口内炎と高熱
問題8
43歳の女性。2年ほど前から口内炎を起こしやすい。2週間前から微熱と、左右移動する両関節痛が出現した。4日前から39℃の発熱が出現。その後、前胸部の皮疹、外陰部のしこりに気づく。悪心や下痢も生じた。高熱と皮疹も持続するため当院受診。
現症:体温38.4℃、血圧 96/59 mmHg、脈拍 78/分、整。前胸部、右前腕に各1ケ所圧痛を伴う毛包炎様の丘疹あり。右殿部、右大腿内側(図1)、右鼠径部にも各1ケ所圧痛を伴う膿疱あり。両足関節に熱感を伴う発赤、腫脹があり圧痛を伴う。左下腿に、圧痛を伴い軽度隆起する2 cm大の紅斑を認めた。また右大陰唇に疼痛を伴う腫脹があり、径8 mmの白苔を伴う潰瘍が認められる。明らかな膿汁の排泄なし。右上口唇粘膜と右頬粘膜下部に集簇する口内炎あり(図2)。明らかな水疱形成はなく、疼痛はない。心音と呼吸音には異常はない。
検査所見:尿所見:蛋白(—)、糖(—)、潜血(—)。血液所見:白血球 11100/μL、赤血球 457万/μL、Hb 12.7 g/dl、Hct 36.7%、血小板 20.9万/μL、赤沈 44 mm/h。血液生化学所見:TP 7.4 g/dl、Alb 3.5 g/dL、AST 17 U/L、ALT 19 U/L、LDH 193 U/L、BUN 14 mg/dL、Creat 0.57 mg/dL、Na 127 mEq/L、K 3.6 mEq/L、Cl 96 mEq/L、免疫血清学所見:CRP 8.35 mg/d、抗核抗体 <40倍、RF定量<4 U/ml、抗CCP抗体<2.0 U/ml
眼科受診によりぶどう膜炎を指摘された。
胸部レントゲン写真に異常はない。
問題
本患者の治療薬として適切なものはどれか。1つ選べ。
(a)プレドニゾロン
(b)メトトレキサート
(c)コルヒチン
(d)インフリキシマブ
(e)リツキシマブ
解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』第3版の症例134)
高熱の持続、再発する口腔粘膜のアフタ性潰瘍(図2)、外陰部潰瘍があり、両足関節に日によって移動する関節炎症状、左下腿に結節性紅斑を疑う皮疹、右大腿内側には毛嚢炎様皮疹(図1)があることから、Behçet病を疑うのは容易である。血液検査でも白血球、CRP、赤沈など炎症反応の上昇がみられており、特徴的な症状と合わせて総合的に診断する。
治療方針は、抗炎症、好中球抑制、血栓防止からなり、これら対症療法で不十分な病態に対して免疫抑制を考慮するのが基本的な考え方である。本疾患にどの薬剤を選択すべきかということがしばしば問題にされている。NSAIDsは抗炎症作用を期待した対症療法として用いられる。コルヒチンは白血球の内部に長期間とどまり、好中球の微小管を構成する蛋白に特異的に結合することで好中球機能を抑制する。全身症状、眼症状、関節炎症状、皮膚症状には第1選択薬となっている。ヨウ化カリウム内服も詳細な作用機序は不明であるが、好中球走化性の阻害などやはり好中球抑制作用があるらしい。重症例ではプレドニゾロン30~60 mg/日、特に神経型Behçet病の発症期や増悪期には、60~100 mg/日あるいはメチルプレドニゾロン1g/日×3日のパルス療法が第一選択薬となっている。しかしステロイド薬の長期服用は、特に本疾患では血栓形成を助長するとされており、また急激な減量は眼症状を悪化させる。このため、ステロイドの使用は神経型や腸管型のような生命予後にかかわる特殊な病態に限定され、血栓症を予防するために抗血小板薬としてアスピリンが併用される。またシクロスポリンのような免疫抑制剤は、眼症状にはコルヒチンとしばしば併用されるが、この種の薬剤自体による神経型Behçet病様の症状が誘発されることが報告され、神経型Behçet病には禁忌とされている。ステロイドの効果が不十分な場合、シクロホスファミドが併用される場合もある。
そのほか、抗TNF-α製剤であるインフリキシマブは眼病変や腸管病変、血管病変、神経病変などの特殊型に適応があり第1選択薬にはならないが、予後の改善が期待されており今後は中心的な薬となる可能性がある。さらに腸管病変に対してアダリムマブ(ヒュミラ®)も保険収載された。
解答(c)
実際の症例では
最近、不全型や軽症例の増加が報告されている。今回、実際の患者ではぶどう膜炎の所見や関節炎症状を認めず、口内炎も初診時に初めて判明した。そのため皮膚科で生検を施行いただき、本症に矛盾しない所見を得た。まずは抗炎症効果を期待してNSAIDで経過をみていたところ、病状は終息した。ここでは典型的な症例として提示するため、関節症状、眼症状などを加えた。またBehçet病と鑑別困難なSweet病という疾患もあり、最終的にどちらかははっきりしなかった。