肺野の異常陰影で

問題96
65歳の男性。時々喀痰が出るため胸部レントゲン検査、胸部単純CT検査を行ったところ異常を指摘され来院した。日常生活は自立されている。
喫煙歴:20本×25年。45歳で禁煙。
現症:意識清明。血圧133/58 mmHg、脈拍77/分、体温36.7℃、Spo2 97%。肺野:清。心音:整、病的雑音聴取せず。頚部・鎖骨上リンパ節触知せず。
検査所見:血液所見:白血球5300/μL、赤血球429万/μL、Hb 14.0 g/dL、Hct 42.4%、血小板25.5万/μL、血液生化学所見:CRP 0.05 mg/dL、LDH 155 U/L、AST 22 U/L、ALT 14 U/L、ALP 199 U/L、Alb 4.3 g/dL、BUN 16 mg/dL、Cr 0.74 mg/dL、Na 142 mEq/L、K 4.7 mEq/L、Cl 105 mEq/L、Ca 9.7 mg/dL、CEA 33.7 ng/mL(基準値0.1~5.0)、CYFRA21-1 3.4 ng/mL(基準値3.5未満)、ProGRP 29.3 pg/mL(基準値81.0未満)。
単純胸部X線写真、胸部単純CTを示す。

気管支鏡での超音波内視鏡下生検が施行された結果は腺癌。EGFR遺伝子変異陰性、ALK融合遺伝子陰性。PD-L1 65%陽性。

化学療法を行う場合、適切なものはどれか。
(a)EGFR-チロシンキナーゼ阻害薬単剤療法
(b)プラチナ製剤単剤療法
(c)抗PD-1抗体製剤単剤療法
(d)プラチナ製剤併用療法(プラチナダブレット)
(e)ALK阻害薬単剤療法

解説
 一般に癌細胞は、ヒトの免疫機能を抑制して免疫寛容をもたらす。つまり癌細胞はヒトにとって異物であるにもかかわらず、免疫細胞が異物と認識しないようになってしまう。このため、免疫反応を活性化する方法をとってきた以前の癌免疫療法では有効性に限界があった。そこでこの癌細胞がもたらす免疫抑制状態を解除し、癌細胞に対する免疫反応を回復させる免疫チェックポイント阻害薬が開発され、これを主軸にした癌免疫療法が可能となった。その機序を簡単に説明すると、PD-1(PD:programmed death)という蛋白が免疫細胞の表面にあり、癌細胞表面のPD-L1(PD-L:programmed death-ligand)と結合すると、癌細胞に対する免疫機構の攻撃力にブレーキがかかる。またCTLA-4(CTA:cytotoxic T-lymphocyte antigen)はT細胞の表面にある免疫チェックポイント分子で、これに抗原提示細胞のB7(CD80/CD86)が結合すると、やはり癌細胞に対する免疫機構の攻撃力が弱まる。以上をふまえて、免疫チェックポイント阻害薬はPD-1とPD-L1の結合、あるいはCTLA-4とB7の結合を抗体製剤によって阻害することで、癌細胞が免疫機構にかけているブレーキを解除し、免疫機構が癌細胞を攻撃しやすいようにする薬剤である。具体的にラインアップされている薬剤としては、抗PD-1抗体であるニボルマブ(オプジーボ®)とペムブロリズマブ(キイトルーダ®)、抗PD-L1抗体であるアテゾリズマブ(テセントリク®)、デュルバルマブ(イミフィンジ®)、抗CTLA-4抗体であるイピリムマブ(ヤーボイ®)、があり、すべて非小細胞肺癌に適応がある。
 ニボルマブの効果が期待できる因子としては、喫煙者、EGFR変異が陰性、中枢神経への転移がない、組織型としては扁平上皮癌、PS(performance status)が良好であること、非扁平上皮癌では組織中のPD-L1の発現率(TPS:tumor proportion score)が高いこと、などがあげられている。ニボルマブだけでなくペムブロリズマブも、使用にあたっては特に腫瘍細胞におけるPD-L1のTPSが高いことを確認することが重要とされている。
 一方、分子標的治療薬の分野も新薬の開発が進んでいる。EGFR(epidermal growth factor)やALK(anaplastic lymphoma kinase)など腫瘍細胞の発癌や悪性化の直接的な原因となる蛋白にコードする遺伝子はドライバー遺伝子とよばれ、これを標的としてさまざまな分子標的薬が創薬されている。EGFR遺伝子変異例の場合、ゲフィチニブ(イレッサ®)やエルロチニブ(タルセバ®)などのEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI;EGFR-tyrosine kinase inhibitor)が70~80%の症例で腫瘍縮小効果があり、以前の殺細胞性抗癌薬に比べて、無増悪生存期間(progression-free survival;PFS)を有意に延長することが示された。以前は非小細胞癌Stage Ⅳの患者では、殺細胞性抗癌薬はPS 3や4には投与されず対症療法となっていたが、EGFR遺伝子変異例でPS3~4がほとんどのPS不良群に対してゲフィチニブ単独投与の臨床治験の結果、80%でPSの改善、全奏効率(overall response rate;ORR)66%、全生存期間(overall survival;OS)17.8か月、PFS 6.5か月と良好な成績が報告され、ガイドライン中にもPSが悪くてもゲフィチニブの使用を考慮することも可能と記載されるようになった。その一方で、重篤な肺障害の副作用も提示され、特にPSの悪い症例では副作用が発現しやすく、本薬剤の適応が「EGFR遺伝子変異陽性の手術不能あるいは再発非小細胞癌」に変更された。また、クリゾチニブ(ザーコリ®)は、ALKおよびROS1阻害薬で、ALK遺伝子転座(ALK融合遺伝子)陽性の非小細胞肺癌で有効な分子標的薬である。
 今回の症例では、EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子がなく、PD-L1 TPSが50%以上のP0の非小細胞肺癌であり、この場合は、臨床試験では抗PD-1抗体製剤であるペムブロリズマブ単剤療法と、プラチナ製剤併用療法(プラチナダブレットと言われるもので、シスプラチンやカルボプラチンのようなプラチナ製剤と第三世代抗癌剤といわれるパクリタキセル、ゲムシタビン、ペメトレキセドなどとの2剤併用療法)とを比較したものがあり、ペムブロリズマブ単独療法の方がPFS、OSともに有意に延長し、ORRは有意に優れていることが報告されている。

解答:(c)

試験の傾向
肺癌の化学療法の領域は日々アップデートされる内容が多く、新しい薬が日々ラインアップされてきている。どの薬との併用をするのか、あるいは単独で使用するのか、などによって、免疫チェックポイント阻害薬の適応範囲もかわってくる。またあまりに新しい薬は試験問題にはとりあげにくい。PD-L1発現率との関連で抗PD-1抗体製剤や抗PD-L1抗体製剤、EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子などのドライバー遺伝子との関連で各種分子標的治療薬などは治療成績も出てきているため総合内科専門医としても知っておきたい概要が出題されると思われる。

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