発熱と意識障害

問題14

76歳の男性が発熱と呂律障害で救急受診された。

現病歴:朝から発熱、呂律障害あり、また気分不良、頭の違和感もあるとのことで当院救急受診された。

現症:血圧 161/83 mmHg、脈拍 76/分、整。体温 38.5℃。Spo2 95%。来院時には意識清明であったが、まもなく傾眠傾向となった。眼瞼結膜軽度黄疸あり、貧血あり。左上肢、右手背、左下腿に紫斑あり。胸部・腹部に異常なし。下肢に浮腫なし。

検査所見:血液所見:WBC 6200/μL(桿状好中球 3.0%、分葉核好中球 70.0%、リンパ球 11.0%、単球 14.5%、好酸球 1.5%)、RBC 279万/μL、Hb 8.9 g/dL、Hct 25.7%、PLT 1.1万/μL(塗沫標本で血小板凝集傾向なし、クエン酸採血でも著変なし)、PT 10.7 sec(96.1%)、APTT 31.4 sec、FDP 8.5 μg/mL。血液生化学所見:Alb 3.6 g/dL、総ビリルビン 2.9 mg/dL、直接ビリルビン 0.8 mg/dL、CRP 1.22 mg/dl、AST 54 U/L、ALT 21 U/L、LDH 1349 U/L、Cr 1.25 mg/dL、直接・間接Coombs試験(-)

まず行うべき治療はどれか?

(a)血小板輸血

(b)エクリズマブ

(c)血漿交換

(d)トロンボモデュリン

(e)血液透析

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』第3版の症例93)

 今回の症例でまずわかるのは、血小板数が1.1万/μLと著しい血小板減少がある。さらに、貧血がありHb 8.9 g/dL、Hct 25.7%、RBC 279万/μLであるのでMCV 92 fl、MCH 31.9 pg、MCHC 34.6%で正球性正色素性貧血である。貧血とともにLDH 1349 U/L、AST 54 U/Lと上昇しており、T-Bil 2.9 mg/dL、D-Bil 0.8 mg/dLなので間接ビリルビン2.1 mg/dLで間接ビリルビン優位の黄疸がある。ハプトグロビンの低下はみていないが、以上の基本データから溶血性貧血があるものと考えられる。その他、データでは軽度の腎障害がある。また症状として発熱がみられ、呂律障害や傾眠傾向になるなど動揺性精神神経症状がみられている。これら下線を引いたものは、血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura;TTP)の古典的5徴である。5徴がこのようにそろうことは10%未満と稀であり、本症はvon Willbrand因子(VWF)の切断酵素であるADAMTS13活性が低下していることで確定診断するが、この結果の判明を待たず治療を開始しなければならない。この5徴のうち、腎機能障害は腎臓の毛細血管が血栓で閉塞することによって生じるが、血液透析を要するような著しい腎障害が血小板減少と溶血性貧血にみられる場合は、溶血性尿毒症症候群 (hemolytic uremic syndrome; HUS)を疑う(後述)。

 後天性TTPはADAMTS13に対する自己抗体が産生され、ADAMTS13活性が低下した結果、異常な大きさのVWFが増加し、微小血管に血小板血栓を形成することによって発症する。①血小板が消費されることにより血小板減少、②微細血管に赤血球がひっかかり物理的な赤血球損傷による溶血性貧血、さらに③血栓形成による種々の臓器障害、が生じる。無治療の場合、致死率は90%以上にのぼる。すみやかに血漿交換を行うことにより、異常な大きさのVWFの除去、正常のVWFの補充、ADAMTS13の除去などが可能となる。血漿交換療法を行い、通常ステロイドも併用されることが多い。そのような標準的治療に抵抗性の症例にはリツキシマブ(リツキサン®)が有効であったとする報告もある。また血小板数が少ないが、現在活動性の出血が起こっている場合を除き、基本的に血小板輸血は血栓傾向を助長するため禁忌である。また活動性出血などがあったり、侵襲的処置が必要であったり(この場合、血漿交換のためのカテーテル挿入は含まれない)して、やむなく血小板輸血による止血が必要とされる場合には、その輸血後速やかに血漿交換を行うか、あるいは時間的余裕がある場合であれば、血漿交換後に血小板輸血を行う。なお問題選択肢のトロンボモジュリン(カルモジュリン®)はDICの治療薬である。またエクリズマブ(ソリリス®)は、補体C5に対するヒト化抗C5モノクローナル抗体製剤で補体の活性化を阻害するが、補体活性化が亢進して生じる非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS、後述)で使用されるものである。

解答 (c)

実際の症例では

今回の症例は他院での治療を希望され救急搬送し、そちらで緊急的に血漿交換を施行され、すみやかに意識レベルは改善し、プレドニゾロン、リツキシマブの投与が行われ、救命しえた。

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