超高齢者の黄疸

問題38

87歳の女性が黄疸を主訴に来院した。

現病歴:3日前に目に黄疸が出ていることに気づきかかりつけ医に相談し、当院照会された。軽度全身倦怠感があり、軽度食欲も低下。発熱、腹痛なし。便の色調はやや薄くなっている。

生活歴:飲酒歴なし。喫煙歴なし。

服薬歴:認知症に対して内服加療されているが以前からの処方内容に変更なし。

アレルギー歴:なし

現症:意識清明。身長 140.0 cm、体重 51.2 kg。体温 36.5℃、血圧 104/44 mmHg、脈拍 68/分、整。眼瞼結膜に貧血なし、眼球結膜に黄疸を認める。表在リンパ節触知せず。胸部に異常を認めず。腹部は平坦、軟、圧痛なし。肝脾触知せず。腫瘤触知せず。波動触知せず。下腿浮腫なし。

検査所見:血液所見:白血球6100/μL(好中球71.7%、リンパ球16.3%、単球10.4%、好酸球1.3%、好塩基球0.3%)、赤血球426万/μL、Hb 12.9 g/dL、Hct 37.4%、血小板10.8万/μL、PT 13.7秒(52.0%、PT-INR 1.42)、血液生化学所見:TP 7.0 g/dl、総ビリルビン9.6 mg/dL、直接ビリルビン7.0 mg/dL、AST 1007 U/L、ALT 699 U/L、LDH 358 U/L、ALP 506 U/L、γ-GTP 181 U/L、IgG 2242 mg/dL(基準700~1600)、IgA 426 mg/dL(基準70~400)、IgM 122 mg/dL(基準40~230)、免疫血清学所見:IgM型HA抗体 0.11 S/CO(基準<0.80) 、HBs抗原(—)、IgM型HBc抗体 0.07 S/CO(基準<1.00)、HCV抗体(—)、HCV-RNA(—)抗核抗体40倍、抗ミトコンドリアM2抗体<0.5 U/mL(基準<10)、血清タンパク分画 Alb 48.7%、γ-glob 32.6%、内分泌検査所見:TSH 1.701 μU/mL(基準0.2~4.0)、FT4 1.50 ng/dL(基準0.8~2.2)

腹部画像検査では腫瘍性病変や胆管拡張所見を認めない。

肝生検組織像を示す。

最も考えられるものはどれか。1つ選べ。

(a)急性B型肝炎

(b)薬物性肝障害

(c)自己免疫性肝炎

(d)原発性胆汁性胆管炎

(e)急性C型肝炎

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』にはないが院内で行った内科症例検討道場で症例217として扱ったもの)

今回の症例は自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis;AIH)であり、肝細胞膜に対する自己免疫応答が肝細胞障害の原因と考えられている疾患である。問診でアルコール性肝障害や薬物性肝障害は否定的である。選択肢のうち、IgM型HBc抗体陰性であり急性B型肝炎は否定的、HBs抗原も陰性で、もともとHBウイルスを保有されていたものでもない。HCV-RNA、HCV抗体とも陰性でC型肝炎も否定的である。HCV抗体は感染1~3か月はウィンドウ期であるためこの時期の感染の有無はHCV-RNAでしか判定できない。またIgM型HA抗体も陰性であるので代表的な肝炎ウイルスはすべて陰性である。原発性胆汁性胆管炎は本来ALPやγ-GTPなど胆道系酵素優位の肝機能異常をきたすことや抗ミトコンドリアM2抗体が陽性となるなどの理由で否定的である。さらに今回のデータでは甲状腺機能障害に伴う肝障害も否定的である。このようにウイルス性、アルコール性、薬物性、その他の明らかな要因も否定された場合、特に中年以降の女性の場合にはAIHを疑いたい。AIHは中年以降の女性(男女比1:7)に好発する。AIHの診断には、自己免疫性肝炎診断基準(厚生労働省)、国際診断基準、簡易版国際診断基準(表1)などが使用されている。AIHは基本的にはトランスアミナーゼ優位の肝障害がみられ、抗核抗体が陽性、しばしば2 g/dL以上のIgG、γ-グロブリンが高値となり、肝生検組織では門脈域(急性発症の場合、中心静脈周囲の場合も)へのリンパ球・形質細胞浸潤を伴う肝細胞壊死像であるinterface hepatitis、激しい肝壊死に対する再生を反映する肝細胞のロゼット形成などが特徴的である。今回の組織像では門脈域には中等度以上の炎症細胞浸潤があり、interface hepatitisとP-P bridging、P-C bridgingを形成する壊死がみられる。zonal necrosisのように広範囲にごっそり壊死している部位もみられる。また浸潤細胞としてはかなりリンパ球や形質細胞が多くAIHとして矛盾しない。国際基準で7点、少なくとも6点はあるため治療の反応をみることになる。

表1:自己免疫性肝炎の簡易国際診断基準

治療は副腎皮質ステロイドの投与である。ステロイド抵抗例や副作用などでステロイドが使用できない例ではアザチオプリンなど免疫抑制剤が使用される。プレドニゾロンは通常の自己免疫性肝炎の場合、0.6 mg/kg/日以上、中等症以上では0.8 mg/kg/日以上が目安である。軽症のもので高齢でステロイドが使用しにくい場合にはウルソデオキシコール酸も有効とされている。肝不全の場合には、年齢なども考慮の上、肝移植も施行される。

解答:(c)

そのほかに問われる可能性のある項目

●表1にあるようにAIHの診断には抗核抗体が有用であるがこのほかに、抗平滑筋抗体もAIHで高頻度に陽性となる。

●ウイルス性肝炎に比べて肝硬変への移行率は低く、肝癌合併率も低い。

●本邦のAIHの90%はHLA-DRが陽性である。遺伝性は認められていない。

●抗核抗体はAIHの疾患特異性は低いが、抗平滑筋抗体は疾患特異性が高い。AIHのⅠ~Ⅲ型に分類されているが本邦では抗核抗体、抗平滑筋抗体とも陽性のⅠ型が多い。

●関節リウマチなど他の自己免疫疾患を合併することがある。

実際の症例では

重症度分類があり、今回の症例は急性発症の重症例に分類された。超高齢者だったが、副作用に留意しながら、プレドニゾロン1 mg/kg/日で開始し、漸減した。現在、維持量とし経過良好である。

Follow me!