炎症細胞である好酸球の機能を調整するインターロイキン5(IL-5)を標的とした生物学的製剤であり、好酸球増多がみられる重症喘息に使用される。その他に、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症にも保険適応となっている。

●気管支喘息のコントロールが悪い場合には、肺炎の合併がないかどうか、服薬アドヒアランスが良好かどうか、自宅や職場など生活環境の確認と環境整備の指導、実際の吸入手技を実地指導などである。

●閉塞隅角緑内障の患者では抗コリン薬の使用は不適切である。とくに長時間作用型抗コリン薬は用いるべきではない。

実際の症例では

人工呼吸器で管理し、メチルプレドニゾロンを3日間使用、その後はプレドニゾロンを3日投与してステロイドの全身投与は終了、あとは吸入薬とロイコトリエン受容体拮抗薬の併用で外来通院に移行した。アレルゲンをスクリーニングしたところ、猫の皮膚に高い反応が出た。当日も猫と長時間接触し、接触した部屋の掃除もしていたため、これが発作のひきがねになった可能性が考えられた。発作消失後、入院時のことを聞いたが、就寝しようとして呼吸がしんどくなってからどうなったか覚えていないとのことであった。おちついてからの動脈血ガス分析はpH 7.437、Po2 88.7 Torr、Pco2 41.8 Torr、HCO3 27.2 mEq/L、BE —3.1 mEq/Lと正常化していた。

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