意識レベル低下の原因は?

問題83
82歳の女性。普段、通常の受け答えは可能で歩行器での歩行は可能。2日前に腹痛の訴えがあったが軽快したため経過をみていた。昨日はほとんど食事を食べなかった。今朝は一旦起きたが、その後、傾眠状態となり症状軽快しないため当院救急受診された。
現症:意識レベルJCS Ⅱ-30。血圧77/56 mmHg、脈拍154/分、体温38.8℃、Spo2 95%、呼吸数26/分。
検査所見:尿所見:蛋白(-)、糖(-)、潜血(-)、白血球(-)。血液所見:白血球19500/μL、赤血球477万/μL、Hb 13.8 g/dL、Hct 43.1%、PLT 23.5万/μL。血液生化学所見:LDH 274 U/L、AST 39 U/L、ALT 21 U/L、ALP 206 U/L、AMY 128 U/L、CPK 75 U/L、Cr 0.84 mg/dL、BS 147 mg/dL、CRP 6.84 mg/dL。動脈血ガス分析:pH 7.410、PO2 75.4 Torr、PCO2 27.9 Torr、HCO3 19.7 mmol/L、BE -5.8 mmol/L。
胸部レントゲン検査に異常なし。
腹部CTを示す。

問題
(1)quick SOFAスコアはどれか。
(a) 0点
(b )1点
(c) 2点
(d) 3点
(e) 4点

(2)処置として必要となる可能性の高い治療法はどれか。1つ選べ。
(a)緊急胆嚢ドレナージ
(b)緊急開腹手術
(c)抗癌剤投与
(d)非ステロイド系抗炎症薬の投与
(e)赤血球輸血

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』にはないが院内で行った内科症例検討道場で症例326として扱ったもの)
 傾眠傾向がみられており意識障害の鑑別によく言われるAIUEOTIPSを思い出す。意識障害の場合は、①A:Alcohol(アルコール)、②I:Insulin(インスリンつまり低血糖)、③U:Uremia(尿毒症)、④E:Encephalopathy(脳症)、Endocrinopathy(内分泌疾患)、Electrolytes(電解質異常)、⑤O:Oxygen(低酸素血症)、Opiate(薬物中毒)、⑥T:Trauma(外傷)、Temperature(低体温、高体温)、⑦I:Infection(感染症)、⑧P:Psychiatric(精神疾患)、Porphyria(ポルフィリア)、⑨S:Stroke/SAH(脳血管障害)、Seizure(てんかん重積)、Syncope(失神)、Shock(ショック)などを鑑別していく。問診、理学所見、採血検査までのところで、意識障害に関係しそうな点は、1)血圧77/56 mmHg、脈拍154/分とショックバイタルであること、これはAIUEOTIPSのS:shockである。2)体温38.4℃で高体温(AIUEOTIPSのT:temperature)、WBC 19500/μL、CRP 6.84 mg/dL何らかの感染症があるかもしれないこと、これはAIUEOTIPSのI:infectionである。3)呼吸数26/分で頻呼吸(24/分以上)があり、pHは正常であるが、HCO3は19.7 mmol/Lで24±2を下回り、PCO2は27.9 Torrで40±5を下回っているため、呼吸性に代償された代謝性アシドーシスがある。すると何らかの重症感染症でショックバイタルとなり代謝性アシドーシスを起こしている可能性を考えることになり、設問にあるように感染症による臓器障害もきたしていわゆる敗血症の病態となっている可能性があるためquick SOFAスコアを算出したい。Quick SOFAスコアでの意識障害ありの基準は、Glasgow coma scaleなら15点未満となっているがこれは健常者が15点なので傾眠傾向程度の軽い意識障害であっても「障害あり」に分類される。ちなみに今回の症例ではE1V1M4で6点程度であった。そのほか、呼吸数26/分>22/分で、収縮期血圧77 mmHg<100 mmHgで3点となり、2点以上なので敗血症の可能性が考えられる。
 以上より、重症感染症を起こす病変が何かを考えなければならない。胸部レントゲン写真に異常がなかったので、次に腹部CT画像をみていく。問題文では腹腔内の遊離ガス(フリーエアー)が見やすいように、ウィンドー幅(観察したい部位のCT値の下限値と上限値の幅)を大きくした画像を提示している。右横隔膜下で肝臓の前方に少量のフリーエアーがみられている(図1)。以上より、消化管穿孔による穿孔性腹膜炎を生じていると考え、通常は急性腹症として緊急手術を依頼したい症例である。

図1:腹部造影CT。ように、ウィンドー幅(観察したい部位のCT値の下限値と上限値の幅)を大きくした画像を提示している。右横隔膜下で肝臓の前方に少量のフリーエアーがみられている。赤矢印:右横隔膜、黄矢印;右横隔膜下遊離ガス、橙色矢印:腹膜脂肪織、緑矢印:左横隔膜。特に遊離ガス像と腹膜脂肪織との違いに注意したい。

解答:(1)(d)、(2)(b)

試験の傾向
内視鏡的胃粘膜下剥離術(ESD)を施行して翌日に腹痛と発熱、ショックバイタルとなり、CTでは典型的な遊離ガス像がみられており、緊急開腹術を選択させる問題が過去に出題されている。状況的にもまた画像でも明らかな消化管穿孔とわかる問題である。今回のような少量の遊離ガス像に気づけなくても、実際に出題されたような問題であればさすがに正解には至れるはずである。しかし今回は少量の遊離ガスを提示してみた。なぜなら、このような程度の遊離ガスが見逃される恐れがあるからである。救急の現場でこれは見逃してはいけない。実際の現場では、提示された画像のようにウィンドー幅を変えてみることも大切である。参考までに、今回の症例のもともとの画像を提示する(図2)。よく見ないと遊離ガス像と腹膜脂肪織との区別が難しいことがわかる。

図2:腹部造影CT。通常のCT画像では、右横隔膜下の遊離ガス像と腹膜脂肪織の区別が難しい。赤矢印:右横隔膜、黄矢印;右横隔膜下遊離ガス、橙色矢印:腹膜脂肪織、緑矢印:左横隔膜。

実際の症例では
実際は、前日は興奮気味であまり食事を食べず、受診日の朝に起きてこないという症状で救急受診された。白血球はWBC 1500/μLと逆に低下しており、重症感染を示唆するものであった。現症では、高齢であることと、意識レベルが低下していることなどもあって、腹部に圧痛所見が全くなかった。緊急開腹術が施行され、穿孔部はトライツ靭帯から150 cm、回腸末端から130 cmの小腸であった。穿孔部を含めて7 cmの小腸が切離された。腹腔内は温生食7000 mLで洗浄され、明らかな出血や消化液漏出のないことが確認された。肉眼的には、何らかの原因によって過去に生じた腹腔内の癒着を示唆する所見がみられたが特定の原因もはっきりせず、特発性小腸穿孔ということになった。術後、救急受診時に採取提出されていた血液培養の嫌気性培養から2本分にStreptococcus salivariusが培養された。これは緑色溶血性連鎖球菌グループに属する細菌であり、口腔や消化管粘膜の嫌気性常在菌であるが、まれに菌血症・髄膜炎・心内膜炎・副鼻腔炎をおこすことが知られている。一般に下部消化管穿孔に比較して、小腸穿孔は適切に治療対応できれば一般に予後はよい症例が多いが、今回のように穿孔に伴って菌血症、敗血症が生じてショック状態で来院される場合もある。

Follow me!