高齢者の食欲不振

問題53

74歳の女性。食欲不振を主訴に来院された。

現病歴:1か月前に感冒症状が治りにくく、3週間前に一旦症状は消失した。2週間前より食欲不振、発熱、全身倦怠感が出現。1週間前から泌尿器科でセフジニルの経口投与が行われていたが、その後も食欲不振が持続、ふらつきも出現し当院初診された。

既往歴:特記事項なし。

現症:血圧 117/76 mmHg、脈拍 133/分、体温 37.0℃、眼瞼結膜に軽度の貧血を認める。眼球結膜に黄疸はない。心音と呼吸音に異常はない。腹部は平坦、軟で圧痛はない。下腿に浮腫を軽度認める。神経学的に異常はない。

検査所見:尿所見:糖(-)、蛋白(2+)、潜血(3+)、白血球(3+)。血液所見:白血球15400/μlL、赤血球275万/μL、Hb 8.1 g/dL、Hct 24.1%、血小板37.1万/μL、血液生化学所見:AST 33 U/L、ALT 33 U/L、ALP 362 U/L、 TP 6.7 g/dL、Alb 3.7 g/dL、BUN 45.2 mg/dL、Cr 1.92 mg/dL、FBS 145 mg/dL、Na 138 mEq/L、K 4.8 mEq/L、Cl 108 mEq/L。総コレステロール 201 mg/dL。免疫血清学所見:CRP 8.49 mg/dL、MPO-ANCA 510 U/mL(基準<9.0)、PR3-ANCA<3.5 U/mL(基準<3.5)、抗糸球体基底膜抗体<5 EU(基準10未満)、抗核抗体陰性、CH50 48 U/mL(基準30~45)、C3 80 mg/dL(基準52~112)、C4 38 mg/dL(16~51)。

胸部CTでは肺野に一部線維化、瘢痕形成など陳旧性変化は認めるが、明らかな活動性病変を認めなかった。腹部CTでも明らかな活動性病変を指摘できず。

1)予想される蛍光抗体法による腎生検組織所見はどれか。1つ選べ。

(a)陽性所見を認めず。

(b)C4の尿細管基底膜への線状沈着

(c)IgAのメサンギウム領域への沈着

(d)IgGの糸球体基底膜への線状沈着

(e)IgGの糸球体基底膜への顆粒状沈着

2)本患者の治療薬として適切なものはどれか。1つ選べ。

(a)ペニシリン系抗菌薬

(b)カルバペネム系抗菌薬

(c)アセトアミノフェン

(d)非ステロイド系抗炎症薬

(e)副腎皮質ステロイド

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』第3版の症例3)

今回の症例は、半月体形成性腎炎、その中でもMPO-ANCA陽性であり、ANCA関連腎炎である。尿中に多数の白血球が認められ膿尿だから一見腎盂腎炎のようにみえるが、蛋白尿とともに顕微鏡的血尿がみられており、糸球体腎炎の可能性があるのではないかと疑うことが初療の時点で重要であり、実際の臨床ではこのMPO-ANCAを測定できるかどうかが診断にたどりつけるかどうかの鍵となる。

全身性血管炎という疾患概念がある。これは全身の大小さまざまな血管に炎症が起こり、さまざまな症状が生じる疾患群の総称である。血管炎は障害される血管の太さによって、大型血管炎(巨細胞性血管炎あるいは側頭動脈炎・高安動脈炎)、中型血管炎(結節性多発動脈炎)、小型血管炎(腎限局型血管炎・顕微鏡的多発血管炎・多発血管炎性肉芽腫症・好酸球性多発血管炎性肉芽腫症・IgA血管炎・過敏性血管炎)に分類されている。これらの疾患で共通する症状は、全身性血管炎としての発熱(しばしば今回のような高熱)、体重減少、関節痛、筋肉痛、症例によっては紫斑など皮膚症状などが挙げられる。この中で、腎限局型血管炎、顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis;MPA)、多発血管炎性肉芽腫症(granulomatous polyangiitis;GPA)・好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(granulomatous eosinophilic polyangiitis;GEPA)は、腎生検のHE染色でボウマン腔内に2層以上の細胞層の形成からなる細胞性半月体と呼ばれる構造物が糸球体係蹄壁を取り囲むように認められる。このように半月体形成が認められる糸球体腎炎を半月体形成性糸球体腎炎と呼ばれる。これは蛍光抗体法では糸球体や血管壁に免疫グロブリンや補体の沈着を認めないpauci-immune型に分類されている。半月体形成性糸球体腎炎の中ではこのpauci-immune型半月体形成性糸球体腎炎が最も多く、その血清中にはANCA(anti-neutrophil cytoplasmic antibody)と呼ばれる自己抗体がほとんどの症例で陽性となり、これが免疫学的機序により炎症を起こして腎障害をきたしANCA関連腎炎と総称される。このうち限局型血管炎(原発性半月体形成性糸球体腎炎)は腎臓に限局した小型血管の壊死性血管炎である。MPAは、同じく壊死性血管炎であるが、侵される臓器は主に肺(肺胞出血による喀血、間質性肺炎)と腎臓(顕微鏡的血尿、蛋白尿、pauci-immune型半月体形成性糸球体腎炎)であり、消化管出血、多発単神経炎、下腿紫斑なども起こしうる。ANCAのうちMPO-ANCA(P-ANCA)が陽性となる。またGPAではやはり小型血管の壊死性血管炎で、上気道およびその周辺(咽頭炎、口内炎、眼球突出、結膜炎、中耳炎、慢性副鼻腔炎、鞍鼻)、肺(血痰、呼吸困難、咳嗽)、腎臓(MPAと同様)が侵される。ANCAのうちPR3-ANCA(C-ANCA)が陽性となる。さらにGEPAはMPAと同じくMPO-ANCAが陽性となるが、MPAやGPAに比べて腎障害を起こす頻度は低い。

 ちなみにANCA関連腎炎ではないが、蛍光抗体法ではANCA関連腎炎の場合にみられるpauci-immune型(沈着を認めないパターン)のほか、糸球体係蹄壁に検出される免疫グロブリン(主にIgG)の沈着パターンによって線状型(抗糸球体基底膜型);糸球体係蹄に線状に沈着するパターンと顆粒型(免疫複合体型);糸球体係蹄に顆粒状に沈着するパターン、がある。線状型をとる半月体形成性腎炎のうち抗基底膜抗体(抗BM抗体)が陽性のものには腎臓に限局する抗GBM腎炎、肺出血を伴うものをGoodpasture症候群という。

治療の主体は副腎皮質ステロイドである。今回は腎臓のように重要臓器に明らかな障害があるため大量のステロイド投与、すなわちメチルプレドニゾロン(ソルメルコート、ソルメドロール)パルス療法を行い、その後、プレドニゾロンの漸減を行う。漸減の際に免疫抑制薬の併用も必要である。本疾患は特定疾患に指定されている。1ヶ月以内にクレアチニンが2倍以上(本症例では2倍までには至らないが、それに近い)の上昇がある場合は急速進行性腎炎として迅速な生検診断と治療を要する。早期診断が重要である。

実際の症例では

実際の症例では、尿中白血球3+で膿尿であったため、当初は腎盂腎炎も疑い、ニューキノロン系抗生剤を投与した。尿中白血球は陰性化するも尿潜血は3+~2+と改善なく、尿蛋白2+であり、腎炎の所見であろうと考え、高熱と関連づけることができる病態としてANCA関連腎炎がうかんだ。その後MPO-ANCAが上昇していることが判明し、腎生検、ステロイド投与を行うにいたった。また貧血については正球性正色素性貧血であったため骨髄穿刺を行ったところ、慢性炎症に伴う二次的な貧血+葉酸欠乏(血清葉酸値は1.4 ng/mlで低値であった)の関与が疑われた。

解答:1)(a)、2)(e)

試験の出題傾向

解説でも述べたように、MPAでは多発単神経炎を呈することがある。このためたとえば「両下腿のしびれと右下肢の筋力低下」と提示され、それとともに今回の症例と同様の臨床症状、検査所見なども提示されて、MPAと診断させるパターンも出題されている。

その他に出題される可能性のある項目

●顕微鏡的血尿の所見として赤血球円柱が認められることが多い。

●MPAの皮疹として、紫斑以外に、末梢循環不全を示唆する網状皮斑が生じることもある。

●MPAの場合の保険適応のある治療薬は、プレドニゾロンの他、シクロホスファミド、さらに生物学的製剤である抗CD20抗体リツキシマブ(リツキサン®)である。シクロスポリンやメトトレキサートは保険適応が通っていない。(しかしシクロスポリンで副作用のために処方困難となった場合など、やむをえずシクロスポリン投与に移行することもあるようである)

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