皮疹と発熱
問題4
23歳の男性。主訴:皮疹と高熱。2日前から咽頭痛、顔面・頸部に始まる皮疹と38℃台の発熱が出現し、皮疹はすぐに四肢に広がったため来院した。
既往歴と家族歴とに特記事項なし。常用薬なし。海外渡航歴無し。
現症:意識清明。体温37.4℃。脈拍98回/日、整。血圧124/60 mmHg、呼吸数 16回/日。両側眼球結膜に軽度充血あり。口腔粘膜と扁桃に異常なし。甲状腺触知せず。頸部、耳介後部に小豆大のリンパ節を両側に数個触知し、軽度圧痛を認める。腹部は平坦、軟で肝、脾触知せず。皮疹は数ミリの病変である。(図)。
検査所見:血液検査 WBC 3500/μL(好中球75.7%、リンパ球14.7%、単球7.5%、好酸球0.9%、好塩基球1.2%)、Hb 15.5 g/dL、血小板 8.9万/μL、血液生化学所見:総ビリルビン 0.3 mg/dL、AST 20 U/L、ALT 11 U/L、BUN 15 mg/dL、Cr 1.08 mg/dL、CRP 0.99 mg/dL
図:患者にみられた皮疹
問題:診断に有用な検査はどれか。1つ選べ。
(a)血液培養検査
(b)β-D-グルカン
(c)IgM型風疹ウイルス抗体
(d)A群β溶連菌迅速抗原試験
(e)皮膚生検
解説(オリジナルは『Dr. Tomの内科症例検討道場』第3版の症例43)
今回の症例の症状は皮疹、発熱、リンパ節腫脹であり、この問診と視診が診断するうえでほぼすべての鍵と思われ、典型的な風疹と考えられえる。風疹は風疹ウイルス(rubella virus)による急性熱性発疹性疾患である。皮疹については、5 mm程度で、もり上がりのない紅班かごくわずかにもり上がりがある紅色丘疹であり、ほとんど癒合傾向がない。この癒合傾向がないことと、落屑や色素沈着がみられないことが麻疹との鑑別点と言われていたが、成人風疹は症状が重く、紅班が癒合しているようにみえたり落屑や色素沈着がみられたりするケースもある。経過として、皮疹とほぼ同じくして発熱がみられているのも特徴である。皮疹と発熱は3日程度で消退し、「3日ばしか」と呼ばれる所以である。また、本人は気づいていなかったが、両側頸部、耳介後部に小豆大のリンパ節腫大が複数あり、軽度圧痛を認めた。通常の感冒時にみられる前頸部のリンパ節腫大が多いが、風疹の場合は、耳介後部あるいは後頭部にみられる。リンパ節腫大は皮疹の数日前から出現し数週間持続する。カタル症状や本症例のように眼球結膜の充血がみられることもある。通常軽症で経過するが、合併症としては、関節炎(5~30%に発症し一過性、通常成人女性)、脳炎(4000~6000人に1人)、血小板減少性紫斑病(3000~5000人に1人、ただし無症状で血小板数が低下している例は、本例のようにしばしばみられるようである)などが報告されている。特に風疹に免疫のない妊婦が妊娠初期に風疹にかかると、ウイルス血症で経胎盤的に胎児に風疹ウイルスが感染し、先天性風疹症候群(3大症状は白内障・緑内障、先天性心疾患、感音性難聴)をおこすことが問題となるため妊娠前に積極的にワクチン接種が勧められている。患者の妻が妊娠可能な年齢の場合、妊娠の有無を問診しておくことも重要である。
2018年には2012年~13年以来の風疹の大流行があった。感染者の多くはワクチン接種歴がなく、風疹罹患歴もない若年層で抗体を持っていない。30~50歳台の男性に多い。風疹の予防には風疹ワクチンを接種する。2006年6月から、小児に対して2回の麻疹・風疹(MR)混合ワクチンの定期接種が開始された。
風疹は五類感染症の全数報告対象疾患に分類されており、当初は診断後7日以内に届け出ることとなっていたが、流行しない早期に風疹を排除する目的で2018年1月から届出基準が変更され、医師は診断後直ちに届出を行い、保健所によってウイルス遺伝子検査を原則として全例実施し、1例発生した時点で積極的調査を実施することとなった。2019年度から30~50歳台の男性に対しては、風疹抗体検査が公費で全額補助されることとなった。抗体を持たない対象者にはワクチン接種を積極的に勧めたい。
解答(c)