めまいの自覚で

問題84
56歳の女性。息切れと易疲労感を主訴に来院した。
現病歴: 3か月前頃から息切れ、易疲労感を自覚するようになった。また時に徐脈であることを自覚したり、めまいを自覚したりするようにもなって外来受診された。失神の既往はない。
検査所見:血液所見:WBC 4800/μL(Band 48.0%、Lympho 42.4%、Mono 6.1%、Eosino 2.9%、Baso 0.6%)、RBC 448万/μL、Hb 14.6 g/dL、Hct 43.5%、PLT 26.2万/μL、血液生化学検査所見:CRP 0.03 mg/dL、LDH 182 U/L、AST 67 U/L、ALT 138 U/L、T-Bil 1.3 mg/dL、D-Bil 0.3 mg/dL、BUN 23 mg/dL、Cr 0.91 mg/dL、CPK 52 U/L、心筋トロポニンT陰性、BNP 197.9 pg/mL、。
外来受診日の心電図と、心エコー検査所見図、および精査加療目的で入院されたときの心電図を示す。心エコーでは駆出率(EF)65.7%、中隔と前壁に壁運動低下を認めた。

外来受診日の心電図。

外来受診時の心エコー図。

精査目的で入院された際の、入院中に撮った心電図。

問題
最も考えられる疾患はどれか。
(a)肥大型心筋症
(b)急性冠症候群
(c)心Fabry病
(d)心アミロイドーシス
(e)心サルコイドーシス

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』にはないが院内で行った内科症例検討道場で症例330として扱ったもの)
当院での心電図でも完全右脚ブロックとV1-3ではわずかにST上昇が認められる(図1)。V1-3の誘導でST上昇といえば前壁中隔の急性心筋梗塞を想起しやすいが、心筋虚血を示唆する自覚症状もなく、血液検査で心筋トロポニンTも陰性、CPKの上昇もないので急性冠症候群は考えにくい。では陳旧性心筋梗塞のあとにできた心室瘤と考えると、その場合は陰性T波だけでなく、通常V1-3に異常Q波が認められるはずであるが、それがない。しかしV1-3でST上昇がみられ完全右脚ブロックがあるということは、少なくとも前壁中隔領域に何らかの心筋障害が生じた結果、伝導障害がある可能性を考えておく必要がある。
 次に、最近徐脈を自覚するようになったり、めまいを感じたりするようになっている、という訴えに注目し、心電図の伝導障害について考える。外来初診時の心電図では、完全右脚ブロックに加えて、PQ(PR)間隔の延長(0.20秒以上、記録紙上の5mm以上)が認められⅠ度房室ブロックも合併している(図1)。また精査目的で入院され、入院中にとられた心電図では心房伝導、心室伝導の波形の解離(房室解離)があり、完全房室ブロックと考えられた(図2)。徐脈、あるいは脳血流不全によりめまいが生じても何ら不思議ではない心電図波形となっている。これはペースメーカー植え込みの適応であり、実際このあとまもなくペースメーカーが植え込まれている。
 ではこのような伝導障害を生じる病因は何か、ということになるが、まず患者背景からは、若年~中年女性に完全房室ブロックが生じた場合は心サルコイドーシスの存在を絶えず疑うべきである。心エコーでは、心室中隔基部の菲薄化が認められ、心サルコイドーシスに特異性の高い所見である(図3)。また心電図V1-3でのST上昇ということで疑っていた前壁、中隔での心筋障害を示唆するように、心エコーでの前壁と中隔の壁運動低下が指摘されている。

図1:外来受診時の心電図。完全右脚ブロックに加えて、PQ(PR)間隔の延長(0.20秒以上、記録紙上の5mm以上)が認められⅠ度房室ブロックも合併している。V1-3の右側胸部誘導で軽度のST上昇が認められている。

図2:入院中の心電図。心房伝導、心室伝導の波形の解離(房室解離)があり、完全房室ブロックと考えられた。P波(赤矢印)とQRS波(青矢印)が無関係に出現している。

図3:心エコー所見。心室中隔基部の菲薄化が認められ(黄矢印)、心臓サルコイドーシスを疑う所見である。前壁と中隔の壁運動低下も指摘されていた。

 サルコイドーシスの診断基準および診断の手引きによれば、心病変を示唆する所見として以下の4つの主徴候のうち2項目以上陽性、あるいは主徴候1項目が陽性で5つの副徴候のうち2項目以上が陽性の場合、とされている。
診断基準
主徴候
(a)高度房室ブロック、(b)心室中隔基部の菲薄化、(c)Gaシンチグラムでの心臓への異常集積、(f)左室収縮不全(左室駆出率50%未満)
副徴候
(a)心電図異常:心室性不整脈(心室頻拍、多源性あるいは頻発する心室性期外収縮)、右脚ブロック、軸偏位、異常Q波のいずれか、(b)心エコーでの異常所見:局所的な左室壁運動異常あるいは形態異常(心室瘤、心室壁肥厚)、(c)核医学検査異常:心筋血流シンチグラム(タリウムあるいはテクネシウム)での灌流異常、(d)Gd造影MRIにおける心筋の遅延性造影所見、(e)心内膜心筋生検で中等度以上の心筋間質の線維化や単核細胞浸潤。

今回の症例ではここまで提示してきた範囲だけでも主徴候のうち(a)、(b)の2項目が陽性であり、心サルコイドーシスと診断できる。

解答:(e)

試験の傾向
心サルコイドーシスは総合内科専門医試験では頻出である。今回の症例ではV1-3で軽度ST上昇がみられていたが、試験問題で提示される心電図ではST上昇はなく急性冠症候群に関連する疾患を除外しやすい形で作問されている場合が多い。また今回の心室中隔基部の菲薄化は軽度であり気づきにくかったかもしれないが、試験問題ではもっと菲薄化がはっきりしているエコー像が提示されることが多い。

その他に聞かれる可能性のある項目
今回の症例を用いて、その他に専門医試験で聞かれる可能性のある項目を挙げていきたい。
●Gaシンチグラフィーで障害部位の取り込み上昇が認められる。

図4:GaシンチグラフィーSPECT像。心室中隔かと思われる心筋付近に取り込み上昇がみられ、心サルコイドーシスで矛盾しない所見だった。

●PET-CTで病変部位への集積亢進が認められる。

図5:PET-CT所見。心室中隔基部から前壁にかけて集積(SUVmax 8.8)が認められ、右室自由壁にも集積亢進が認められ、いずれも心サルコイドーシスが示唆された。

今回の症例では、これに加えて、他臓器にも以下のような集積亢進が認められた。

図6:PET-CT所見。(a)脾臓(SUV max 9.0)や(b)肝右葉(SUV max 4.7)に局所的な集積亢進が認められ、(c)(d)肺門部リンパ節や(e)肝十二指腸靭帯付近のリンパ節(SUV max 8.3)にも集積亢進が認められ、これらの領域にも病変の存在が示唆された。

●Tl-心筋シンチグラフィーでは病変部位に一致して取り込み低下が認められる(必ずしもサルコイドーシスに特異的ではない)。

図7:Tl-心筋シンチ所見。心室中隔と思われる病変部位に一致して、軽度取り込みの低下が認められる。

●Gd造影MRIでは病変部位の遅延性造影効果を認める(必ずしもサルコイドーシスに特異的ではない)。

図8:Gd造影MRI所見。心室中隔基部(赤矢印、橙色矢印)に強い遅延性造影効果を認め、そのほかにも左室前壁、右室自由壁(黄矢印、青矢印)に造影効果を認めた。

●サルコイドーシスは多臓器に非乾酪性類上皮肉芽腫を生じる原因不明の疾患。
●肉芽腫を形成する類上皮細胞がACEを産生するため血清ACEが上昇している症例が多い。(ちなみに本症例では上昇していなかった)
●サルコイドーシスではツベルクリン反応が陰性化することが古くから知られている。
●中年女性に多いが、本邦では若年の男女にも多い。
●サルコイドーシスの死因の60%は心病変であり、心病変がある症例では、ない症例に比べて予後は不良である。
●心サルコイドーシスによる房室伝導障害は、突然死のリスクとなる。
●心サルコイドーシスは心室頻拍、冠動脈病変を伴わない局所的心室瘤などが致命的となることもある。
●心サルコイドーシスに対して、副腎皮質ステロイドは有効性が報告されている(ただしプラセボとの比較研究はない)。心収縮能低下の軽い症例は、進行例に比べてステロイドの有効性が高い。禁忌がない限り、原則としてステロイド導入が推奨されている。また心不全症例には、一般的な心不全治療として、ACE阻害薬やβ遮断薬が用いられる。
●心臓以外にサルコイドーシス病変が認められない心臓限局性心サルコイドーシス(isolated cardiac sarcoidosis)もある。

実際の症例では
今回の症例は、実際は受診の2年前の健診で、無症状にもかかわらずたまたま完全右脚ブロックを指摘され、1年前はV1-3にST上昇が認められていたが、特に心エコーやトレッドミル負荷心電図などで明らかな異常も指摘できず、担当医から1年後の再検が指示されていた。今回の心エコーで心室中隔基部の菲薄化を指摘され、その意味では発症して比較的間もない時期の心サルコイドーシスを指摘できた症例と考えられる。1年足らずの間にこのように菲薄化が進む症例があるということを示してくれている点で貴重な症例である。担当医はこの心エコーをみて以降、サルコイドーシスとしての診断をつけるための検査を中心に精査を進めていかれ、最終的に主症状は(a)、(b)、(c)の3項目、副徴候のうち(a)、(b)(c)、(d)の4項目を満たしていたことになる。
治療は、本患者の場合は永久ペースメーカーの植え込みを行ったうえで、プレドニゾロン30 mg/日から開始し漸減された。その後のPET-CTでのフォローにより、心臓および他病変の取り込みが治療前に比べて低下しており、それらの病変がやはりサルコイドーシスによる病変であったと考えられた。

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