寒冷時に指先が白くなり

問題72

57歳の女性。両肩・膝関節痛を主訴に来院した。

現病歴:20年前から寒冷時に指先が白くなることがあった。それ以降、漢方薬を処方され現在に至っているが、3ケ月前から指先の安静時疼痛、潰瘍形成が出現した。1年前から指が太いと感じるようになり、指輪がはめられなくなった。1か月前から両肩・膝関節痛が出現したため当院受診した。

現症:身長:151 cm、体重:41 kg。血圧 148/94 mmHg、HR 73/分、整。体温 37.3℃。眼瞼結膜に貧血なく、眼球結膜に黄疸なし。呼吸音に異常なし。病的心雑音は聴取せず。両手指に冷感あり、ソーセージ様腫脹を認める。関節腫脹や発赤は認めず。下腿に浮腫なし。

検査所見:尿所見:タンパク(-)。血液所見:白血球4200/μL、赤血球264万/μL、Hb 12.5 g/dL、Hct 38.0%、血小板22.0万/μL。血液生化学所見:LDH 502 U/L、AST 59 U/L、ALT 23 U/L、ALP 229 U/L、γ-GTP 11 U/L、T-Bil 1.1 mg/dL、CPK 794 U/L。免疫血清学所見:抗核抗体>2560倍(speckled pattern)、抗DNA抗体 18.0 IU/mL(基準<6.0)、IgG型抗ds-DNA抗体 5.2 U/mL(基準<10.0)、IgM型抗ds-DNA抗体 69 U/mL(基準<6.0)、抗U1-RNP抗体>300.0 IU/mL(基準<10.0)、抗Sm抗体 32.8 U/ml(基準<10.0)、抗Scl-70抗体<2.0 U/ml(基準<10.0)、KL-6 298 U/mL(基準<500)、C3 33 mg/dL(80~140)、C4 4 mg/dL(11~34)

胸部レントゲン写真では胸水貯留は認めなかった。

この患者で予想される所見を選べ。

(a)関節穿刺で結晶の証明

(b)心エコーで心基部において右室径>左室径

(c)肺機能検査でFEV1.0の低下

(d)腎生検で半月体形成性糸球体腎炎

(e)体幹部に近い四肢の筋力低下

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』第3版の症例122)

提示された症例の問診、現症だけから考えると、20年前からレイノー症状を自覚し、1年前から手指の腫脹、それが現症ではソーセージ様腫脹となっており、全身性強皮症としての症状を呈している。全身性強皮症は、全身の皮膚、臓器の線維化、硬化など典型的な症状を示す「びまん皮膚硬化型全身性強皮症diffuse cutaneous systemic sclerosis(dcSSc)」と比較的軽症型で皮膚病変が手指や顔面に限局した「限局皮膚硬化型全身性強皮症limited cutaneous systemic sclerosis(lcSSc)」に分けられている。前者は発症より5~6年以内は進行することが多いが、後者の軽症型では進行はほとんどないか、あるいは緩徐である。今回の症例では、発症の経過もかなり緩徐であり、経過からはlcSScと考えられる。また、両肩、膝関節痛も全身性強皮症で認められる多関節炎の症状と考えられる。

しかし一方で、血液検査所見として抗U1-RNP抗体>300.0 IU/mL(基準<10.0)と著しく高値を呈しており、混合性結合組織病(mixed connective tissue disease;MCTD)と考えられる。すると、上記の症状は、この病態の中での部分症状として全身性強皮症の症状が出ている能性が考えられる。その視点に立って、他の膠原病の合併を考えると、ANA 1280倍、speckled pattern、抗Sm抗体、抗DNA抗体、抗RNP抗体陽性、さらに補体の低下などを認めるため、全身性エリテマトーデス(SLE)の合併があるものと考えられる。さらに血液生化学所見でCPK、AST、LDHなどの筋原性酵素の値が上昇しており、多発性筋炎を合併していることが示唆される面もある。この場合、体幹に近い上下肢の筋肉の筋力低下などの症状が認められることが予想される。

 選択肢のうち、(a)は痛風や偽痛風のような結晶性関節炎で認められ、誤りである。(b)は右心不全所見であり、全身性強皮症の予後に大きな影響を与える肺高血圧症が合併している場合に認められる。MCTDにおいて、最も重要な合併症であるため、最初に合併していないかどうかチェックすべき項目である。しかし今回の症例では、三尖弁閉鎖不全に伴う収縮期雑音やⅡ音肺動脈成分の亢進などの所見や下腿浮腫などがないため考えにくい。(c)肺線維症から拘束性換気障害が生じた時には通常%VCが低下する。KL-6は正常範囲域である本症例では進行した肺線維症の合併は考えにくい。また選択肢FEV1.0の低下は肺気腫のスクリーニングにはよいが、肺線維症の有無を評価する場合には不適である。(d)尿タンパク陰性であり、半月体形成性糸球体腎炎が合併している可能性はなさそうである。

解答:(e)

そのほかに聞かれる可能性のある項目

●全身強皮症(SSc)の予後に最も重要な因子となるのは肺高血圧であり、SSCの場合は肺動脈性肺高血圧症(PAH)である。特にlcSSC、抗セントロメア抗体陽性、抗U1-RNP抗体陽性、がPAHのリスク因子となる。MCTDの場合は10%内外に合併し、生命に影響をおよぼす重篤な合併症とされている。

実際の症例では

MCTDの典型的な症例として提示するため、胸水はなかったと提示したが、実際の症例では右胸水が大量に貯留しており、膠原病専門医へ照会したのち、SLEによる胸膜炎の可能性も考えてステロイド製剤の反応をみられた。しかし反応は乏しく、そもそもSLEによる胸水であれば両側にくることが多い。一方、当院で施行した上部消化管内視鏡検査で胃の方には噴門部に静脈瘤あり、F1 Lf RC sign(-)、また胃体上部大弯にひだ頂上部に一致してびらんが散在していたが、検査した時点では明らかな出血点は指摘できなかった。本来であれば、肝臓の評価をもっとつめたいところであったが、本人が造影剤の使用にどうしても同意していただけず、血行動態を十分評価できなかった。実際の症例では肝炎ウイルスマーカーはHBV、HCVとも陰性で、自己抗体ではANAだけでなくAMAも陽性であった。しかし当院入院中はALPやトランスアミナーゼもほとんど変動しておらず、はたして原発性胆汁性胆管炎and/or自己免疫性肝炎による門脈圧亢進症があったのかどうかをつめることができなかった。転院後に、食道静脈瘤破裂による吐血により急変され、さらにSLEの急性増悪と思われる臨床検査データの推移をとり、最終的にARDSとなって死亡されたようである。膠原病はなかなか奥が深く疾患の難しさを改めて感じさせられた1例であった。

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