嘔吐と食事摂取不良で

問題70

67歳の女性が、最近、嘔吐症状、食事摂取不良などがあるとの訴えで入院のうえ精査加療することとなった。

現症:身長:151.5 cm、体重:45 kg。血圧 161/97 mmHg、HR 79/分、整。体温 36.4℃。Spo2 97%。意識清明。眼瞼結膜に貧血、黄疸なし。表在リンパ節触知せず。胸部心肺に異常なし。腹部は平坦、軟で上腹部に圧迫すると違和感あり。腹水なし。下腿浮腫なし。

腹部CT(単純、造影)、上部消化管内視鏡所見、組織所見を示す。

この疾患に対する治療として適切なものはどれか。1つ選べ。

(a)TS-1+シスプラチン

(b)リツキシマブ(抗CD20抗体)+CHOP(シクロフォスファミド+ドキソルビシン、ビンクリスチン+プレドニゾロン)

(c)イマチニブ(抗チロシンキナーゼ阻害薬)

(d)ゲムシタビン

(e)ソラフェニブ

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』第3版の症例101)

 腹部CTで低濃度の腫瘍を認め、一部にはわずかに石灰化を疑わせる高輝度の部分が認められる(図1)。造影CTの冠状断合成像(図2)で位置関係をみると、胃の噴門部あたりが大きなヘルニアを形成し胸腔側に滑脱している(図3、赤矢頭。青矢印が横隔膜のライン)。腫瘍はその滑脱した噴門部から発生しているようにみえる(図3、黄矢印)。またその部分でかなり腫瘍が占拠しているため内腔(図3、赤矢印)はかなり狭くなっており、食物通過障害をきたしても不思議ではなく、嘔吐の原因となりうる。それより背側の合成像では腫瘍口側での食道との境界(図3、緑矢印)がみられている。ヘルニア内を中心に増大した胃の腫瘍と思われるが、これだけ大きくなるまで、吐血や下血などがなかったことや、腫瘍占拠によって内腔が狭くなっているあたりで腫瘍の表面を追うと比較的平滑である(図1、3、赤矢頭)ことも考えると、粘膜下腫瘍を十分考慮する必要がある。特に5 cmを越えており、悪性腫瘍の可能性が十分考えられ、さらに内部の造影効果は、おそらく壊死、腫瘍内出血などを反映して不均一になっている(図3)ことが考えられる。

図1:単純CT。低濃度腫瘍を認め、一部に石灰化が疑われる高輝度の部分が認められる。腫瘍の占拠によって内腔が狭くなっており、そのあたりで腫瘍の表面を追うと比較的平滑である(赤矢頭)。

図2:造影CT冠状断合成像。腫瘍の位置関係が明らかである。(a)横隔膜のライン(青矢印)をこえて胃噴門部付近が口側に滑脱しヘルニアを形成している(赤矢頭)。腫瘍はその滑脱した噴門部から発生しているようにみえる(a、b黄矢印)。(c)腫瘍部で、ヘルニア内腔はかなり狭くなっている(c、赤矢印)。(d)食道と腫瘍口側端との境界付近(緑矢印)。

図3:造影CT。腫瘍表面は比較的平滑で、腫瘍の造影効果は壊死、出血などを反映して不均一となっている。

以上を念頭に入れて上部消化管内視鏡検査をみる。噴門部を中心に、立ち上がりは比較的なだらかで、正常粘膜に覆われる巨大な粘膜下腫瘍が占拠している。組織学的検索では、短紡錘形細胞の束状、小結節状増生が認められ、好酸性の細胞質と短紡錘形の核を有しており、GISTで矛盾しない所見である。治療としてはイマチニブ(グリベック®)が用いられる。

解答:(c)

実際の症例では

腫瘍頂上に浅い潰瘍形成があったためここからの生検で胃GISTと診断された。免疫染色により、c-kit(+)、CD34(+)、Desmin(-)、S100(-)で、GISTと診断した(図4)

図4:短紡錘形細胞の束状、小結節状増生が認められ、C-kit陽性、CD34陽性でありGISTと診断される。

今回の症例は手術適応と考え切除を依頼した。胃GISTの外科切除については、臓器機能を可及的に温存した部分切除で根治が可能であれば部分切除を、部分切除で一括切除が不能であれば、全摘ないしは周囲臓器切除を伴う拡大切除を行うことになっている。今回の症例では、腫瘍は胃噴門側から発生してヘルニア内から食道内腔に向けて増大してきている印象であったが、腫瘍を胃内に引っ張り出したところ胃食道接合部より胃側に腫瘍はすべて存在していたため、通常の噴門側胃切除が施行された。腫瘍は固有筋層を中心にsm~ssにかけて大きな結節を形成し、一部は粘膜固有層内に進展し潰瘍形成を示していた。一方、深部については漿膜面にもところどこと露出している部分がみられた。腫瘍内部には壊死の領域も含まれ、静脈浸潤も認めた。切除された口側、肛門側断端は陰性、リンパ節は1群0/4個、2群0/4個といずれも陰性であった。またHE染色での核分裂像は3個/4HPFの割合で認め、増殖期細胞で発現されるKi-67抗原陽性細胞の頻度は20%と高値を示した。病理組織学的な悪性度指標として、腫瘍径と核分裂数からのリスク評価が一般的に用いられているが(表1-a)、核分裂数の代わりにKi-67陽性細胞率や腫瘍壊死像を用いたリスク評価もある(表1-b)。今回の症例ではいずれの分類でも高リスクと分類された。術後の再発率は超低リスク群で1%未満、低リスク群で5%未満、中リスク群で10~20%、高リスク群で40%を超えると報告されている。このうち高リスク群に対して術後の再発予防に有効であることが示されているので、今回の実際の症例では、術後にイマチニブが投与された。

表1;GISTの病理組織学的悪性度評価の指標

Follow me!