発熱が続く高齢者

問題2

80歳の男性。咳嗽と発熱とを主訴に来院した。某年4月初めから咳嗽が出現し3週間ほど治らず、近医でレボフロキサシンを5日間投与されてようやく症状も消失した。5月1日当院定期受診日に症状はなかったが、翌日から再び咳嗽が出現。当初は微熱ぐらいだったが、5日から38℃台の発熱が持続するため当院再診された。

既往歴:4年前から高血圧症、2型糖尿病、高脂血症で投薬中である。喫煙歴なし。

現症:血圧174/60 mmHg、脈拍70/分、体温38.0℃、呼吸数34/分、SpO2 97%(room air)。皮膚可視粘膜に貧血や黄疸なし、表在リンパ節触知せず。呼吸音正常。病的心雑音聴取せず、腹部平坦、軟、圧痛なし、腫瘤触知せず、下肢に浮腫なし。

WBC 6100/μl、CRP 2.94 mg/dl。複数回の喀痰塗抹培養検査などでも特異的な菌は同定されず。抗菌薬を点滴投与するも症状が改善しない経過をとったあとの血液検査を示す。

WBC 5300/μl、RBC 321×104/μl、Hb 10.1 g/dl、Hct 29.2%、PLT 7.9×104/μl、CRP 12.56 mg/dl、AST 49 U/l、ALT 71 U/l、T-Bil 2.2 mg/dl、Alb 2.3 g/dl

胸部CT画像を示す。

1)病因菌として最も考えられるのはどれか。1つ選べ。

(a)Legionella pneumoniae、(b)Aspergillus fumigatus、(c)Chlamydia pneumoniae、(d)Mycobacterium tuberculosis、(e)Chlamydia psittaci

2)確定診断の検査で適切なのはどれか。2つ選べ。

(a)肺血流シンチグラフィー、(b)喀痰塗抹培養検査、(c)胸膜生検、(d)気管支鏡下肺生検、(e)呼吸機能検査

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』第3版の症例87)

1)

 今回の症例は、問診の時点でまず糖尿病のある高齢者であることで、一般的に感染症を生じやすい患者背景であることを念頭におく。さらに、一旦キノロン系抗生剤が効いたかにみえたものの、その後、炎症反応の上昇、発熱の持続、抗生剤に抵抗する長い経過、ということがわかる。発熱は高熱となって、胸部CT検査を行うと、血流散布を示唆する肺小葉構造と無関係なランダムな分布で、径1~5 mm(多くは大きくても3 mm)までの粒状影がみられ、感染症であれば粟粒結核を疑う症例である。粟粒結核では、個々の粒状影の辺縁が明瞭であることが多いが、今回のように辺縁がやや不明瞭な粒状影でもよい。1)の選択肢のなかでは結核菌以外はどれもこのようなCT所見をとることはない。問診の中で、レボフロキサシンで一旦軽快したという経過は、キノロン系抗生剤が結核菌に弱い抗菌作用を有するためと考えられ、この知識を持っているとこのような問題が解きやすい。もちろん、結核菌に対してキノロン系抗生剤を単剤投与すると早期に薬剤耐性を獲得しやすいことが知られており、これはすべきではない。結核症と知らずに、キノロン系抗生剤を投与して一過性に症状が軽快したり、培養などで菌が検出されにくくなったりして診断に遅れが生じ、結果として結核症の死亡率につながっているとする報告もある。

2)

高齢で発症し、肺野に粗大な主病巣のない粟粒結核は、もともと体内で長期にわたり潜在していた感染巣から免疫力の低下などにより血流を通じて散布された二次結核病変と考えられ、肺胞病変ではないため今回のように血痰などの喀痰症状は乏しく、聴診所見も陰性で、喀痰培養検査の陽性率も高くない。しかし、もちろん喀痰抗酸菌塗抹培養検査は、感度は低いながら陽性であればPCR法により結核菌か非結核性抗酸菌かの鑑別の上、診断につながることと、排菌の有無により隔離管理する必要があるかどうかの判断材料にもなるため必須の検査である。また抗酸菌は字の通り、胃酸の条件下でも生存するため、胃液の塗抹培養検査も行いたい。血液検査として、Interferon-gamma-release assay(結核菌特異抗原により全血あるいは精製リンパ球を刺激し、産生されるinterferon-gammaを測定することで結核菌感染を診断する方法)としてT-SPOT検査がある。感染既往のある高齢者での陽性の場合の解釈は慎重となるが、陰性であればほぼ結核感染は否定的となり、診断に有用である。培養検査が最終結果判明までに8週間かかるのとは対称的に数日で結果が判明する。選択肢の中で、肺血流シンチは炎症を伴った今回の肺疾患の原因精査につながらない。肺機能検査は結核症が疑われる患者で行うことは空気感染を院内で広げるリスクもあり行わない。また今回の症例では胸水が貯留しておらず、胸膜肥厚もないので胸膜生検の適応はない。最も確定診断に至る可能性が高い検査が経気管支鏡下肺生検である。これで乾酪壊死を伴う巨細胞肉芽腫が認められれば確定診断となる。

解答 1)(d)、2)(b)、(d)

試験の傾向

粟粒結核のCT画像をしっかり目に焼き付けておきたい。この多数の粒状影にもかかわらず、聴診所見に乏しいかたちで症例が提示されたり、キノロン系抗生剤で一旦症状が軽快する経過を提示されたりする。

そのほかに出題される可能性のある項目

●結核菌は通常の血液培地では培養されず、小川培地で培養され、結核症が疑われる症例では必須の検査であるが、最終結果判明に時間がかかり、迅速検査としては使えない。

●患者は通常のサージカルマスクを着用し、医療スタッフはN95マスクを着用して感染防止にあたる。結核菌は咳やくしゃみで口から出る瞬間はまだ水分が付着した飛沫の状態であり、サージカルマスクでブロックできるが、空中にとびちってからはN95マスクでしか防御できないより小さな飛沫核になって空中を浮遊するためである。

●感染症法に基づき、結核症患者は2類感染症として診断後、直ちに届出が必要である。

●肺結核の臨床経過については以下の様になる。結核患者は高齢化が進んでおり、これは免疫能が低下し、潜伏していた結核菌(どのような状態で潜伏しているのかは不明な点が多い)が再活性化する二次結核患者が増加しているためである。感染後の発病は一次結核5%、二次結核5%で計10%である。日本は先進国の中では結核患者が多く、中蔓延国に分類されている。

●潜在性結核感染症(latent tuberculosis infection;LTBI)は疾患の病態自体や治療の影響などで患者の免疫能が低下した場合に、治療対象となる。前者の例として後天性免疫不全症候群(AIDS)がある。

●抗結核薬の副作用が出題されたことがある。以下にまとめるが、ピラジナミドの副作用として高尿酸血症を知っているかどうかが試された。INHは頭文字をとってinjury (of) neuron and hepatocyteと覚える。

参考

粟粒結核は厳密には、少なくとも2臓器以上に粟粒状の結核病巣がびまん性に散布されているもの、という定義がある。実際の症例では、T-SPOTが陽性であったことと、肝機能異常に着目し、肝生検を行って、肝組織内に巨細胞肉芽腫の存在を確認し、Ziehl Neelsen染色で結核菌を証明している。

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