足が灰色に

問題23

69歳の男性が左足の腫脹で救急受診した。

現病歴:1か月前に左足を怪我した。2日前より、左足の腫脹を認め、日に日にひどくなってきている。朝食後しばらくしてから悪寒、戦慄、その後、発熱を認めるようになった。下痢はないが、食欲不振が出現。呼吸器症状なし。頻尿や排尿困難、排尿時痛はない。夜間になって倦怠感出現し救急受診。この1週間での生もの摂取歴なし。プールは行っていた。川や海、森などへの旅行はしていない。動物飼育歴なし。海外渡航歴なし。

既往歴:高血圧、糖尿病などを指摘され定期処方中。

飲酒歴:500~700 ml/日×47年。

現症:意識清明。体温 38.4℃、脈拍 110/分、整。血圧 80 mmHg触診、呼吸数34回/分。皮膚、可視粘膜に貧血なし、黄疸あり。頚部リンパ節触知せず。頸静脈怒張を認めない。心音、呼吸音に異常なし。腹部は平坦、肝脾触知せず。左下腿の疼痛、腫脹、熱感あり。左足関節内側に灰色から暗紫色の色調変化を伴う皮疹、水疱を認め浸出液が出てきている(下図)。四肢に麻痺なし。

図: 左足関節内側

検査所見血液所見:白血球 9300/μL(好中球 92.0%、リンパ球 5.0%、単球 3.0%)、赤血球 490万/μL、Hb 15.7 g/dL、Hct 43.6%、血小板 10.2万/μL、PT 22.0 sec(26.9%、PT-INR 2.19)、Fibrinogen 667 mg/dL、FDP 9.3 μg/mL、血液生化学所見:CRP 32.58 mg/dL、LDH 348 U/l、AST 100 U/L、ALT 45 U/L、CPK 1510 U/L、CPK-MB 21 U/L、T-Bil 4.1 mg/dL、BUN 39 mg/dL、Creat 3.31 mg/dL

診断に最も重要な検査や処置はどれか。1つ選べ。

(a)心臓超音波検査

(b)動脈血ガス分析

(c)左下肢造影CT検査

(d)病変部の切開

(e)左下肢造影MRI検査

解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』にはないが院内で行った内科症例検討道場で症例290として扱ったもの)

 左下腿の疼痛、腫脹、熱感があり、左足関節内側に灰色から暗紫色の虚血性の色調変化を伴う皮疹、水疱を認め浸出液が出てきている状態があり、腎障害を認めショックバイタルであることから壊死性筋膜炎が疑われる。壊死性筋膜炎は早期診断と治療を要する疾患であり、すみやかに起炎菌を同定するためにも培養検体を採取したいが、水疱形成がある場合はその水疱自体を培養するのではなく、その深部の感染組織を提出し、グラム染色することにより迅速に診断できる。また治療をすみやかに開始するため、まず病変部切開、排膿を行う。切開を加えた瞬間、dish waterと呼ばれる灰色、あるいは白色で濁った液体が流出することがある。もし壊死していればその部位からは出血せず、診断の一助になる。また切開面に指を入れると容易に組織が剥離できること(finger test陽性)も特徴の一つである。筋膜壊死の状況をみて、それに続いて足、下腿、下肢などさまざまな範囲での切断を要することもある。

壊死性筋膜炎の場合には、早期に抗生剤の大量投与を開始する。原因菌が不明な段階での経験的治療としてはグラム陽性菌、グラム陰性菌、嫌気性菌を幅広くカバーするために、カルバペネム系抗生剤、クリンダマイシン(タンパク合成阻害薬であるクリンダマイシンには黄色ブドウ球菌やA群溶連菌の産生する外毒素の産生を抑制し、死亡率を下げると言われている)、MRSAの関与も疑われる場合はさらにこれにバンコマイシンを加える。

問題の選択肢のうち動脈血ガス分析は、敗血症に伴う代謝性アシドーシスの評価にも是非しておきたいが、最も重要なことは何といっても病変部の切開である。

解答 (d)

そのほかに聞かれる可能性のある項目

●後述するように劇症型溶血性連鎖球菌感染症であった。これは成人に多く、今回のように壊死性筋膜炎から多臓器不全を起こす。今回の症例については下肢切断に踏み切ったが、通常はデブリドマンを早急に行う必要がある。ペニシリン系抗生剤が通常が有効であるため第一選択薬となる。

実際の症例では

血圧がカテコラミンを投与しないと維持できないレベルであり、至急皮膚科に連携をとり、試験切開をしていただくこととなった。皮下組織まで切開され、モスキートで鈍的に剥離していただいたところ、皮下組織は白色に変色しており白色混濁組織液(dish water)がみられ、筋膜も壊死していることが確認された。この白色混濁組織液と壊死組織を細菌検査に提出していただいた。Finger testは下腿中央部の一部で陽性だった。以上より、壊死性筋膜炎と診断された。皮膚科、整形外科合同で追加切開と、壊死組織をデブリドマンする予定とされたが、壊死の範囲を評価したところ、下腿の2/3の筋肉まで壊死が確認できたため、もはやこれを残すよりも救命することを優先として大腿部での切断術が行われた。また抗生剤は前述のような経験的治療が開始され、敗血症性ショックとしてメチルプレドニゾロン(ソルメルコート®)1 gが開始された。一方、無尿状態でアシドーシスも著明、かつ昇圧剤なしでは血圧維持できないseptic acute kidney injuryであり、急性血液浄化療法の絶対適応と考えられた。腎臓内科と連携し、PMX-DHP(polymyxin-B immobilized column direct hemoperfusion)、その後、sepXirisを用いたCRRT(continuous renal replacement therapy)を行っていただいた。

各種細菌培養検査結果があとで判明し、いずれの検体からも、A群溶血性連鎖球菌が検出されたため、下肢壊死性筋膜炎をベースにして生じた劇症型A群溶連菌感染症と考えられた。劇症型溶連菌感染症は、5類感染症に指定されており、全数報告の対象となっている。診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出なければならない。

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