悪寒と高熱

問題18

82歳の女性。2週間前に発症と思われる心筋梗塞による心不全と、逆流性食道炎や多発胃潰瘍による貧血などで全身状態が悪く入院となった。保存的加療を行いながら、カテーテルによる冠動脈血栓回収も行った。入院経過中に心肺停止が起こり、心肺蘇生の結果、自己心拍、自発呼吸は再開した。中心静脈カテーテルも挿入し、輸血も行いながらカテコラミンの持続投与で血圧を維持したところ徐々に全身状態は改善した。入院2週間目に悪寒を伴う高熱が出現し、血液細菌培養検査検体が提出され、中心静脈カテーテルは抜去された。

血液細菌塗抹標本を示す。

ここまで判明した時点での対応として適切なものはどれか・

(a)バンコマイシンの投与

(b)ミカファンギンの投与

(c)フルコナゾールの投与

(d)メロペネムの投与

(e)経過観察

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』にはないが院内で行った内科症例検討道場で症例289として扱ったもの)

ヒト真菌症の主な原因真菌は、カンジダ、アスペルギルス、クリプトコッカス、ニューモシスチス、である。このうち臨床検体で分離されることが最も多いのはカンジダである。カンジダはヒトの皮膚、粘膜常在菌であり、消化管や外陰部などに常在している。このような常在する部位での感染(表在性カンジダ症)からさらに体内の深部へと侵入する場合(深在性カンジダ症)のカンジダの侵入門戸は特に医原性の要因によって感染バリア機能の失われた皮膚や粘膜であり、具体的には血管内カテーテル刺入部の皮膚、尿道カテーテル留置部の粘膜(さらに皮膚、粘膜から侵入したカンジダはカテーテルにバイオフィルムを形成して定着するといわれている)、化学療法などで障害を受けた消化管粘膜、放射線療法を受けて障害を受けた皮膚、粘膜などである。またカンジダ感染のリスク因子としてそのほかに、ステロイド投与、抗菌剤の長期投与、担癌状態、血液疾患罹患、臓器移植後、腹部手術後、糖尿病、低栄養、なども挙げられる。頻度的にはカンジダの中では、Candida albicansが最も多く、以前はこれが大多数であったが、現在は約半分程度となり、非albicans candidaが増加傾向にある。グラム染色をすると、グラム陽性(濃青色に染まる)で、通常の細菌より数倍大きい球形~卵円形の菌体としてとらえられ、酵母様真菌と表現される。仮性菌糸(偽菌糸)を形成することが多いが、その形成傾向が目立つものから、あまり仮性菌糸はなく本来の細胞のみに近いものもある。一般に1個の細胞から出芽する場合、まず小突起状の菌糸がでて、普通はやがて娘細胞が分離、独立する。ところが仮性菌糸形成傾向が強いカンジダでは娘細胞が母細胞と密接して、細長い細胞に伸び、これらの末端から、再び出芽によって新しい細胞を生じるので、長い糸状になる。外見的に真性菌糸と違う点は細胞の連結部が狭く、長卵型またはソーセージ型の細胞が連鎖していることであり、今回の写真はそれに相当する。カンジダ血症がある場合、特に中心静脈カテーテルが留置されている場合は、①すみやかにカテーテルを抜去し、カテ先を培養検査に提出する、②抗真菌薬の投与を開始する、③眼科をコンサルトし、真菌性眼内炎(カンジダ血症の約10%に合併)の有無をチェックする、の3点が重要である。また、抗真菌薬投与後には④血液培養の再検により陰性化の確認なども行っておきたい。また血液検査では真菌の細胞壁の成分であるβ-D-グルカンが通常上昇し、同じように酵母様真菌とされるクリプトコッカス症では通常上昇せず、鑑別に有用である。一般に、深在性抗真菌薬としては、エルゴステロール合成阻害を起こすアゾール系としてフルコナゾール(FLCZ;フルコナゾール、ジフルカン®)、ホスフルコナゾール(F-FLCZ;プロジフ®)、またβ-D-グルカンの生合成阻害を起こすキャンディン系としてミカファンギン(MCFG;ファンガード®)、カスポファンギン(CPFG;カンサイダス®)などが知られている。本来カンジダは一般にアゾールが効力を保っている場合が多く、深在性カンジダ症の治療としてもFLCZが第一選択薬である。しかし最近、FLCZに感受性の低い非albicans candidaが増加していることから、カンジダ血症が判明して、まだalbicansかどうか、薬剤感受性などが判明していない段階では、経験的治療としてキャンディン系抗真菌薬の投与が推奨される。

解答 (b)

試験の傾向

中心静脈カテーテルなどがキーワードである。問題によってはほとんど仮性菌糸形成がみられないカンジダの写真を提示してくる場合もあるのでそのバリエーションにも注意したい。今回は、眼底検査を提示していないが、ここで必要な検査として眼底検査を選ばせる問題や眼内炎がある場合の薬剤選択を問うこともありうる(後述)。

この他に問われる項目として

●カンジダ血症など深在性カンジダ症の場合、一般的に上記の経験的治療を開始したあと、臨床的に安定した経過をとり、フルコナゾール感受性を確認できて、フォローアップの血液培養結果が陰性であることが確認できた場合に、フルコナゾールへの変更も検討する。眼内炎などの明らかな転移感染巣がない場合、血液培養が陰性化し、症状改善後、通常2週間が治療推奨期間である。

●眼内炎を生じている場合は、抗真菌薬の眼内への移行性にも留意する。一般に全身投与の場合、キャンディン系の抗真菌薬は眼内移行性が極めて不良である。このためCandida albicans、さらには非albicans系Candidaの中でC. parapsilosis、C. tropicalisなどの場合でも、眼内炎がある場合は第一選択薬としてホスフルコナゾールが推奨される。この場合、治療期間延長も考慮する。

●真菌は培養時の形態によって酵母様真菌(例:カンジダ、クリプトコッカス)、糸状菌(例:アスペルギルス、ムコール)、二相性菌に分類される。カンジダは組織中では仮性菌糸として認められ、培養では球形で仮性菌糸が発達する程度はカンジダ種によってさまざまである。アスペルギルスは組織中では菌糸で存在し(喀痰に胞子が認められることはない)、培養されにくいが、培養された場合は緑色や黒色の胞子として認められる。胞子を吸入して感染する。クリプトコッカスは、組織中、培養、いずれも球形~類球形の菌体として認められ、髄膜炎の診断における髄液墨汁染色は簡便で有用である。

●アゾール系抗真菌薬は副作用が比較的少ないが、肝チトクロームP450(CYP3A4)との親和性があり、この酵素で代謝される薬剤の血中濃度を上昇させるため併用禁忌薬もある(そのいくつかは既に販売中止となっている)。その点でもファンギン系は比較的安全で使用しやすい。

●中心静脈カテーテル挿入時の感染防止策としてはmaximum barrier precautionが推奨されている。すなわち術者は帽子、サージカルマスク、滅菌手袋、滅菌ガウン、大きな滅菌ドレープを使用する。また可能な限り、鼠径部からの挿入は避ける。挿入部の剃毛は感染率の低下には寄与しない。

実際の症例では

カテーテル抜去とともにカテ先も培養検体として提出された。塗沫の結果からカンジダ血症と考え最初は経験的治療としてミカファンギンを投与開始した。また目に関する訴えはなかったが翌日の眼底検査で真菌性眼内炎を伴っていることが判明したためすみやかにホスフルコナゾールに変更した。最終的には酵母様真菌はCandida albicansであることも確認され、眼底所見を経過観察しながらホスフルコナゾールの投与を続け、結局8週間の治療を要した。

網膜内に類円形の散在性黄白色病巣として炎症細胞浸潤が認められ、限局性に硝子体が混濁している。

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