高齢者の高熱
問題54
80歳の女性が発熱を主訴に来院した。
現病歴: 以前から両側膝関節痛はあったが、痛みが増強したこともあって本日午前中から自宅で動けない状態であった。夜、38℃台の発熱もみられたため救急受診した。
既往歴:腎硬化症による慢性腎不全と診断されて当院腎臓内科通院中。
現症:身長 150.0 cm、体重 51.6 kg。血圧 162/74 mmHg、脈拍 88/分、整。体温 38.5℃。Spo2 100%。意識清明。眼瞼結膜に軽度貧血あり、黄疸を認めず。胸腹部に異常を認めず。下肢に浮腫なし。両膝関節に圧痛と腫脹を認める。下肢の筋肉痛や筋力低下はない。
検査所見:血液所見:白血球11000/μL(好中球78.6%、リンパ球15.0%、単球6.0%、好酸球0.2%、好塩基球0.2%)、赤血球324万/μL、Hb 10.2 g/dL、Hct 31.2%、血小板26.9万/μL、CRP 5.35 mg/dL、LDH 167 U/L、AST 19 U/L、ALT 11 U/L、ALP 185 U/L、γ-GTP 43 U/L、CPK 295 U/L、TP 7.3 g/dL、Alb 3.7 g/dL、BUN 48 mg/dL、Cr 4.02 mg/dL、Na 141 mEq/L、K 3.6 mEq/L、Cl 110 mEq/L、Ca 9.2 mg/dL、P 4.3 mg/dL、Mg 2.5 mg/dL、BS 149 mg/dL、プロカルシトニン 0.35 ng/mL
胸部、腹部臓器には発熱の原因となる病変を認めず。
両膝関節単純レントゲン写真を示す。
診断確定に必要な検査はどれか。1つ選べ。
(a)血清抗CCP抗体の測定
(b)血清リウマトイド因子測定
(c)骨シンチグラフィー
(d)関節穿刺
(e)関節超音波検査
解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』にはないが院内で行った内科症例検討道場で症例245として扱ったもの)
典型的な両側膝関節偽痛風の症例である。関節痛があってそれに伴って高熱が出ている症例で、胸腹部CT画像検査を行っても他に発熱、特に高熱のフォーカスがつかめない場合、必ず鑑別疾患として頭に入れておかなければならないのは偽痛風である。両膝関節の単純レントゲン写真では、両膝関節の変形性膝関節症が認められるとともに、石灰沈着も明らかとなり、偽痛風で矛盾しない所見であった(図)。
図:両膝関節レントゲン写真。石灰沈着がみられ(黄矢印)、両側膝関節偽痛風が疑われる。
痛風が尿酸Naの沈着によって生じる結晶性関節炎であるのに対して、偽痛風はピロリン酸Caの沈着によるものである。痛風が男性に多く、ほとんどは片側の足の母趾に好発するのに対して、偽痛風は膝関節に好発するが、基本的に全身のどの関節に起こってもおかしくない。痛風と違って、時には両側に発症する場合もある。特殊な部位の偽痛風としてcrown-dens症候群と呼ばれるものがあり、これは環椎横靭帯または環椎十字靭帯にピロリン酸Caが沈着したものであり、首の痛みとともに発熱がみられる。今回の症例のように膝関節で偽痛風を疑う場合は、まずpatellar ballottement(膝蓋跳動試験)が陽性かどうかを診察する。方法は、まず膝関節周囲を引き寄せて、膝蓋骨を固定して、上から指で軽く圧迫する。骨と骨があたるように、コツコツという音が聞こえ、感じると、関節液が病的に貯留していることとなり陽性と判定する。これが陽性であれば関節液を採取する。この液にピロリン酸Caの存在を証明すれば、細菌培養の結果が出るまでは化膿性関節炎の合併例の可能性は残るにしても、少なくとも偽痛風が存在することは診断できる。さらに画像では、両関節の単純レントゲンで石灰沈着が認められれば、典型的な偽痛風であると考えられる。
実際の症例では
本症例でも関節穿刺が行われた。穿刺液は淡黄色混濁あり、pH 8.0、比重1.014、リバルタ反応陽性、細胞数19200/μLで好中球85%、リンパ球11%、マクロファージ4%、ピロリン酸Ca陽性、尿酸Na陰性であり、偽痛風と診断された。最終的に細菌は培養されなかった。治療としては教科書的にはステロイドの関節内注入が記載されているが、化膿性関節炎は否定しておきたい。関節液の一般検査結果が判明したためヒアルロン酸12.5 mg+デキサメタゾン(デキサート) 1.65 mgを左右の膝関節に注入された。また抗炎症作用のあるNSAIDsやアセトアミノフェンの投与により炎症をおさえると、多くの症例で比較的すみやかに偽痛風の病勢は終息する。実際は最初の段階では化膿性関節炎を完全には否定できないことが多く、ステロイドの関節内注入をする前にNSAIDsなどの抗炎症役が投与され、これで大抵は病勢が終息するためこれで治療は完結することも多い。今回の症例はCr 4 mg/dL台の慢性腎不全があるためNSAIDsの投与はこれを悪化させる可能性があった。このためアセトアミノフェン(カロナール®)800 mg/日の定期投与を開始したところ、1週間後には0.77 mg/dLとすみやかに低下し、発熱も開始して即日消失し、リハビリもしていただき、もとの状態にもどられた。
解答:(d)