筋肉痛と脱力で

問題102
88歳の女性。こむら返りが起こるため4か月前から近医で漢方薬の処方をうけている。1週間前から倦怠感が出現し、昨日は身体全体に力が入らず筋肉痛も伴うため来院された。
現症:意識清明。血圧182/94 mmHg、脈拍76/分、両側下腿浮腫軽度あり。下肢上肢とも筋力低下あり。
血液生化学検査:Na 143 mEq/L、K 2.0 mEq/L、Cl 74 mEq/L。
この患者にみられる可能性が低いものを1つ選べ。
(a)心電図でQT時間の延長
(b)動脈血HCO3-の上昇
(c)血漿アルドストロン値の上昇
(d)血漿レニン活性の低下
(e)血清CPK値の上昇

解説
漢方薬に含まれる甘草の代謝産物であるグリチルリチン酸は高血圧、低K血症、代謝性アルカローシス、浮腫など、原発性アルドステロン症と同様の症状を呈する。これが偽性アルドステロン症である。甘草を含む漢方以外の医薬品(グリチロン錠、ネオファーゲンC錠、強力ネオミノファーゲンC注射薬など)、食品、たばこなどの常用でも起こりうる。診察時には低K血症の症状として、四肢の脱力、筋肉痛、起立困難、歩行困難、筋痙攣、筋麻痺などの確認、また高血圧の有無とその症状として頭痛、頚部痛、悪心、嘔吐などの症状の確認、また体液量増加に伴い浮腫や体重増加の有無もチェックする。検査所見としては、血液ガス分析で代謝性アルカローシス、低K血症、低K血症を反映して心電図ではQTc時間の延長、T波平定、U波出現、などがみられる。
体液量の変化があると、これを傍糸球体細胞が腎血流量の変化として感知し、腎血流量が減少すればレニン分泌を促進し、増加すれば抑制する。体液量の低下でレニン活性が促進されると、レニンは血管収縮作用をもつアンギオテンシンⅠを活性化し、さらにアンギオテンシンⅠはアンギオテンシン変換酵素でさらに血管収縮作用のもつアンギオテンシンⅡに変換される。アンギオテンシンⅡは副腎皮質からのアルドステロンの分泌を増加させる。アルドステロンはミネラルコルチコイド受容体(mineralocorticoid receptor;MR)に結合すると、腎尿細管でのNaの再吸収を促進し、血漿浸透圧を増加させることによって、水分も排泄されにくい方向に働き、尿量が低下させることで体液量の減少を阻止しようとする。(血管内にNaが増加して血漿浸透圧が上がると、これを何とかもとに戻そうとして水を増加させて希釈しようとする。つまりNaと水の動きはこのように連動する。)ところでNa+再吸収は尿細管においてNa+-HCO3–共輸送系で行われるので、アルドステロンはHCO3-の再吸収も促進する。これによって尿細管管腔側は負に荷電するため、電位依存性KチャンネルによりKが排泄される。結局、アルドステロンがMRに結合する結果、Na+とHCO3-が再吸収され、K+とH+を尿中に排泄される。ここで、活性型の副腎皮質ホルモンであるコルチゾールもMRに作用できるが、正常ではコルチゾールは11β-hydroxysteroid dehydrogenase type 2(11β-HSD-2)の作用で、絶えず不活性型のステロイドホルモンであるコルチゾンに変化し、MRには結合できなくなる。これにより、MRには主にアルドステロンが結合できるような経路が確保されている。甘草の代謝産物であるグリチルリチン酸はこの11β-HSD-2の作用を抑制するため、コルチゾールがどんどん蓄積され、これがアルドステロンに代わってMRに結合し、これがアルドステロンの作用が増強した場合と同じ病態を作り出す。これが偽性アルドステロン症である(図1)。つまり血中アルドステロン値が増加していないのに、高血圧、低K血症、代謝性アルカローシスなどアルドステロン症の症状を呈する病態である。

図1:正常では活性型副腎皮質ホルモンであるコルチゾールは11β-hydroxysteroid dehydrogenase type 2(11β-HSD-2)の作用で、絶えず不活性型のステロイドホルモンであるコルチゾンに変化し、ミネラルコルチコイド受容体(mineralocorticoid receptor;MR)には結合できなくなる。これにより、正常では主にアルドステロンがMRに結合できるような経路が確保されている。甘草の代謝産物であるグリチルリチン酸は11β-HSD-2の作用を抑制するため、コルチゾールがコルチゾンに比べて相対的に蓄積され、これがアルドステロンに代わってMRに結合する結果、アルドステロン作用が増強した時と同じ病態を作り出す。

コルチゾールがアルドステロンに代わってMRに結合するため、血中アルドステロンは低下、しかし受容体にコルチゾールは過剰に結合し作用しているので、負のフィードバックにより血漿レニン活性は抑制される。血中アルドステロン濃度、血漿レニン活性はいずれも低下するのである。治療は原則的には原因薬物の減量または中止である。薬剤の中止により、通常は数週間以内に症状の改善、低K血症、代謝性アルカローシスの改善が得られる。抗アルドステロン薬の投与により改善は早まる。
またこれだけ著明な低K血症があると横紋筋融解症を起こしうる。CPK、AST、LDH、ミオグロビン、アルドラーゼなどが高値をとり、またミオグロビン尿症などがみられてもおかしくない。

解答:(c)

その他に出題される可能性のある項目
●低K血症の場合は耐糖能が低下する。機序は、①膵β細胞でのATP感受性Kチャンネルが機能しなくなってインスリン分泌不全を起こすこと、②インスリンの作用によってグルコースが細胞内に入る際にKも細胞内に一緒に入る必要があるのに、そのKが不足しているためグルコースを細胞内に取り込めないため、である。

実際の症例では
こむら返りに処方された漢方は芍薬甘草湯だった。AST 128 U/L、LDH 479 U/L、CPK 4407 U/Lと、横紋筋融解症の所見もあった。Na 143 mEq/L、K 1.2 mEq/L、Cl 74 mEq/L、Ca 7.4 mg/dL、Mg 2.6 mg/dL、P 2.9 mg/dL、レニン活性<0.2 ng/mL/h、アルドステロン<24.9 pg/mL、ガス分析ではpH 7.609、HCO3 60.5 mmol/L、BE 33.7 mmol/Lと著明な代謝性アルカローシスがみられていた。尿潜血(3+)でありながら、実際の沈査では赤血球3~5/視野となっており、これはミオグロビン尿を反映していたものと思われる。尿K 23.0 mEq/Lと著明な低K血症にもかかわらずそこそこKは排泄されていた。
甘草が問題と考え、芍薬甘草湯はすみやかに中止され、連日K製剤の注射薬と内服薬での補充を行ったが、最初は細胞内に取り込まれていくようで、なかなか血清K値は改善せず、5日目でようやく2.1 mEq/Lになり、その後は、7日目で2.6 mEq/L、9日目に3.3 mEq/L、9日目に4.0 mEq/Lと順調に改善するとともに、横紋筋融解症も改善した。なお、今回の症例では耐糖能異常は認めなかった。

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