日々の医療でつれづれなるままに

昭和63年に医師となり、内科の分野が専門医制度などの影響もあってどんどん専門領域化していくなかで、私自身は肝疾患を中心に消化器疾患の専門診療にあたってきました。しかし一方では、専門バカにならず、総合内科医として地域医療に少しでも役立てるよう幅広い内科分野にも目を向けてきました。特に私の本来の専門領域である肝疾患はウイルス性肝疾患の激減に伴い、それをベースとした肝癌も減り、生活習慣病をベースにした脂肪性肝疾患が増えています。この生活習慣病を診療するためにも、糖尿病などの代謝疾患、循環器疾患、腎疾患、などさまざまな分野の内科を勉強していく機会が自然と多くなりました。そのなかで、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、腎臓内科、神経内科・・・・と数多くの内科分野はあるもののそれらは別々ではなく、身体の中で相互に連関しあって成り立っているので、病気を診断したり治療したりする場合にも、総合的に内科をながめることができる医師となる必要性を実感するようになりました。患者の問題点がひとつの内科領域の専門知識だけで解決できるようにみえても、実はそれが他の領域と密接に関連しており、病気の本質を見極めるためには総合的に内科領域を見渡すことが必要な場面が多いわけです。またそもそも、日本全体を眺めると、医師不足の地域も多いわけで、これだけ多岐にわたる内科領域の専門医がすべてそろっている医療現場は、それほど多くないと思われます。やはり総合内科医がしっかりと初期診療を行い、専門医に丸投げせずにある程度まで診療に介入したうえで、必要に応じて適切な専門医へと引き継ぐことが地域医療を担っていくうえでの基礎になってくると思います。ひとつ例を挙げてみます。むかつきがあって食事がとれないのでみてほしいと家族が連れてきた高齢の患者でした。ご本人はあまり症状を述べたがられず、家人が次々とお話されるパターンでした。しかも明け方の3時頃でした。家族はすでに前日の午後に別の病院に連れていっておられ、「今日は内視鏡医が救急担当ではないので明日午前中に絶食でくるように」と指示され、制吐剤を点滴されて内服処方されて帰宅していたようです。明け方3時でむかつきと食欲不振でこられたのを、「わざわざこの時刻に、、、」という思いではなく、「この時刻にこの症状で救急に連れて来られたのには、いつもとは様子がちがうと家族が感じる何かがあるのでは?」という思いで話を聞いていきました。家族はあれこれと心配する人で、最近患者の生活の中で起こったことをいろいろ述べられ、きっとこうしたストレスがかかって胃が悪くなったのでしょうか、と言われます。発熱、痛み、貧血、黄疸など全くなく、このまま家族の考えに流されていきそうになる状況でした。しかしここで総合内科医としての視点がもてるか、それとも専門バカで終わるかどうかがかかっていました。視点を変えて問診を行い、「そういえば頭が痛いとも言っていた」という情報を引き出しました。慢性硬膜下血腫でした。総合内科医として身体全体を頭に入れながら問診にあたることが大事だと実感した症例でした。このように内科分野は実に奥が深く、多くの医師に助けてもらいながら、ひとつひとつの症例を通じて日々多くのことを私自身も学んでいるのが現状です。そして是非、内科診療のこの奥の深さや診療で得た喜び、難しさ、つらいこと、残念なこと、、、、などをぜひぜひ、次世代の医師にも伝えていきたいという思いで日々勤務しています。

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